第48キロ チョコレートは口で受け止めるもの!
フィールがいってしまってマシュマロの船からチョコレートの海を見下ろす。
「里がチョコレートフォンデュ……。」
「お菓子の国じゃないんだから勘弁してほしいですよね~。」
チョコレートの量が増えたり減ったりするけれどマシュマロはあんまり揺れない。
どうやら仁王立ちしたマッパンが体重によりコントロールしているらしい。そうか……これが海賊の実力!!
そうやって感動していると少しずつチョコレートが減ってきた。
「減ってる?」
「減ってますね。」
どうやらフィールが何かしたらしい。メイを気絶させたとかじゃないと良いんだけど……。
適当な感情でメイの腹部か首元を強打するイメージが頭をよぎる。
怖いけどありえそうなのが何とも言えない。
(それにしても……チョコレートってなんの感情なんだ?)
俺といる時もたびたび零していたけれど……ここでここまで溢れさせるとか……。
状況的に思いつくのは……恐怖、興奮……あれ?あんまりいい感情じゃないな?
いや、ウィリデと結婚する前に浮かぶ感情が良いものであっても何とも言えない気持ちになるけど、俺といた時の気持ちが良いものじゃないのも嫌だ。
俺といた時も良く零していて、ウィリデと結婚する前にも零す感情ってなんだ?!興奮とかの方が分かるけど、メイがチョコを零すときは落ち着いている時もあったし……。まさかの諦めとか?!え……それは問題なんだけど?
一人で色々ぐるぐる考えていると完全にチョコレートがなくなり、地面の上にマシュマロが落ちた。
「降りたほうが良いんじゃないですかねー。」
確かにマシュマロに急に消えられても困る。俺たちはマッパンの手を借りてマシュマロから降りた。消えたチョコレートを見て思う。
(やっぱノーカロリーだもんな。食べとけば良かったかな。もったいないことしたな。)
いや、でも衛生的にやっぱり良くないかな。
「おーい!!」
そんなことを思っていたらフィールの声が聞こえた。その声にバッと振り返る。フィールに手を引かれて俯いているのは……。
「メイ!!」
会いたかった。
この世界に来てからいつだって傍にあった金色の妖精。
素性が知れない俺に優しくしてくれて、居場所をくれて、感情を向けてくれた人。
名前以外、俺の口からは何も出ないけど、とっても大切な人。
けれどメイは俺の声を聞くと肩を跳ねさせて
「やっぱり無理!!」
と言ってフィールの後ろに隠れてしまった。
え?いつの間にそんなに仲良くなったんですか?
「はいはーい。大丈夫ですよ。実君は単純に感情を零さない体質で、それ故かもしれませんがとりあえずめっちゃ感情に鈍そうですから。」
何か俺、ディスられてない?
「ディスられてますねー。」
サラマンザラが横で笑っているが、笑っている場合だろうか。
「メイ、会いたかった!あんなお別れ、絶対嫌だった。」
だから、会いたくて、ここまで来たのだと口を開く。メイはフィールの後ろからこちらを伺いながら、チョコレートを零した。
「キャッチ!!!」
久しぶりのチョコレート!!メイの感情!!それにきっとこれは、俺に向けられたものだ。食べずにはいられない!!俺の行動にメイが目を見開く。
「ほら、大丈夫でしょう。少なくともメイちゃんの感情、物理的に受け止めてくれるでしょう。」
フィールが苦笑しながらそんなことを言う。意味がよく分からないけど、俺は久々のメイのチョコレートを味わいながら親指をグッと立てた。
「任せとけ!!」
チョコレートは中が生チョコみたいになっていてトロっとしていてとても美味しかった。
「それでこの後どうするんです?」
サラマンザラが尋ねてくる。俺の視線がメイにいけば他の皆もメイを見た。
「もし、メイが望んでくれるなら、俺はメイと一緒にいたい。あの研究所で一緒にこの世界で栄養学を研究したい。」
叶うならずっと傍にいて欲しい。
ゴールデンフェアリーなんて関係なく、俺の光なこの人に。
そう言えばメイは視線を彷徨わせた。
「でも、俺が里を出たらウィリデが森を焼くっていうんだ。」
「森が焼かれなければ、一緒にいてくれる?」
その言葉にメイは少し黙って俯いて
「本当に、森が焼かれないなら……。」
居たい場所は――――
「実の傍にいたい。」
ポツリとつぶやかれたのは予想外の言葉。
いや、何かもっとあの森にいたいとか、研究所に帰りたいとか言うのかと思ったんだけど?!
「え?!え?え?!」
思わず焦ってしまう。手をアワアワ動かしていると背中をパンッと叩かれた。
「ここは決めるところだぞ!!」
そう言われてもどうすれば良いか分からない。でもメイの言ってくれたことは嬉しかったし。
「喜んで!!」
そんな言葉しか出なかった。