第70キロ 寒さ対策
「エルフの毒薬ってなんなんですか?」
襲ってきた男たちを縛り上げたシタッパさんが小林君に尋ねる。口元が引きつっている気がするけど……。
「エルフの霊薬とかそういうのって作るの難しいんですよ。失敗したら全部毒薬なのでこういう時の武器にしてます。」
小林君はニコッと笑う。まあエルフの知識の中でもちょっとディープな話ではあるので実さん達に聞かせたり見せたりする気はあまりないみたいだけど。
「エルフの霊薬ってすごく効くって言いますもんね。確かに調合を間違えたらすごい毒になるのかも……。」
「薬と毒は同じようなものなんだろうけど……。」
カシッパさんはふむ、と納得している。その横でシタッパさんは何とも言えない表情をしている。微妙に不服そう。
「ちなみに効能は毒、麻痺、眠りと複数ご用意しています。」
小林君はにっこり笑いながら荷物を撫でた。
「無差別に全ての馬車を襲うようになりましたね……。」
そんなに暇なのかとフィールが表情を歪ませる。生鮮食品を乗せた馬車を襲っていたのに病気が収束しだしたことにヤリッパ一味が焦っているらしい。
「うーん……。グルコースからの合成だから多分現地に行けば錬金術で作れるとは思うんだが。」
メイが腕を組んで眉間に皺を寄せる。そう、俺もメイも現地に行くのはやはりリスクが大きいのだ。俺としてはメイの安全の方が大切なので正直現地には行きたくない。……だけど……。浮かない表情のメイはやっぱり人を救いたいのだろう。手が届く方法があるのにそれをしないのが良心を苛んでいるのだ。やっぱりメイは優しいな。
「もしメイが行くなら、俺も行きます。ここで単独行動とか耐えられないから!!」
そう主張すればフィールがため息をついた。
「というか、多分現地に行って地元の錬金術とかの有識者と協力できればビタミンCの合成場が作れると思うんだ。」
「大分大きな外交問題を絡めてきますね?」
フィールが俺とメイを見てため息をつく。
「交渉とか、お二人とも苦手ですもんねー……。」
いきなりの断定形である。まあ確かにそうだけど。フィールはため息をつくと王様のところに色々報告しに行った。
「今回は我が実殿とメイ殿の護衛を務めよう。」
そう言うのはマッチョンだ。すごく安心感がある。マッチョンは王様からの手紙や交渉も行うそうだ。大丈夫なんだろうか、と思ったがそう言えばカリスマがあって光の国の各地を一人で回っていたことを思い出す。多分俺やメイのようなインドア派よりはコミュニケーション能力があるのだろう。
「お前そんなに厚着する必要あるのか?厚い脂肪で防寒対策バッチリなんじゃねえの?」
メイが何気に酷いことを言ってくる。そんな俺の世界のポケットな有名ゲームシリーズの特性みたいなことを言われても。
「知らないのか、メイ。」
「何を?」
「脂肪は温かくない!!温かいのは筋肉!!」
つまりマッチョンは温かくても、俺の腹は冷たいのだ。そもそも体型から分かってもらえるかもしれないが代謝が良いわけじゃない。どちらかと言うと冷えに弱い。でも暑さにも弱いです。めっちゃ汗かきます。
「俺は暑さにも寒さにも弱いデブなんだ!」
「自慢することじゃねえよ!!」
そんな俺たちは防寒対策仕様だ。ヒートテックというものがあるのかは知らないが、ちなみに肌が弱い俺は地肌には着れません。
太っている俺がさらに着ぶくれてブクブクである。足元を見ようとしても着ぶくれた腹で上手く見えない。靴もスノーブーツ的なものだ。裏地がもこもこなコートにはフードがついていてそれを頭から被らされている。
因みに俺は全体的にオレンジでコーディネートされている。メイも俺とほぼ同じ格好だが色は全体的に黄色い。髪も目も黄色いからなんかすっごく黄色尽くしである。ただ羽の部分がもこもこに包まれている。
「ウィングマフラーだそうだ。」
物珍しそうに見ていたからかメイが答えてくれた。
「行く道は地上ですが馬車は心もとないんで、地面用の竜車で行きますよ~。」
運転は任せてください。一応兵士なんだろう。サラマンザラも防寒用の服を着ていたが、俺たちより動きやすそうでいつもの鎧も付けていた。
「一応兵なんだな~って視線やめてください。」
まあ確かにメイは何かめっちゃ強いから置いておくとして、俺よりはサラマンザラの方が強いのは確かだ。そう言えば見たことがなかったけど、もしかして一応兵士なサラマンザラは意外と筋肉があったりするのだろうか。腹筋が割れてたり……?まあ俺の腹はぷにぷになんだけど。というか、あれか。マッチョンやらマッパンやらフィールやら規格外が多すぎるのか。
「まあ、頑張れ!」
「いつも頑張ってますよ~!」