第47キロ 暴走!チョコレートフォンデュ
「っ!!フィール殿!」
「マッパンさん!!」
ソファに座って待たされているといきなり強者な二人が声をあげた。そして目を合わせて頷きあったかと思うと
「うお?!」
いきなりマッパンに抱えられた。俺だけじゃなく、小林さんもサラマンザラもだ。そうしてフィールがいきなり窓を感情で作り出した紐で取っ払って外に飛び出した。
「ど、どうし」
どうしたんですかと口を開く前に俺たちが飛び出した。窓からブワッと黒い液体が溢れ出した。
「ひぇ?!」
次の瞬間体がふわふわなものに叩きつけられる。
「満足感や幸福感だったか。」
小林さんの言葉に今乗っているものがあのマシュマロの感情であることに気づく。
「クッション性もあるのでとりあえずこの感情にしました……。まあ正解ですね。」
フィールが作り出した大きなマシュマロを船みたいにして俺たちはその上に乗っていた。
「え?なにこれ。」
里は何かさっき溢れてきた黒い液体で満たされている。いや、黒っていうか茶色?それに……この匂い。
「もしかしてこれってチョコレート?」
「……そうみたいですね。」
どうやら溢れ出したこれはチョコレートらしい。フィールは少し遠い目をしている。ていうか放っておいていいのだろうか。里全体がチョコレートフォンデュ状態で大惨事なんだが。
「メイを助けに行かなきゃ。」
メイは里の中にいるはずだ。もしかしたらチョコレートの海に溺れているかもしれない。
「メイちゃんは大丈夫だと……いやある意味大丈夫じゃないけど、元気ではあると思います。」
フィールがそんなことを言って俺を止める。
「多分このチョコレート、メイちゃんの仕業ですし。」
「は?」
「感情の暴走にゴールデンフェアリーの魔力が混じってこんなことになっているんでしょうねー。」
「え?」
何を言っているのかよく分からない。フィールが頭に手を当てている。
「メイちゃんが落ち着かないとこの里はチョコレートフォンデュのままです。やらかしたのはあの婚約者でしょうけど、実君が行くのも落ち着けるという意味では逆効果でしょう。」
フィールはそういうと俺の背中にくっついていたニジを掴んだ。ちなみについてきた使い魔はトントンとミズタマンとニジだけだ。リーダーや他のニンジンの使い魔は大樹で待機している。
「あなた、メイちゃんの使い魔ならメイちゃんの場所がわかりますよね?」
ニジはゆるりと頷く。何か態度がデカいな?ニジはチョコレートが流れてくるほうを示した。
「というわけで私が行ってきます。」
「え?!なんか微妙に一番関係が微妙なのに?」
サラマンザラが悪気なくそんなことを言う。俺も言わないけど同意ではある。
「こういうのは同性のほうが良いんですよ。」
その言葉に曖昧に同意したのは小林さんだ。
「じゃあマッパンさん、ここは頼みます。私はメイちゃんのところに行ってきます!」
「ガハハハハ!!吾輩に任せておけ!!」
フィールは怒りの煎餅を宙に浮かせてその上にニジと一緒に乗ってサーフィンのようにチョコの波に乗って行ってしまった。
「大丈夫かな。」
それにしてもチョコレートか。久々に見たメイの感情はやっぱり美味しそうだ。この状況では食べるのは難しいけれど。
怒りの感情の上に乗ってチョコレートの波を超えていく。ニンジンの使い魔の示す方に進めば、チョコレートの波の真ん中に輝いているその子がいた。実際物理的に光っている。どうしてそうなったのだろうか。メイちゃんは頭を抱えて何かをぶつぶつ言っている。その顔は真っ赤だ。
「メイちゃん!!」
「……り……む…………ない。」
声が届いていないみたいだ。どうしようかと思っているとニンジンの使い魔が飛び降りた。
「ちょ……?!」
ニンジンはそのまま器用にメイちゃんの頭の上にポスッとお腹で着地した。
「ふぇ?!ニジ?」
その感覚でどうやら現実に戻ってきたらしい。けど
「ニ、ニジがここにいるってことはみ、みみみみ実も?!」
メイちゃんはさらに赤くなって、周りのチョコの量が増えた。さすがにこれ以上はちょっとまずい。持続時間も長いので本格的に死者が出そうです。
「メイちゃん!!すぐには来ないから!実君、ちょっと待っててもらってるから!!落ち着いてー!!!」
叫べばメイちゃんの視線がこちらを向いた。
やっとこっちを見てくれましたね。
「フィール?」
その瞳には私に対する少し複雑な想いと現状の混乱が見て取れる。
「とりあえず王命で来ました。敵じゃないです。とにかく落ち着いてください!!」
そうは言っても落ち着けないのは分かっている。今メイちゃんが落ち着けそうなことは
「その頭の上のニンジン!抱きしめて深呼吸してください!!」
体と心はなんだかんだ言って表裏一体。心がパニックになれば体もパニックになるし、逆に体が落ち着けば心も落ち着くはずだ。とりあえず呼吸を整えさせなければいけない。
メイちゃんは頭の上の使い魔をその腕でギュッと抱きしめた。それから指示の通りに深呼吸をしてくれた。そうすると少しずつチョコレートの量が減って、完全にチョコレートが出なくなった瞬間メイちゃんがその場に膝から崩れ落ちそうになる。慌ててひも状の感情で彼女を支えて、ゆっくり地面に下ろした。
「ふう……。大丈夫ですか?」
「うう……だいじょばない。」
相変わらず素直そうで良かった。私も彼女の横に降り立った。