第49キロ メイの居場所
「具体案はどうするんだ?」
小林さんが尋ねてくる。
ウィリデが森を焼かない方法……。
「亡き者にするとか……?」
「俺はありだと思うぞ。」
「自分に惚れてる男に容赦がないですね?!」
「自分が惚れてる男じゃないのに何を容赦する必要があるんだ。」
「ばっさり!!」
メイが普通に賛同してきて軽くビビる。というかウィリデってメイのこと好きなの?ほれたはれたってことは恋愛的な方の意味で?いや、結婚するとか言ってたけど!!
「とりあえずここは離れたほうが良いんじゃないっすか?」
サラマンザラが言う。単純に逃げても森が焼かれるだけだろう。逃げれない。
「そうじゃなくってですねー……。里をこんな惨状にしたのに留まっているのも問題な気がしまーす。」
……そう言えばそうだった。さっきのチョコレートで村の建物には軽く倒壊しているものもあるし、木とかも流されたりしているものもある確かに惨状だろう。うん。とりあえず逃げたほうが良い気もしてきた。そう思って皆で場所を移動しようとすると
「待て!!」
「げ。」
「うわぁ。」
ウィリデが飛んできた。そう言えばこの人も妖精でしたね。俺よりちょっと小さい羽が生えた青年だ。あ、うわぁとか酷い声上げてるのはサラマンザラとフィールです。俺じゃないです。
「メイ!俺の言ったことを忘れたのか?!」
「覚えてる。」
「だったら!」
メイが顔をあげてウィリデに向き合う。
「とりあえず森の件については光の国の王に話を通させてもらう。お前くらいの魔法使い、国がどうにか出来ないわけがない。分かっている人災なら全力で防がせてもらう!」
確かにそれが正攻法だ。やばい、メイ、頭良いな?俺思いつかなかったし。
「それならその前に、今ここでお前らを叩きのめせばいいんだな?!自分に魔法の才能も錬金術の才能も碌に無かったことを思い出させてやるよ!!」
ウィリデがそう言って何かの炎の魔法を放つ。それはまっすぐに俺たちの方に飛んできた。けれど
「振られたからと言って力業で何とかするのは褒められる所業ではないぞ?」
「「マッパン!!」」
俺たちの前に立ったマッパンが炎をその体で受け止め、打ち消していた。魔法も効かないとか……マッパンヤバい。
「ウィリデ……。」
メイがまっすぐにウィリデを見る。
「俺は、お前にときめいたことなんて一回も無い。」
後ろでフィールがうわ、残酷とか言っている。
「ずっとずっと小さい時から一緒だったけど、婚約者のお前も里の皆と変わらなかった。俺の存在を否定してゴールデンフェアリーを求めて……。感情なんか生まれなかった。マシュマロもチョコレートも零れなかった。」
メイの声は辛そうだった。でもきっとそれが、彼女が里に、彼に向ける初めての感情なのかもしれなかった。
メイがウィリデを見て、穏やかに、泣きたくなるくらい穏やかにほほ笑んだ。
「俺は―――――――お前を好きにはならないよ。」
その言葉はウィリデの心に剣を突き立てるようなものだったけれど。
声もなく絶句するウィリデに、メイが背を向ける。それに従って俺たちも里に背を向けた。
本当は分かってた。彼女の気持ちがきっと絶対に俺に向かないこと。彼女にはもう好きな人がいて、彼が俺とは全然違う事も分かっていた。それでも好きで、どうしようも無かった。
彼のようにはなれない。研究者として、隣に立つものとして、彼女を認めて、彼女を彼女として見ることが、俺には出来ない。刷り込まれたものはそう簡単には変えられない。生まれた環境だって、学んだことだって変えられない。
ゴールデンフェアリーは尊いもので、彼女はゴールデンフェアリーで。彼女自身が好きだった。大きくなればゴールデンフェアリーの彼女が手に入る立場にいた。彼女を彼女として見てあげることは、俺には出来なかった。
それでも彼女がゴールデンフェアリーとしてでも隣にいてくれれば良かった。それくらい好きだった。彼女は里の誰に対しても同じように感情を向けなかったから、それでもいいと思っていた。なのに、探して探してやっと見つけた彼女は笑って楽しそうだった。俺たちには、俺には決して向けない感情を他人に向けていた。それがどうしても許せなかった。
本当は分かっていたんだ。あのデブには敵わないことくらい。だって見つけた時、メイはあいつの横で本当に幸せそうに笑っていたんだ。あいつへの恋を自覚した時に感情を抑えられなかったんだ。冷徹なほど感情を零さなかったメイが、あんなに甘ったるい感情で里を満たしてしまったんだ。
「敵わないか。」
あのデブには敵わない。
そもそもあのデブがいなくたって適っていなかった。
さっきメイに真正面から振られてしまった。
どうしたって俺の恋は叶うものでは無かったのだろう。
それでも、コロリとチョコレートが零れた。
結局メイは正式に研究所に帰ってくることになった。メイの希望でもあったし、王の命令でもあった。意外なことに里からの反対は無かったんだけど……
「感情で里を壊滅させるゴールデンフェアリーを里に置くリスクを考え、研究所に派遣します……ってなんだよ?!ふざけてんのか!!」
メイは怒っているけど、俺は納得してしまっていた。里が壊滅しているのならなおさらだ。
「そう言えばあのチョコレートって何の感情だったの?誰に向けての感情だったの?」
気になっていたことを尋ねればメイは顔を赤くして気まずそうに目をそらした。何その反応。気になる。
「うるさい!!余計なことは気にすんなよ!!」
そう言ってメイから溢れたチョコレートの感情を投げつけられる。
「もっと丁寧に渡して?!」
落としたら衛生的に問題になるから!!食べる気満々の俺はそう言った。
「なんでもかんでも食べやがって!!」
「メイの感情は俺の大好物です!!」
そう言えばメイは更に怒るのだけど、零れるのは怒りの煎餅じゃなくてイチゴパウダーがまぶされたチョコレートばかりだった。