第46キロ 自覚は突然に
思えばこの里は、ゴールデンフェアリーとしての存在以外の自分を全て否定してきた。だからこの里にいる時はゴールデンフェアリーとしての自分以外を全て殺すことになるのだと、感情が零れないのを見て思った。
結局のところ自分が里にいた時間よりあの森にいた時間が長いとしても、ゴールデンフェアリーとしての自分を自分が捨てきれないのだ。結局逃れられないのだ。
(だって――――)
あんなに感情を揺らしていた彼のことを思っても、感情一つ零れやしない。その現実を受け止めて、何故だか無性に泣きたくなった。
里の近くの森に大樹を待機させる。
「こういう里って、大体警戒心が強いんですよね。絶対旅の者とか言っても怪しまれます。」
「つまり潜入は無理ってこと?」
「そうですね。ぶっちゃけ正面突破しかないと思います。」
マジか。いや、正面突破でも話し合いとかはあると思うけど……正面突破か……。絶対あのウィリデって人に嫌われてるし上手くいく気がしないけど
「それでもメイに会うんだ。」
会ってどうするとかはよく分かんなかったけど、ただ会いたかった。
「ウィリデ様、見慣れぬ者たちが面会を求めています。」
式の準備の途中にそう言われた。
「見慣れぬ者たち?」
「はい。ただ、光の国の王の直属の部下らしく、払いのけるのも難しく。」
とりあえず客間に通すように命じる。そして客間に移動するそいつらの姿を見て、俺は思わず舌打ちをした。忌々しいあのデブが仲間を引きつれてやってきていた。しかもあの大男。あれは光の国の鉄壁の海賊ではないか。里に引きこもっている父のような老人どもにはあれのすごさはわからないだろう。だが、
(森は動かない。あの森を焼くと脅している限り、メイは俺の隣にいるはずだ。)
俺は深呼吸して心を落ち着けた。それにあの鉄壁の海賊は厄介だが、俺の魔法の腕だって他の連中を上回るだろう。俺は客間の扉を押した。
「久しぶり……だな?何の用だ?」
「ウィリデ!!」
デブが俺を見て立ち上がる。他の連中の俺を見る目が冷たい。さしずめ俺は悪役ってところか?
「要件は?あいにく俺も忙しくてね。もてなしは出来そうにない。」
強くそう言えばデブは俺をまっすぐに見て言った。
「メイに会わせてほしい。」
「へぇ。」
本当にこいつはむかつくな。何でそんなに気安くメイの名前を呼ぶんだ!?メイの何だっていうんだよ。歯をギリッと噛み締める。
「会うだけで良いんだな?」
連れて帰る気はないのかと言外に問う。デブは視線を一瞬彷徨わせてから
「まずは、会わないと。」
と言った。そんな覚悟で会いに来たのか。
そんな、視線を彷徨わせるような、心が定まっていないような状況で。
湧き上がる怒り。口の中が苦い気がしてくる。
(だけどそんなものなら)
メイが、否定すれば終わるはずだ。メイに否定させればいい。里にいたいと、お前の元になんか帰りたくないと言わせてしまえばいい。
「待っていろ。」
客間を出た足でそのままメイの控室に向かう。
「メイ、客人だ。」
「客人?」
メイは首を傾げた。
「里長の挨拶かなんかか?」
確かに里の中で式の前に会いに来るのなんてそれくらいだろう。
「里の外からの客人だ。」
「里の外……。」
メイは心当たりが無いように首を傾げている。その動作にすら苛立ちを覚えてしまう。
「あいつだよ。あのデブ、実とかいったか。」
吐き捨てるように名前を告げてやればメイは今まで見たこともないくらい間抜けな顔で呆然とした。
「は……?」
いや、その反応はなんだよ。
「なんで実が来るんだ?」
「会いたかったかららしいけど?」
それでもメイは首を傾げる。まるで納得いかないかのように。ああ、イライラする。もういっそ両手を上げて喜んでしまえばいいのに。だって、チョコレートの感情を向ける相手が会いに来たんだぞ。
「喜べばいいだろ。」
「は?どうして俺が喜ぶんだ?」
メイは心底分からないみたいに言った。
「は?お前っ……!!チョコレートの感情を向ける相手が来たんだぞ。わざわざあの、面倒な山を越えて!フェアリーでもないから飛ばずに!!」
「その面倒なことをされて喜ぶ意味が……。」
「喜べよ!!っ好きな相手が自分に会うために来てくれたんだから素直に喜べばいいだろ!!!!」
俺は叫ぶように言った。
「……。」
「…………。」
部屋に沈黙が落ちる。少ししてもメイが反応する気配がないから、ゆっくりメイの顔を見れば
「……お前。」
メイは固まっていた。そして震える唇から、ぎこちなく紡がれる言葉。
「誰が、誰を、好き、だって……?」
「お前が、あの……実ってやつを……。」
え?違うのか?
いや、チョコレートの感情が零れていたんだから間違いないはずだ。
何よりメイをずっと見ていた俺が気づかないはずがない。
「で、実が来てるって?会いたいって?」
その言葉に頷く。メイは機会のようにギギギと動いて、それから顔を真っ赤に染めて
「無理無理無理無理!!!!!無理――――――!!」
と叫んだ。
そして同時に俺の目の前は真っ暗になった




