第71キロ 氷点下の雪の国
そうして俺たちは雪の国に陸を行く竜車で出発した。基本的にマッチョンは元気に竜車の横を並走している。
……いいのか、それで。因みに寒いから走っているらしい。
「いや、マジ、ガチで寒い。」
馬車の中で俺とメイは縮こまっていた。一応火属性の魔石が設置してあって少しは温かい感じになっているのだが、場所の外は楽勝で氷点下なので寒いことには変わりがなかった。
「雪国系は行った事無かったら、正直舐めてた。」
メイが縮こまってそういうくらいには寒い。
なんかマフラーを巻かれたニジを抱きしめているが、大丈夫?ニンジン凍らない?
トントンとミズタマンを抱えるようにしながら思う。
いや、実際問題一番ヤバいのは水分量が多いミズタマンかもしれない。
この世界の植物の水玉は一応スイカの仲間のようだし……寒さには強くなさそうだ。
「下手に、魔石に魔力を注いだら魔石が壊れそうだよな……。」
メイが恨めしそうに魔石を見つめる。魔石の仕組みはよく分からないけど魔力関連なら確かにメイの魔力でどうにかなるのかもしれない。
「羽から零れ落ちてる魔力だけ注いでみるとか。」
人が息を吐き出すのと同じように零れる光の粒を指差せば微妙な表情をされた。もしかしたら目に見えている時点でかなりの高濃度魔力なんだろうか。俺は少し考えてみる。
「近くにある魔石の魔力に同調することによって魔力の属性を変えられたりしないかな?」
例え今、メイから零れる感情を食べてもカロリーにならないそれは身体を温めるエネルギーにはならないだろう。感情を食べても虫歯にならないのと同じように。それならやはり外部をどうにかしたいところで。メイは俺の言葉に少し考えてから
「俺の魔力は基本的に無属性なんだが……火属性ねぇ……。羽から零れ落ちるのが火の粉にでもなったら大惨事じゃね?」
竜車は木製である。確かに大惨事だな。
「魔力だってエネルギーなら熱を持たせられないの?」
そもそも光エネルギーって大概熱エネルギーを伴ってない?
火が熱いのはもちろん、太陽だって熱いし、電球とかも熱くなるし。いや、まあ違うのもいっぱいあるのか。官営栄養士は理系だけど光エネルギーとかについてまで精通していると思うなよ?
「錬金術師の作り出すのは大概物質だ。エネルギーを持った物質を作るとしてもエネルギーそのものをパパッと作れると思うなよ。」
ぎろりと睨まれる。
こうなったらもはや原始的に摩擦熱とかでどうにかするしかないのでは?
栄養学でどうにかなる寒さ対策ってあったっけ?体を温めるものを食べる。温かいものを食べる。エネルギーを作り出す三大栄養素を摂取する。
根本的に冷え性とかをどうにかしようと思うなら体の筋肉量を増やすのがやはり有効だろうか。そう考えればたんぱく質が重要で、いや、エネルギーを上手く作り出すためにもビタミン、ミネラルも大切だな。結局大体の考えはバランスの良い食生活で落ち着いてしまう。そう考えればバランスの取れた食事を出せる給食施設は優秀だろう。
「気を紛らわすためになんか話せ。」
ぼんやりしていたらメイにそんなことを言われた。ちょうど考えていたことを口にしてみる。
「給食施設って優秀かもしれない。」
「給食施設?」
この世界で給食は一般的なものではないらしい。
給食。学校で出るものをイメージする方もいるかもしれないが特定給食施設の話をしたい。
「例えば城で働いている人間に継続的に食事を提供する施設があるなら、それが給食施設かな。」
本当は栄養管理がされているかとか厚生労働省令とかの細かい基準があるんだけどこの世界では理解できないだろう。
……そう言えば俺の世界でも軍の人に食事を出してたりはしたんだよな。戦争中に戦いで死ぬより場合によっては栄養障害で死んでしまう人の方が多いと言う話があったのを思い出す。
(この世界で戦う兵士に俺が給食を作って提供したら、そういう死者はいない軍になるか……。)
あんまり良くないことを思ってしまう。いや、別にスポーツ栄養学専攻では無いので軍人を全員アスリートにするとかは無理だけど。
そんなことを考えていたら馬車が止まった。どうかしたのかと外の様子を伺えばサラマンザラが
「ここの岩陰で一泊しますよ~。」
と声をかけてきた。エコノミークラス症候群も恐ろしいし、一応馬車の中でも足を動かしたりはしていたけど、やっぱり外に出れるのは嬉しかった。
「まあ外は氷点下だけどな!!」