第54キロ アルカリ処理が出来るかな?
さてナイアシンをどうやって摂って貰うかだけど。
「もしかしてまたナイアシンを多く含む食材を見つけて流通させるとかですか?あれ、結構大変だったんですけど。」
サラマンザラがうげっと舌を出しながら言った。確かにその方法も悪くはないけれど
「トウモロコシの場合はもっと簡単。ニシュタマリゼーションすればいいんだ。」
「は?」
「つまりアルカリ処理です。」
こう言っても分からなそうだけど。
「アルカリって酸性の反対のアルカリか?食べ物ってアルカリ性で良いのか?」
メイがそう聞いてくる。確かに多くの食品は中性、および酸性だ。すっぱいものは結構酸性だけど確かにアルカリ性の味って想像がつきにくいかもしれない。俺も苦いって話は聞くけどあんまり知らないし。
「まあアルカリ性の食品と言えばピータンとかこんにゃくとか。」
「こんにゃくか……。」
メイがふむ、と頷く。因みにこんにゃくは灰を混ぜて作っている。じゃあトウモロコシにも灰を混ぜるのかと言う話だけど、まあそう言う作り方もあるって聞いたことがある気がするけど、個人的にはかん水の方を推したい。
「かん水?」
「水ですか?」
サラマンザラとメイが首を傾げる。
「うん。アルカリ性の水。」
確か炭酸ナトリウム及びリン酸塩のカリウム塩またはナトリウム塩を一種以上含む食品添加物とかなんとかだった気がするけど俺ですら上手く分かってないので口には出さないようにしておく。うん。確か重曹で出来るはずだし。そうこう話しているうちに日が暮れてしまって夕食の時間になってしまった。花子さんが持ってきてくれた夕食は茹でトウモロコシを中心にした食事だった。
そうして俺たちは重曹を店に買いに行くことにした。エルフの集落がいくつかあるこの地域には大きめの店がいくつかあるという事でそこに行くことにした。ダークエルフの集落で重曹のことを聞いたら首を傾げられたので……。
重曹はどこだろうと探していると高めの棚のところに重曹と書いてある缶があった。取りたいけど、俺の身長だと届かなそうだ。店員さんに声をかけるか悩んでいるとパタッと微かにはばたくような音がした。
「これが重曹だな、実。」
振り返ればそう言って重曹の缶を持って笑うメイがいた。あれ?何このイケメンオーラ。普通逆なのでは?身長はメイの方が低いし……ってあれか、メイは飛べるからそこは関係ないのか。
「ところでアルカリ性の水……かん水って言ってたけどそれを混ぜるのか?」
メイは怪訝な顔をしている。けど中華麺っていうのは大体かん水が入っているのが特徴だったりするのだ。確か入れると色がフラボノイドの関係で黄色くなって、独特の香り、それから滑らかさと粘弾性が出るとかそういうものだったはずだ。つまりトウモロコシに入れても不味くはないはず!というかトルティーヤの生地とかもアルカリ処理されてるはずだし。
「どうしてアルカリ処理?でしたっけ?それをするんですか?同じもの食べてるのに何か処理すると変わるんですか?」
聞いてきたのはサラマンザラだ。
「アルカリ処理するとトリプトファン……体内でナイアシンになる成分の吸収がしやすくなるんだ。そうすればペラグラの発症も抑えられるはずだ。」
と言いつつ、正直に言ってアルカリ処理の方法が正確には分からない。よく分からない何かが出来上がっても、流行らせることは難しいだろう。本当は何かプロがいれば良いんだけど。
「家でやる分には実験道具も揃ってるし回数もこなしやすいけど、この辺じゃ面倒だよな。」
さてどうするか。
「重曹って掃除のイメージがあるんですが、料理にも使うんすね~。じゃあここで待ってみて、料理に使ってる人を捕まえてみるのはどうですか?」
「え?」
「だって料理に重曹使ってるなら、アルカリ処理?とかしてそうじゃないですか。」
その言葉にちょっと納得する。普段から料理に重曹を使っている人なら、重曹の使い方に長けているかもしれない。
「あの、重曹料理に使いますか?」
「え?掃除に使いますけど。」
「重曹、お料理に入れますか?」
「掃除に使うよ。」
「重曹何に使ってますか~。」
「洗濯とか……あと消臭にも使ってます。」
色んな重曹の使い方が知れたけど、料理に使っている人は今のところ見つからない。それにしてもエルフって一言で言っても色んな人がいる様だ。絵にかいたようなイメージ通りの金髪で色白なエルフさんもいたし、緑の髪のエルフや、黒髪で肌も黒いダークエルフさんもいた。あと、何か肌の色が青いエルフさんもいた。あの人の血の色は何色なんだろうか。そう思っていると
「?!」
「おお!なんか実に似てる奴来たな。」
「いやいや、あの人俺より小さいよ!!メイと同じかそれより低いような……。」
重曹売り場にやって来たのは小さなお爺さんだった。別に背が縮んだとかじゃなくてそれだけで完成しているような感じの体型で……
「あの人ドワーフですよ!!?」
驚きの声をあげたのはサラマンザラだ。ドワーフ……。エルフとフェアリーがいるならドワーフもいるか。そう思いながらお爺さんを見る。どうやら重曹の缶に手が届かないらしい。
「エルフとドワーフはあまり仲が良くない種族なのに、どうしてエルフの集落の真ん中に……?」
サラマンザラが驚いたのにも理由があったらしい。その言葉を聞いている間にもメイが飛び出して、飛んで缶をお爺さんに渡していた。
「はいよ。これで良いか。」
「おお!ありがとうな。おお、お前さんはフェアリーか。この辺りではエルフが多いから珍しいな。」
「おじさんもドワーフだろ?珍しいな。ところでその重曹、何に使うんだ?」
「おお、これかい?料理に使うんじゃよ。」
「「「料理!!?」」」
俺とサラマンザラも棚の影から飛び出した。お爺さんは
「なんじゃ?!」
と驚いている。とりあえず
「俺、秋野実って言います!重曹を使った料理を教えてくれませんか!!」
弟子入りを申し出た。