第56キロ 田中花子はトウモロコシの新レシピを覚えた!
見た目は普通の人間。多分人種もすごく太ってはいるが普通の人間族であり、フェアリーでもエルフでもドワーフでもない。それは良い。しかし知らない知識をたくさん持っている彼は何者なのか?どこから来たのか?尋ねられても俺は答えることが出来なかった。
出会ったのは森の中。意味が分からないことしか言わないけど、素の姿の俺を見てもゴールデンフェアリーだと認識しなかった男。それでも一緒にいさせて欲しいって言われて、そしたらなんか研究の利害が一致して、研究所を作ることになって。一緒にいないと落ち着かなくなって、俺が過去に向き合った時にそこまで迎えに来てくれた、そんな大切な人。俺が……チョコレートの感情をこぼす唯一の人。
でも、俺はあいつのことは何も知らない。食べることが好きだとか、甘いものが好きだとか、ダイエットを頑張ってるとか、栄養学を教えてくれるとか、笑った顔が可愛いだとか、意見は意外とはっきり言うだとか、そういうことは知っているのに、彼の出生だとか過去は全く知らなかった。いや、過去なんてどうでも良いのだけど、だけど―――――――。
「いつか実が元いた所に帰ったら……。」
そんな日は考えたくもない。けれど、実の過去を知らないからそんなことは無いとは言い切れなかった。
「とりあえず……良いやつだ!!」
そう言い切った俺に爺さんは苦笑いして、
「そうか、良いやつか。」
と言った。とりあえず協力してくれるようだ。
さてダークエルフの集落に一気に広めるのは大変そうだし、まず陥落させるべきなのは花子だろう。田中花子。少し引っ込み思案だが小林さんが見込んだ看護師だ。エルフやドワーフの差別にも寛大かもしれない。俺たちは一度ダークエルフの集落に戻ることにした。
「皆さんいつも忙しそうに出かけてますよね。」
収穫したトウモロコシを籠に入れていた花子はそう言って首を傾げた。そんな彼女に実が口を開く。
「田中さん、トウモロコシの新しいレシピがあるんです。是非作ってみませんか。」
「え?」
「上手くいけばその肌荒れも治るし、集落の夏場に増える死者も減らせるかもしれません。」
その言葉を聞いた花子は戸惑いながらも頷いた。花子はドワーフの爺さんを見ても驚かなかった。
「そう言えばトウモロコシは元々ドワーフの方たちの地方からの食材らしいですね。」
なんて言いながらレシピを学んでいた。個人的に身長が低いドワーフがどうやって背が高いトウモロコシを収穫していたのか謎なんだが……。あれか、そこにドワーフの技術力が光るとかそんな感じか。俺自身、錬金術師で色んな道具を使ったりするから何となく納得してしまう。
「なにこれ!すっごく美味しいですね?!え?トウモロコシでこんなパンみたいなの作れるんですか?!これ、何か巻いたら絶対美味しい!!」
「おお!意外とわかっとるのう!確かに元々色んな具を巻いたりして食べとったぞ。」
いつの間にか爺さんと花子はめっちゃ意気投合していた。
なんだこれ?でも確かにトウモロコシであのクレープみたいな生地、そもそもパンみたいな生地が作れることが不思議ではある。実に尋ねてみると
「アルカリ処理は粘弾性とかがアップするからああいう捏ねれる生地になるんだ。」
と言われた。確かに実は誰も知らないことを知りすぎている感はある。この世界のどこにいたらそんな知識を得れるのかと思う。それにしても
「アルカリ処理にはたくさんの水が必要なんだな……。」
たくさんの水を確保する術が必要かもしれない。さらに言えばアルカリ処理した後の水は捨てているので環境問題も少し気がかりだ。そうなると光の国の浄水技術や俺の里の技術でどうにかなるだろうか。
そもそも米のもちもち具合を左右するでんぷん、アミロースとアミロペクチンは錬金術の分子とかを魔力でいじる技術で変換することが出来たのだ。その辺りをよく考えれば水をあんなに大量に使わなくてもアルカリ処理ができるかもしれない。ちょっと良く考えようと思った。