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第8キロ  肉についての実験を!

 さて共同研究の時間だ。


 肉は使う分を残して後は冷凍室に放り込んだ。蛇の死体が無くなったから個人的には気が楽だ。


 まずは俺の世界でもおなじみ鶏肉。とりあえずメイに鶏肉をメインにした料理を作ってもらいながら俺は化学式を書いた。


元の世界だと栄養成分を調べる時はそれぞれの食品にそれぞれの項目の実験を行うのだ。しかも中にその物質があるかの検査では無く、中にその成分がどれだけ入っているかの検査だったので中には結構面倒な検査もあったのだ。


(硫酸を扱う実験で、手持ち部分のゴムが溶けたこともあったなあ……。)


火気厳禁のエーテル室で先輩が煙草を普通に吸おうとしたのを必死に止めたこともあった。

クロマトグラフィーの板を均一に作るのに苦労したこともあった。

でも多分、メイならその実験をする必要はなさそうだ。

栄養成分の化学式さえあれば、それがどれくらい含まれているか分かるようだから。



 それでも色々と大変だったけれど。

動物の肉について知りたいのはそこに含まれるビタミンとミネラル。およびタンパク質とそのアミノ酸価だ。最初から全部を全部描くのも調べるのも大変だ。とりあえず取り急ぎ知りたいものを描いていく。アミノ酸価については大豆と卵という良質なたんぱく源が他にもあるから良いだろう。



 結果的に鶏肉は俺の世界の鶏肉とあまり誤差が無さそうな結果が出た。まあ個体差と言うものはどうしてもあるので数値がぴったり一緒と言うわけでは無いが。とにかく鶏肉は鶏肉として扱ってよさそうだった。


 「出来たぞ。こんな感じか?」

「うん!美味そう!!」


日本人だし、醤油と味噌は尊いと思う。しかし、たまにはちょっと違う味付けも食べてみたかった。塩は塩で別ね。でも俺は洋食だって嫌いじゃなかったんだ。と言うわけで


今日の夕ご飯は鶏肉のトマト煮です!


後は白米と味噌汁だけど……。

久しぶりに和食って感じじゃないものを食べて箸が進む。


「こういうのも美味しいな。」


メイもご機嫌だった。

まあ問題は俺がこの料理を食べてオリーブオイルやバターが欲しくなってしまったことかな!!


と言うか牛乳だ。牛乳があればバター、ヨーグルト、生クリーム……もろもろ乳製品を作り出せる。大豆があるからカルシウム摂取的な方面での重要度は高くないけど、食文化的な意味での重要度は結構高い。だって牛肉はあるのだ。つまり牛はいる。牛乳って白いし、光の国でも飲まれてそう!!とりあえず肉の解析が終わったら牛乳を探そう。



 次の実験対象は牛肉だ。注目点であった亜鉛とビタミンB12が期待値くらい含まれていて個人的には大満足だ。牛肉は味付けを塩のみでステーキにした。異世界なので安全面も考えて中までしっかり火を通したウェルダンだけど。元の世界ではミディアムが好きでした。


「ふんふふ~ん♪」

「ずいぶんご機嫌だな?」

「ステーキは俺の世界では結構ごちそう扱いだったんだぜ!」

「へぇー。」


メイは俺の食べる様子を興味深そうに見ていた。


「んー?食べ方変?」

「別に。」


メイは机の上で手を組んでその上に顔を乗せて俺を見ていた。


「お前、本当に感情零れないよな。」

「ん?うん。」

「そこまで嬉しそうなら感情の1つや2つ……零れそうな気がするのに。」


メイは何処か切なそうな表情で俺に向かって手を伸ばして空を掴んだ。俺の世界では感情なんて零れなかった。それが当たり前で、だから……メイが何を思っているのか分からなかった。


「でもさ、町に行ってみたけど誰も感情なんて零して無かったじゃん?」

「まあ普通は大体コントロールするからな。俺だって普通に喋ってれば感情零れないだろ。」


感情が一定以上の値を超えると感情がお菓子みたいな形で零れるんだろう。


「感情って美味しいからやっぱりお八つとして人気だったりするの?」


お八つの時に頑張って嬉しい!って思えるようにしたりするのだろうか。


「そう言うこともあるかもしれないが……結局のところ腹の足しにはならないからな……。」


感情はノーカロリー。触れても味があっても、そういう幻みたいなものなのかもしれない。メイの表情がどこか暗いのはきっと、感情だけでは生きられないという現実があるのだろう。たとえどんなに美味しくても5分経たずに消えてしまう感情。食料に困っている人達がどんなに感情を食べても……腹の足しにもならずに、飢えてしまうのだろう。確かに気を紛らわすことしか出来ないとメイが言うのも頷ける。


まあ俺の好物であるという事実は揺るがないのだけれど。


「感情の研究は専門外だし、そもそもそっちの研究はあんまり進んでないらしい。」


メイも詳しくないらしくとりあえず俺が食べた感情についても簡単な説明だけしてくれた。


驚きの金平糖

悲しみのドロップ

喜びのマシュマロ

何かよく分からないチョコレートらしい


チョコレートはいつの間にか零れるし、零れる時の感情はこれまで生きてきて感じたことが無いらしく本当に正体が不明とのことだ。




 さて次はウサギ肉である。日本でもウサギの肉は美味しいって話もあったし……。食べ慣れてないから臭みとかはあるかもだけど……。いや、それは鹿肉の方で気にすべきなんだろうか。味噌で味付けしてもらうとして……。


「ん。ウサギはウサギ汁にするか。」

「あ、はい。」


メイはこの世界の住人である。俺より料理の知識があるのはある意味では当たり前である。メイの醤油と味噌を駆使した料理は大体師匠から教わった物らしい。女の人だったようだけど……頭の中のイメージがもはや山姥である。森の奥に住む和食を作るおばあちゃんのイメージです。どうしよう。


(まあ、町の人が大豆に見向きしないなら大豆の加工品は町には流通していないのかもしれないしな。)


そうして出来たのがネギと人参とウサギの肉が入ったウサギ汁です。味噌仕立てです。


「ネギあったんだ……。」


今度栽培所の中の作物も確認しよう……。


「お、美味しい!」


ウサギは何かめっちゃ美味かった。想像してた臭みも無いし!!


「あの肉屋はした処理が丁寧なんだ。」


血抜きも上手で骨も処理してくれる。メイは少しどや顔でそう言った。



 ちなみにウサギの肉は牛よりビタミンB12が多かった。常食できるなら日々の献立に取り入れてもいいかもしれない。




 鹿肉の調理もメイに任せる。出来上がったのは鹿鍋。カッコいい感じに紅葉鍋とでもいうべきだろうか。確か俺の世界では生で食べるとE型肝炎の危険性があるとかなんとかだったか。とりあえず加熱されてるし安心していいだろう。具は人参とネギとほうれん草である。そう言えばあったな、ほうれん草。


「美味しい!!」


ウサギ汁とよく似てるけど肉が違うからか、だいぶ汁の味が違うし。そして……。


「隠し味にしょうが入ってる?」

「別に隠して無いけど入ってるぞ。」


しょうがも育てているようだ。とりあえずご飯が進む。癖があるかな~と思っていたけど本当に肉屋は優秀なようでクセも少なく思っていたより肉質も柔らかだった。調べた成分は赤みが強いことから予想は微妙にしていたけれど鉄が多めだった。とりあえずメイにいっぱい食べなさい、と肉を食わせることにした。


「そう言えば肉って赤いけど、カロテノイド色素じゃないよな。」


成分を調べたらしいメイが肉を食べながらそう尋ねてきた。


「ああ、肉の色素はヘム色素だな。」

「ヘム色素。」

「血の赤もそっち。」


ヘモグロビンにもこれが含まれている。それで鉄を中心にした構造をしている。この赤は酸素に触れると鮮赤色になる。出血時の血の色はこれだ。ちなみに海にいる生物とかで血が緑色の生物がいるけどあれは鉄じゃなくて銅を使っているかららしい。生物は多少嗜んだ程度なので詳しくは知らない。



 問題はここからである。ドラゴン肉とキメラ肉。栄養成分も味も全くイメージが付かない。


「ドラゴンの肉なー。とりあえずじっくりコトコト煮込んだ。」


何というか、ドラゴンの角煮とでもいうべきか。四角く切られたドラゴンの肉が茶色くてちょっととろみが付いたたれと共に出された。他の献立はほうれん草の味噌汁と、水玉の白和えである。何気にカラフルで目にも楽しい。


「おおー肉が柔らかい。」


箸がスッと肉に入って驚いた。


「肉質が部位によって大きく異なるからな。まあ今日はじっくり煮込んだからそんなに柔らかいんだけどな!」


誇らしげにするメイからはマシュマロが飛んでくる。とりあえず口でキャッチした。


「うーん……。」


少し味が濃い。しょっぱいというか何というか……。癖をなくそうとしているのは分かるんだけど。


「しょっぱいか……?」

「ちょっと……。」


でも味を薄くしたら癖が出そうな味な気もする。ちょっと調理法については考える必要があるかもしれない。

ドラゴンの肉はタンパク質的には他の肉と遜色なかった。鉄と亜鉛が多めだけど他の肉より高いらしいし、飛びぬけて数値が高い訳でもない。日常的に食べるには少し向かないかもしれない。だけど何か、ドラゴンの肉を食べると元気が出る気がした。栄養成分的には特に何も変わらないはずだけど、俺の世界にはない成分が含まれているのかもしれない。




 「キメラの肉は安いやつは大体ひき肉になってる。」

町の安い料理屋で正体不明の細かい肉は大体キメラの肉らしい。あんまり味が分からないくらい細かくされて濃く味付けされてるようだ。

「とりあえず……生姜焼きにしてみたぞ。」

薄切りにしたキメラの肉を生姜焼きにしたらしい。というかキメラの肉って何なんだろう。色んな動物の肉が混じったようなものなら栄養成分も毎回変わるのでは?


 キメラの肉はドラゴンの肉より癖が強くてしょうがの香りで何とか体内に押し込めたような感じになってしまった。


「キメラについては要研究だな……。」

「とりあえず常食には向いてないな。」


キメラの肉にはちょっと意外でビタミンDが多く含まれていた。だが俺としてはビタミンDは魚から摂りたい。キメラの味はしばらく遠慮しておきたいと思った。


ドラゴンの肉とキメラの肉については他の調理法を後日探す予定です。

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