第57キロ 田中花子の不安
「メイさん、あの……次郎君、えっと小林君は元気ですか?」
男どもが他の作業をしている時に花子が俺に聞いてくる。
「ん?元気だぞ。忙しそうだけどな。」
主に俺たちのせいだが。そう言うと花子は安心したような、それでも少し心配そうな表情をした。
「小林さんは花子に来て欲しいって言ってたぞ。」
そう言えば花子は苦笑した。でもどちらかというと嬉しそうで頬は少し色づいていた。必要とされて嬉しいなら素直に頷けばいいのに。
「そ、それで小林君って今、周りにそれっぽい人とか……いますか?」
それっぽい人とは?首を傾げると花子は顔を赤くする。さっきから顔を赤くしてるけど肌が黒めだから分かりづらいな?
「え、えっと!!恋人とかです!!」
花子は恥ずかしそうにしながらそう耳打ちしてきた。
そうか。それが聞きたかったのか。だけど
「し、知らない!!小林さんのそういうの見たことないし!!多分いないんじゃないかな?!」
そう!知らないのだ。むしろ小林さんから自主的に名前が出たのはお前だけだぞ!田中花子!!というか!今は自分のこともあってこういう話はいっぱいいっぱいになるからやめて欲しい。
「メイさん……いえ、メイちゃんも恋する乙女ですよね?!コイバナとか!相談とか!私としましょう!!」
一体どこからそんなこと感じ取ったんだ?!この女!!
こうして何だかんだ良いながら俺にコイバナをする相手が出来てしまった。
今までも食べていた食材の新しい調理法というのは、まったくの新しい食材を浸透させるよりよほど楽だった。メイがゴールデンフェアリーであることを隠さないことも、田中花子さんが医療関係の知識を持っていたことも幸いしてトウモロコシの新しい食べ方は集落にあっという間に広まった。1か月も経たないうちに皮膚の症状などのナイアシン不足の症状が治まりを見せだせば、集落の人たちはこぞってトウモロコシをクレープ状に加工して食べるようになっていた。
メイが村にいた技術者とドワーフのお爺さんと一緒に開発した少ない水でアルカリ処理できる機械も好評らしい。お爺さんはメイに言った。
「お前さんの魔力の使い方は兵器の運用や大魔術には向かんな。小さい分子レベルのことをいじる方が得意なんじゃよ。」
それはきっと大きい魔術で国を吹っ飛ばしたり、でっかい兵器を作ったりすることを期待されていた彼女にとっては予想外の才能だろう。けれどそれは決して小さな力じゃないんだと俺は思うんだ。
さて―――――
「肌も綺麗になったんですから、小林さんのところまで来てくださいよ~。」
「無理です!!私みたいなダークエルフが光の国に入るなんて!!」
すっかり肌の炎症も収まった田中さんはそれでも何かと理由をつけて小林さんの診療所に行くのを拒んだ。個人的には問題解決をしたのだから、ついてきて欲しいんだけど……。
そんな田中さんにメイがため息をついて歩み寄っていく。それから耳元で何かを囁いた。次の瞬間田中さんが真っ赤になってポンッとチョコレートが飛び散る。
「メイ以外のチョコレートの感情初めて見た気がする。」
「あ~……。俺は大体読めましたよ。」
「え?」
首を傾げている俺のところにメイが戻ってくる。
「花子、来るってよ。」
「そっか!小林さんに良い報告が出来るな!」
そう言えば田中さんはますます顔を赤くした。