第76キロ 雪の道にて
そうして俺たちは合流し、一緒に雪の国の集落を目指すことになった。
辿り着いた集落はレンガ造りの建物が並ぶ集落だった。
「雪国って感じだな……。」
「実際雪国だしな。」
思わずつぶやいた言葉にメイがそう答えた。
病気のせいか寒さのせいか出歩く人影は確認できない。
「カシッパ様?!」
そんな俺たちに向かって声がかけられた。
「村長の元に案内してください。蔓延する病を根本から叩きに参りました。」
集落に来た俺たちを確認しに来た大人の男だ。
カシッパとはどうやら顔見知りのようで、彼女がそう言えばすぐに俺たちを大きめの建物に案内してくれた。
「カシッパ様!!またこんな辺境の集落に来てくださったのですか?」
「はい。今回は今蔓延している病気を治しに来たのです。」
「光の国からの物資で被害は小さくなりましたが物資が届かなくなると……。」
カシッパがこちらを振り返る。フィールに目配せをすると頷かれたのでとりあえず今回持ってきておいたビタミンCの粉を村長に渡した。
ビタミンCを雪の国で生産する技術はまだ渡してはいけないらしい。ことが大きいので王との交渉をするのだとフィールが言っていた。
メイはグルコースからビタミンCを作り出す錬金術をどう伝えるか考えているようだ。
加熱しても壊れにくいビタミンCを含んでいて、寒さにも比較的強い食材。
俺はじゃが芋の育成を思い浮かべたが、さすがに氷点下での栽培は難しいだろうと首を振った。
(いや……ビタミンC以外はそこまで深刻な不足はしていないのか?そうだとしたら主食となる穀物などを育てることは出来ているはずだよな?四季があるのか?そうだとしたら保存技術もあるのか……。)
新しい作物の提案も一つの方法かもしれない。
ちなみに俺たちが食べていた芋は光の国から持ってきたものである。雪の国に何があるのかは分からない。
「カリッパと接触したということは、次はヤリッパも一緒に来る可能性が高いですね。」
まとめて捕まえてやります!とフィールが言う。
「守りの堅い雪の国の城に入る前に仕掛けてくる可能性が高いと思います。」
カシッパさんが頷いてからそう言った。
ヤリッパに攻撃されたこともあるし、さっきカリッパの攻撃も見た。マッチョンがいる以上、防御に不安はないし、フィールとも合流できたから攻撃面も補強されたはずだ。
「普通に大丈夫なんじゃないの?」
そう言えばフィールに厳しい目を向けられた。
「戦いの素人の実君。あなたが想像していることは誰だって想像できることです。それを実力が見合ってなかったかもしれないけど、軍人の将軍だった男が考えないと思いますか?」
「うっ……。」
言われてみればそうだ。勝てない戦いを挑んでくるほどの馬鹿だったら、こんなに苦労しないだろう。
雪の国を病気の恐怖で支配したいと考える男。そんな考えをする男が難攻不落のマッチョンを突破するために、何をするだろうか。
「物理防御力はもちろんだが、我には一応魔法耐性や状態異常耐性もあるからな。」
やっぱりマッチョン強い。
まあ体の構成要素とかが絡んでくる栄養関係の攻撃は効くみたいだけど……。いや、あれか。状態異常耐性があるなら毒は効かないのか。
マッチョンの罹患した脚気は不足症。過剰症には罹患しないのかも知れない。
例えば初期のころに行ったビタミンAの中毒によるモンスター退治。その戦法はマッチョンには通用しないと。
過剰症は急激に効果が出るが、不足症は緩やかにしか効果が出ない。過剰症にするならその場で一気に摂らせればいいが、不足症はそれを与えないようにして数か月その状態を持続し続けないといけない。
「やっぱりマッチョン強いな?」
まあ体の構成要素の分解及び、体内の電子の方向転換とかならワンチャン効果があるかもしれないけど。
「実さん、めっちゃ悪い顔してますよ。」
サラマンザラがそう言ってわき腹をつついてくる。
もこもこだからあんまり感覚ないけど。
「まあ俺が思いついた方法を、ヤリッパ将軍が思いつくとは思えないし……。」
そうなるとどういう手段に出るのだろうか。
「まあ、普通に考えれば無視ですね。」
「無視?」
「屈強な戦士の相手をしないようにする。つまり、状況や環境をどうにかしてくるのでは、と考えられます。」
フィールが少し得意げにそう言った。その次の瞬間。
「あ。」
声をあげたのは誰だっただろうか。
次の瞬間目の前が真っ白になった。