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第81キロ  カシッパとカリッパ

一方その頃という話です。

「栄養大臣の方はヤリッパがどうにかしてくれますからね。……姉上、大人しく投降したらどうですか?」


集まって行動していたやつらに大量の雪をぶつけてやったのだ。

バラバラになった連中の中から姉を探しだした。流石に殺したいわけじゃない。


「それで、僕とヤリッパのやり取りの証拠はどうしたんですか?」

「あれはもう、光の王に渡したわ。」


その言葉にカッとなる。


「王に?!」


どうしてこの姉はここまで僕の計画を無駄にするのだろう。

それじゃあ……


「光の国も滅ぼさなければいけないじゃないですか!」


僕の言葉に姉が目を見開く。


「カリッパ!!あなたは、あなたは人の命を何だと思っているのですか?!」


それを問いたいのはこちらだ。


「ゴリッパの血筋でもない連中に、そこまでの価値はありません。我らの言うことを聞かない者も、我らを尊ばない者たちなんて価値がどうのという問題ではないのです。」

「そんなことはありません!!!」


姉は僕の言葉を遮るようにそう言った。

どうしてわかってくれないのか。どうして僕の言葉を遮るのか。


「姉上、あなたもゴリッパの血を引くものです。」


だから今まで我慢してきたのに。同じ血が流れているのだと思って、姉を尊重してきたのに。


「だけど、女であるあなたは僕の言うことを聞かなければいけない。それくらいは分かっていると思っていたんですけどね!!」


空気中の冷気を集めて姉に感情のまま叩きつける。姉は顔色を変えずにその冷気を受け流した。

ああ、どうして!!


「どうしてですか?あなたは、何も知らない、何も出来ない娘であればよかったのに!!」


気が付いたのはいつのころだろう。自分より下であるはずの存在の姉は、いつも自分より上にいた。勉強も魔法も、姉の方が上だった。僕が貴族の長としての立場を継ぐはずなのに、姉の方が相応しいというもの達がたくさん現れた。


「姉上が!何も出来ない娘だったら、僕はこんなに辛くなかった!!苦しくなかった!!」


実の姉に罪をかぶせて陥れようとしたり、あわよくば命を奪おうとなんて考えないで済んだのに!!


「私は、何もせずに死にたくなかったのよ。」


凛とした声が聞こえた。


「知識が無ければ、力が無ければ、殺されてしまうような状況。勉強も魔法も、私が生きるためには必要だった。」


僕が望むような生き方をしていれば、既に死んでいたのだと姉は言う。

そんなことが信じられるはずがない。だって、姉だってゴリッパの血を引くもので、僕が命の危険なんて感じなかった舘で、そんなことを思うはずがないのに。


「カリッパ。あなたは、根本で大きく間違ってしまっている。」


姉はそう言って僕に手を伸ばす。その手は、昔、一緒に遊んでた時に伸ばされた手だ。けれど、今は違う。姉はその手から冷気を凝縮させて僕に向けて放つ。周りにいた護衛なんて一たまりもない。あっという間に肩から下を氷漬けにされて身動きを封じられる。僕は自分からも冷気を放って、それを防いだ。けれど力の差ははっきりしている。


「その力だってゴリッパの血だからだろう!!」

「先天性のものが全く無いとは思っていません。でも、優れているのならさらに磨かなければいけないと思うの。」


姉は容赦なく、冷気を動かして僕に向かわせる。僕はそれをどうにか避ける。魔法の属性は同じ。魔法では姉には敵わない。

それなら!

僕は手元に氷でナイフを作り出す。冷気を避けるステップのまま、姉の元に飛び込む。

一撃で姉の行動を防ぐには……!!

僕のナイフは迷いなく姉の首元を狙った。


「家族の情があるのなら、命のやり取りはやめた方が良いですよ。」


パキン

と静かな音を立てて氷のナイフが砕け散る。

僕と姉の間に割って入ってきたのは


「お前は!!シタッパ!!」


戦闘態勢を改めて取ろうと思った時には体が何か弾力のある紐のようなもので拘束されていた。


「これは、感情?!」

「はいはーい。感情を碌に制御できないお坊ちゃんにはこれで十分ですよね!」


雪の影から出てきた女はそんなことを言った。

感情を碌に制御できないなんて、何を言っているのか。

女は近づいてきて僕の顔を覗き込んだ。


「実際に泣いちゃってるじゃないですか。」

「え……。」


その言葉に辺りを見渡すと、雫型の感情がたくさん落ちていた。雫型の感情は、悲しみの感情だ。


「お姉さん、殺したくなかったんでしょう?シタッパさんが止めてくれてよかったですね。」


自分でも理解できていないほど感情を指摘される。それでも僕は、それが理解できなかった。


「これで現行犯ですね!」


そんな女の声がぼんやりと聞こえる。

姉はどこか悲しそうな感情がこもった、それでも強い眼差しで僕を見ていた。


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