第73キロ じゃが芋を食べながら
「実さんって害が無いように見えて、毒があるタイプですよね~。」
焼いた芋を渡してきたサラマンザラがそんなことを言う。
それ、悪口だと思うんだけど。どういうことなんだよ。
アルミホイルに包まれた芋を両手でキャッチボールするようにして熱を逃がしながらサラマンザラを睨む。
「良い人だけど、善人じゃないっていうか……性善説よりは性悪説の方が似合いそうな気がするんですよ~。」
褒められている気はしないが、何となく同意できる。隙あらばこの栄養学がない世界で栄養学を悪用する術を考えてしまう俺は根っからの善人ではないだろう。
「そうか?」
メイが隣で少しぬるくなったであろう芋を両手に抱えながら首を傾げる。
「あー……メイさんにだけは分からないかもしれないですねー……。」
サラマンザラが苦笑いする。どういう意味だ、それ。
「屈強な戦士は逆に善人で良い人な気がします。」
「それはわかる。性善説というか、生まれた時から良い人っぽい。」
「まっすぐだもんな。」
マッチョンは素手で火の中から芋を素早く取り出しキョトンとした。
「ふむ。我にはそこまで詳しいことはわからん。考える意味もそこまであるものでもないだろう。我にとって、王にとって、民にとって、国にとって……実殿もメイ殿もサラマンザラも今現在、良いだろうことしかわからん。」
「「マッチョン!!」」
「屈強な戦士……!!」
さすがマッチョンである。そのすごい筋肉やらすごい防御力もすごいけど、カリスマも持ち合わせている。やっぱりこの中で一番まっすぐ属性的に善なのはマッチョンだろう。
「メイはどうなんだ?」
芋を齧るサラマンザラに聞いてみる。俺を結果的に良い人だとは言うが、性質的には善人ではないと判断する彼の答えが聞いてみたかった。
「うーん……?」
サラマンザラは少し考えてから
「ピュアっていうか……なんていうか……まあどちらかと言えば生まれながらに善なんじゃないですかねー……。」
と言った。うん。まあ、俺もそう思うよ。
「はあ?俺が善なら、実だって善だろ!!」
メイが立ち上がって抗議する。
「まあまあ。我とお揃いであるぞ。メイ殿。」
「うっ……。」
邪気なくマッチョンがそう笑うのにメイが気圧されている。
「まー、メイさんの実さんに関する評価はあれっすから。盲目ってやつですから。」
その言葉に首を傾げるのは俺だ。
「ん?メイは盲目じゃなくて夜盲症だったぞ。もう治療済みだけど。」
「なんですか?!その病気。」
そこで俺は思い出す。一応栄養補助のドリンクは持ってきているが、あれは美味しくない。出来ることなら食事から栄養を取り入れるのが良い。そのために用意したものもあるのだ。
「これつけて食べて。」
渡すのはニンジン入りのバターだ。ニンジンに火を通してペースト状にしてバターと混ぜただけのもの。一応メインはバターなのでそこまでのニンジン感はないと思う。
芋に乗せれば
「じゃがバター!!」
バターはビタミン発見の歴史で最初の方にビタミンAがあると言われていた物質だ。まあ確かにカロリーもあるけど油も体には必要だし、寒い土地でカロリーが足りないことはそのまま死につながるだろう。ニンジンのビタミンAも油脂と一緒だから摂取しやすいのではないだろうか。ビタミンAは脂溶性ビタミンだからな。
「うん!普通に美味いっすねー。」
「うむ。上手いな。」
メイもホクホクのじゃが芋にオレンジがかったバターをのっけてハフハフと食べている。うん、美味しそうで何より。
「やっぱじゃがバターって上手いな!」
俺も一口食べて頷いた。