第61キロ 将軍再び
俺は町から帰るために森を歩いていた。森に入って少しした時シュッとミズタマンがツタを伸ばした。何だろう?何か捕食してたらどうしよう。
そう思いながら振り返るとそこには予想外の人物が立っていた。
「あんたは……!!」
良い思い出などあるはずがない。そこにいたのは俺とメイをあの時乱暴に連行した男。ヤリッパ将軍だった。
(確かこいつは俺たちとの接触を禁じられていなかったか?もしかしてもう罰の時期は過ぎたとか?)
「いきなりご挨拶だな?栄養大臣?」
ミズタマンはどうやらヤリッパ将軍の槍をツタで奪ったらしい。ナイス!とか思っちゃうんだけど。
「えーっと。何の御用でしょうか?」
尋ねればヤリッパ将軍は俺を馬鹿にするように笑った。
「相変わらず察しが悪い。王の命令であなたを北の雪の国にお連れするようにと。」
あの王が、そんな有無を言わさぬ命令をするとは考えにくい。
そうなるとやはり、ヤリッパ将軍はうそをついている可能性が高い。
そもそも王都からの騎士としてサラマンザラが町に駐留しているのだ。何か用があるなら彼を使うだろう。
俺は視線を動かす。ミズタマンとトントンがいるから無抵抗に連れて行かれはしないだろうけれど、どうしたら上手くこの場を脱出できるだろうか。一応将軍といわれる男だ。マッパンやマッチョンより弱くてもフィールと同じくらい強い可能性はある。逃げるなら大切なのは機動性か。
「ミズタマン!全力で逃げろ!」
言うが早いか、ミズタマンが俺の腹にツタを回した状態で木を使って俊敏に移動する。トントンは肩にしがみついている。めっちゃ腹にツタが食い込んで切れそうなほど痛いけど、今は我慢するしかないだろう。これ、周りから見たらハムとかチャーシューみたいになってないかな?後ろから舌打ちが聞こえて視線をそちらにやる。するとヤリッパ将軍が何もないところから槍を作り出しこちらに投げてきた。まさかの手槍生成能力なんですけど?!そのうち1つがこちらに飛んでくる。当たると思って目をつぶろうとした俺の前にトントンが飛び出した。
「トントン?!」
飛んできた槍は大きく膨らんだトントンに命中した。
「トントン!!!」
膨れた体は打撃にはワンチャン強くても刺攻撃には弱いのではないだろうか。落ちていくトントンを掴もうと手を伸ばす。けれど今は逃走中。俺の手はトントンに届かなかった。
「トントーン!!」
叫ぶ俺の目の前でトントンの体にシュルリとツタが絡みつく。そうして持ち上げられ俺の体に縛り付けられる。
「ミ、ミズタマン!!」
感動してミズタマンを見ればミズタマンはどこか誇らしそうに水玉模様を輝かせた。そして当たったと思って気を抜いたのだろう。少し速度が下がったヤリッパ将軍とぐんぐん差をつけて逃げ切ることが出来た。俺はトントンを抱えて研究所に駆け込む。
「メイ!!」
俺の腕の中でトントンはいつものサイズより少し大きくなっていて、そこに不似合いな槍が刺さっている。
「っ?!何があった?!」
とりあえず綺麗な布を広げ、そこにトントンを置くようにメイが言う。メイが大樹に呼び掛け結界を強化した。
メイがトントンの怪我を見ようと槍が刺さっている腹の方を見ようとする。
「へ?」
カランと槍が地面に落ちた。驚いているとトントンがキュッといつもの小さなサイズに戻った。そして元気そうに飛び跳ねる。
「え?怪我してないの?」
トントンは頷く。どういうことなんだろうか。メイは少し考えると
「おそらく巨大化してその毛や肉で飛んできた槍の柄の部分を瞬間的に受け止め、自分の体には届かないようにしたんだろう。」
と言った。正直、意味が分からない。
腹の肉でリモコンとかが挟めるのと同じような状態なんだろうか。
「トントンは防御特化型のブラックピックだからな。」
そう言われた。つまり防御のスペシャリストなのか。
「さて、トントンは無事だったわけだが、何があった?」
メイがソファに座って尋ねてくる。うん。俺も落ち着いたから話そう。
「ヤリッパ将軍が……。」
俺が一通り話し終わるとメイはフムと頷いた。そして何やら石に向かって
「らしいが、どうだ?王様から命令はあるのか?」
と言った。
ん?
「あるわけないわよ!あったらサラマンザラに連絡するか、この通信で話してます!!」
「え?!」
フィールの声が石から聞こえて驚く。
「通信用の魔石だ。」
メイがそう言って徐に立ち上がる。
「メイ?」
「ちょっと、行ってくる。」
戸惑っていると魔石から
「ちょちょちょ!!止めて!!メイちゃん止めて!!」
「潰れる!!ヤリッパ将軍、物理的に潰されます!!」
と声が聞こえたので慌ててメイを止めた。