第6キロ 魔力仕掛けなメイの家
一応ここにやってきてからドタバタしたものの2週間近く経っている。こうなると大体メイの家の構造が分かるようになってきた。
1階から上の地上部分。池と図書館がある空間だ。メイ自身は飛べるのでどこの本でもひょいひょい取れるらしい。そうなると羽が無い俺はどうすればいいのかと言う話だが。
「俺だって飛びっぱなしは疲れるからな。これを使ってる。」
メイはそう言うと隅っこに置いてあった木製の三日月型の船みたいなものを指差した。
「なにこれ?」
簡易的なベッドかイスか……。そう思っていると三日月型のそれはフワッと地面から5センチくらい浮いてこちらに移動してきた。
「なにこれハイテク!!」
「魔力で飛ぶ装置だ。家を出る時に持ってきた。」
メイが作ったものでは無く、メイの住んでいた場所で購入したものらしい。作ったのはその町の錬金術師らしい。メイは作らないの?と尋ねたら諦めたような笑顔で
「俺には作れないよ。」
と言われてしまった。なんだか胸が苦しくなるような表情だった。
とにかく浮月と言うらしい装置はメイの魔力で動くらしい。俺のことも使用者に登録してくれたらしいので俺も乗れるそうだ。本をとるために身を乗り出すこともあるだろう。浮月には安全装置が付いているらしく。落ちても安心だとメイは言った。
「たまに浮月に乗ってかなり上の方で寝るんだけど」
「何故そんな無茶を……。」
「気分転換だな。そこで寝返り打って浮月から落ちても」
「寝返りで落ちるレベルなんだ?!」
「浮月が地面に落ちる前にキャッチしてくれるから大丈夫だ!」
「キャッチするの?!」
どうやら落ちるとそれ以上のスピードで降下し、フワッとキャッチしてくれるらしい。とりあえず俺は必要以上の使用はやめておこうと思った。……またはリーダーとかに下で見守ってもらおう。
そしてメインは石造りの地下である。研究室も住居スペースも地下なので仕方ない話だけど。しかも栽培所と言う名の畑も地下にあるのでかなり広い。
栽培所は主にリーダーやニジ、その他の人参の使い魔の住処であり、彼らが管理する空間である。そのためまだ奥まで入ったことはなく全貌は明らかになっていない。
地下でも植物を育てられる理由を尋ねれば人工太陽によるものだと言う。これも錬金術の技術による装置らしい。人工太陽に使用者を登録すれば後は魔力で自動で作動するらしい。その空間に太陽が出ているような効果をもたらすとのこと。何かすごい技術だ。これもメイが故郷で購入したものらしい。
そのほか低温暗所な保管庫、もっと低温の冷蔵室、大蛇のバラバラ死体が保管されている冷凍室がある。ちなみに此処の各種装置も錬金術の技術の賜物である。
台所、ふろ、トイレもある。こちらは一般技術によるものらしいけどこれを動かすのもメイの魔力らしい。……もしかしてこの世界って魔力が無いと生きていけない系なんだろうか。
寝室にはベッドと服とかを入れる棚がある。俺はその部屋に置いてある何かモフッとしたクッションに埋もれるようにして寝ている。……俺のベッドはまだない。
そして研究室だ。当初色んな紙や本が散らばっていた場所である。こっちも研究設備が色々あって全貌は明らかになっていない。
手前側の一部は天井がガラス張りになっていて、ガラスの上は水で満ちている。一階部分にある池の底はガラス張りになっているらしい。メイはその天井の下の空間を好んでいる様で空間に置いてあるソファにニジを抱えて転がっているところを多々見かける。
「空は自由に飛べるけど、水の中じゃ自由に泳げないから。」
水の中は空を飛べるフェアリーにとっての憧れの一つらしい。
でも確かに昼間、地上の窓から入ってくる外の光が池の水を通して差し込む光景は俺も良いと思う。ゆらゆらキラキラ輝く光。メイはそんな光の下で、金の羽を伸ばして嬉しそうにそんな水面を見上げるのだ。
研究室の場所にはよく分からない装置が色々置いてある。俺は出来る限りそれらには触れないようにしている。実験道具はデリケートなものが多いからな。下手に触らない方が良いだろう。
この世界の錬金術師は色んなものが作れるんだなと俺は感心した。そしてちょっと考えることがあった。メイは以前に自分を落ちこぼれ的な言い方をしていた。それはきっとそういう物があんまり作れないからなんだろう。
まあ個人的には化学式を見せたらその成分が含まれてるか分かるとかすごいと思うんだけどね。とりあえずメイにとってその辺りはコンプレックスで、あまり触れられたくないことなのだろう。俺は静かにそこには無暗に踏み込まない方が良いだろうと判断した。
さて、俺は自分のダイエットよりも大事なことがあると薄々思っている。そしてそれは俺のダイエットより優先事項だ。そう、メイのことだ。
メイの食生活は俺と出会うまで大豆の味噌汁と白米だった。そしてメイよりはるかに多くの白米を食べている俺も無視できない問題がある。
今食べているものは主に大豆、白米、トマト、カボチャ、人参、水玉、卵。食生活を豊かにするためにもだが、それ以前に健康に生きていくためにさらなる食材の確保が必要だった。まあ豆腐を食べていたからタンパク質も大丈夫そうだけど。野菜も緑黄色野菜だけどビタミンCも取れてるだろうけど!!
……それでもちょっとビタミンDとビタミンB12とビタミンB1辺りが不安だった。後は鉄と亜鉛かな。これらは動物性食品から摂りたいビタミン・ミネラルだ。森で動物をとるのはダメって言われてたし。ちなみにカルシウムは大豆から摂れる分があるはずだからセーフと考える。後は土壌がどうなってるかちょっと微妙だからヨウ素も要注意かもしれない。
とりあえず動物性たんぱく質をどうやって入手すべきだろう。ビタミンDは魚やキノコをとったり日光を浴びればいいかもしれないけど……。
そう言えばメイと出会った時彼女は俺を町に連れて行こうとしていなかったか。あめいかも売っているという噂の町だ。多分なんかお肉ぐらい売ってると思う。
「と言うわけで!!メイ、町に行こう。」
「は?」
メイは怪訝そうな表情をしてため息をついた。
「必要なものでもあるのか。」
「えっと……動物のお肉が欲しいです。」
そう言えばメイは確かにって感じな顔をした。だよな?動物のお肉が無い自覚はあったんだな?
「うう……。気は乗らないが仕方ないか。準備するから少し待て。」
と言うか町に行くなら他にも色々やってみたいことがある。
「俺、自分のベットとか服とか欲しいんだけど。」
俺は自分が来てたTシャツとズボンと下着。それらを洗ってる間はよく分からない大きい布をワンピースのようにして着ていた。
「衣食住ってやつか。」
「衣食住ってやつだね。」
どれもボーダーラインぎりぎりな感じだ。まあ俺に金は無いので、断られても仕方ないんだけど……。
メイはファイルを開いて俺が描いたレシピを見ていた。
「まあいい。この前の蛇を売って肉とお前の生活用品を買いに行くか。」
「おお!」
そうして準備が整った。俺は普段通りの恰好。メイは羽を縛って頭に麦わら帽子を被っていた。そうして初めてあった時のような黄色い半袖Tシャツ、深緑の短パン、白のハイソックスの姿をしていた。麦わら帽子も相まって夏の草原を歩いて欲しい感が出ている。
しかし、問題はそこじゃない!!
「メイ、こいつらは何なの?!」
俺たちの後ろにいるのは何か農家っぽい服を着たリーダーと黒のスーツで格好つけているニジだ。
「別に使い魔を連れて行くことは変じゃないし。」
「ええぇー?」
「それにリーダーが来なかったら誰が蛇の肉を運ぶんだ。」
そうでした。
俺は納得した。
「いやいやいや、じゃあニジは?」
「え?……俺の精神安定剤的な?」
「お……おお……。」
ニジをちらりと見ればなんかファイティングポーズをとっていた。ニジ自身はボディーガードのつもりらしい。
「じゃあ行くぞ。他の人参に留守番は任せてあるし、良いだろう。」
「あ、うん!」
俺はメイの後を追った。そして何となく思った。
俺たちの身長差はあんまり無いけど、それでも麦わら帽子を深くかぶるメイの金髪が見えないな……と。
俺はそれを何となく残念に思った。