第55キロ 彼は一体何者か
「ふむ。お前の言っている、とるてーやとか何とかいうのはあれじゃな。トウモロコシを粉にしてクレープっぽく焼いた奴じゃな。」
「そうです!」
お爺さんは理解が早かった。お爺さんはダークエルフの集落から徒歩20分くらいの場所に住んでいた。二階建ての家で一階には工房がある。
「エルフとドワーフは仲が悪い。けれどドワーフの腕はエルフも知っとる。他のドワーフはあまり来ないから、ここでは結構商売が捗るんじゃ。」
お爺さんはそう言った。
「重曹は小麦粉には使うが……トウモロコシにはこっちじゃな。」
お爺さんが出したのは白い粉。グランドに線を引く粉っぽい……。
「石灰ですか?」
「まあこれは消石灰じゃな。」
消石灰。確かこんにゃくの凝固剤にも使われていた気がする。アルカリ処理。言葉と一応の知識としては知っているが、加工食品の授業は受けたけどジャムとか飲み物についてだし食文化については食虫文化やらカニバリズムしか習ってないからね!
「これをトウモロコシと一緒に煮て、一晩おくんじゃ。」
流石に一晩お世話になるわけにもいかない。俺たちはまた次の日に来ると言って、ダークエルフの集落に戻った。今日のメインは焼きトウモロコシだった。
「一晩おいたこれをすり潰して生地を作るぞ。」
トウモロコシを粉にして乾燥させ、その粉に水を加える。そうして出来た生地を薄く延ばして焼き上げれば……
「「「おおー!」」」
「確かにクレープっぽいな!」
「これならナイアシンが摂れるんですね~。」
とりあえず作り方は分かった。分かったけれど……
「これ、お爺さんに直接ダークエルフの里に教えてもらったほうが良くない?」
俺に人に教えられるほどの技術があるとは思えない。とりあえずレシピとして書き起こしたけれど。
「いや、だから基本的にエルフとドワーフはあんまり仲が良くないんすよ。」
「でも商売になるからここにいるなら商売なら教えてくれるんじゃないかな。」
「いや、お爺さんは良いとしてもエルフはどうですか。自ら学ぶわけでもないのにドワーフに学びますかね。それにここは光の国の外ですよー。栄養大臣の肩書は通用しません。」
そう言われると困ってしまう。人種間の問題は根深そうだし、だからと言って俺が微妙に教えてもどうにかなるのだろうか。
「……俺が行く。」
静かにそう言ったのはメイだった。驚いてサラマンザラと共にメイを見てしまう。メイは頭にかぶっていた麦わら帽子を取った。きらりと魔力の粒がぽろぽろ零れて空気に溶ける。そして更に金色の髪を輝かせる。
「だ、駄目だよ!危ないし、それにメイは人前に出るのが得意じゃないじゃん。」
何よりゴールデンフェアリーとして扱われるのが嫌いじゃないか。メイは俺を見ると苦笑した。
「もう大丈夫だ。ゴールデンフェアリーがどうのとか言う話は実家の里が問題だったんだ。だから」
メイが俺を見て少し目を細める。きらりと金色に輝くその瞳に映る感情は決して後ろ向きなものでは無かった。
「実が……迎えに来てくれたから、大丈夫。」
「……え?」
どういうことなのか聞こうとしたらメイはバッと後ろを向いてしまった。メイから溢れた感情が顔に飛んでくる。
「いてっ」
「お、俺、さっそくお爺さんに話してくる!!」
メイはそう言って走って行ってしまった。飛んできた感情はチョコレートで中にはマシュマロが入っていた。
「爺さん!!俺たちに協力してくれ!!」
俺は爺さんが作業をしている所にバーンと入った。まだ顔が熱い気がするが、走ってきたからだと誤魔化したい。爺さんはびっくりしてこちらを振り返っていた。金平糖が散らばっている。
「なんじゃ?!」
「爺さんの技術がダークエルフの集落を救うかもしれないんだ。どうか、協力して欲しい。」
羽を広げ、金の髪と金の瞳と金の羽を見せつけるようにして頼む。しかし爺さんは驚かなかった。
「お前さんがゴールデンフェアリーなのはわかっとったよ。」
「え?」
爺さんは作業している手元に視線を戻した。
「重曹をとってくれた時から分かっていた。お前さん、光の国の栄養大臣のメイというフェアリーじゃろ。」
そこまで知られていることにこちらが驚く。
「ゴールデンフェアリーは基本的に里から出てこない。そもそも数が少ない。100年に1度しか生まれないという話もあるほどじゃ。そのゴールデンフェアリーが堂々と歩いとる。そうなると既に相当の功績をあげて、何らかの地位を確立しとる可能性が高い。」
そんなゴールデンフェアリーは俺しかいないのだと爺さんは言った。そう言われるとそうかもしれない。
「別にお前さんがゴールデンフェアリーでもそうでなくとも協力はしてやろう。」
「爺さん!!」
「ただ、一つ聞きたいことがある。」
爺さんが作業の手を止めて振り返る。
「聞きたいこと?」
「もう一人の栄養大臣……秋野実は何者じゃ?」
「……え?」




