第44キロ ゴーレムをやっつけろ!
「そろそろ峠を越えるのでは?」
「物理的には山ですけどね~。」
「じゃあ山場を越えるのでは?」
「物理的に?」
「物理的に。」
何が言いたいのかというと光の国から山影の里に向かう道中にある山。その山をそろそろ抜けるのではと言いたいのだ。
「そうですね。通るところの一番標高が高いところは過ぎましたよ。……けど。」
フィールが横から口をはさんできた。その言葉を遮るように大樹が揺れる。
「なんだ?!」
「さーて、山越え一番の山場ですよ。」
フィールがそう言って外に飛び出す。俺とサラマンザラも後に続いた。
それにしても山とか山場とか言いまくって山のゲシュタルトが崩壊してくる。マッパンが海賊でよかった。山賊だとさらに面倒な感じになるからな。……いや、海に行ってないのに本当に何で海賊なんだあの人。
そうして岩だらけの山の中にいたのは
「あー……あれですね。土人形っていうか所謂ゴーレム……?」
うん。こう、山場超える時に出てくることがあるちょっと定番の魔物だよな。
「これ、山の意識が勝手に作り出すからほぼ毎回遭遇するんですよね。」
「ゴーレムは知っているんだな。まあ素材は土ではなく岩が主なようだが。」
フィールと小林さんが豆知識を語ってくれる。
いや、この雰囲気ってあれですかね。所謂ボス戦みたいな?
「あいつ面倒なので頑張りましょう!!」
フィールですらそう言っちゃうレベルなのかよ!!俺は顔をしかめながらもゴーレムに向き直った。
「吾輩の胸筋が貴殿の攻撃を全て受け切って見せよう!!そう、大海原のように!!吾輩は海賊だからなあー!!!!!」
大声でゴーレムの前に飛び出していくマッパン。あの大声はゴーレムへの挑発なんだろうか?まあタゲ集中って感じではあるけど。
「防御はマッパンさんに任せましょう。問題はゴーレムへのダメージです。あいつ硬くて防御力ありますから。」
フィールが尖らせた怒りの感情を自分の周りに浮かばせる。
「感情による攻撃って硬いのにはそこまで有効じゃないんですよね。」
確かに岩に針は通せないかもしれない。でも岩って生物じゃないし。栄養するのは生き物の特権みたいなもんだし。ちなみにここでいう栄養とは生物の営みのことを指し示す。栄養素とか栄養成分の意味ではなく、物を食べて消化して吸収して排泄する一連の営みな。
岩の破壊。爆発。風化。うーん、この山が火山ならゴーレムも火山岩系でちょっともろい可能性もあるかなーって思ったけど……。理系は理系でも栄養学系なので石を見ても種類とかよく分からん。いや、一応学校でやったけど……。
「この山って火山だったりする?」
「しないけど?」
うん。ゴーレムが火山岩って可能性は低そうだ!さて、俺にできることはあるか……。栄養ドリンクを渡して皆を元気にすることくらいしかできないのでは?
「とりあえずダメージ与えとけばいつか倒れるわ。いつもやってるしね。」
フィールはそう言うとゴーレムに向かって行った。あれだな、マッパンを攻撃するゴーレムを後ろからチクチク攻撃するフィール。うん、シュール。
「俺の攻撃って意味あると思いますかー?」
サラマンザラが槍を持ちながら言う。うーん。あんまりなさそう。岩の破壊。風化が起きるメカニズムってなんだ?温度差とか?熱くして冷やしてを繰り返したらいつか壊れそうだけど。
「炎魔法とか使える?」
「このメンバーに魔法使いはいないな。」
うん。無理そう。原始的に火でも起こすか?視界の端でニンジンの使い魔達がわらわら集まっている。植物か。確かに植物もなんか出来そうではあるけど。根を張る?みたいな。いや、ニンジンは岩生植物じゃないよな。
「とりあえず数で勝負っていう手もあるよな。」
俺は頷くとサラマンザラと使い魔達を連れてゴーレムをベシベシしに行った。ベシベシ。ゴーレムから細かい砂がぽろぽろ落ちる。
「これってこの調子だとどれくらいかかる?」
横で攻撃を繰り返すフィールに聞いてみたら
「この攻撃力だと早くて3日。遅いと5日。」
と答えられた。そんなにかかったらその間にメイがどうなるか分かったもんじゃない。さっさと始末しないと。刺すとか斬るとかよりは砕くほうが理にかなっている気がする。
「実さんそのトンカチどうしたんですか?!」
「工具箱から持ってきた。」
何の技術もない俺だと素手とかより絶対効率は良いはずだ。手を動かしながらも考える。もっといい方法はないか。もっと効率が良いものがないか。
ニンジンの使い魔に根を……いや、ニンジンってそもそも根っこだし。ミズタマンは……主な攻撃がツタだから有効打にはならなそうだ。トントンは防御重視だし。
咄嗟に思いついたことがあったので俺は前線から引いて小林さんの元に向かった。ちなみにこの間もずっとマッパンが攻撃を受け止めている。マッパン強い……。
「小林さん、ゴーレムが自然発生するメカニズムについて詳しく!」
「詳しくと言われても、そこまでは知らないぞ。ここの山はそもそも岩石、空気中に魔力があり、山の意思によって自然発生するというが。」
「十分詳しいです!じゃあやっぱりあの生物じゃないゴーレムは魔力で動いてるんですね?」
つまり岩を破壊するより魔力をどうにかするほうが早そうだ。俺は大樹の中に入った。例えばメイが使っていた戦闘装備、光の剣的なものとかがあればもう少しどうにかなるのではないか。魔力を使う道具をゴーレムに投げつければ魔力を吸うのではないか。俺はそう思いながらメイのノートを開いた。
しかし、そこには期待したものは書いていなかった。魔力を使う道具は基本的に使用者が魔力を道具に流すことで利用可能になるとか、空気中の魔力を集めて使うとか、そんな話だ。魔力を奪う物質は場合によっては人命や環境に重篤な被害を与えるため流通していないとか。魔物の中には魔力を奪うものもいるし、魔法で魔力を奪うことも出来るらしいが、今この場では有力な情報ではない。魔力を奪う事には奪う意思がいる。つまり道具には基本的に出来ないことなのだ。自分には似合わないとわかっているけれど舌打ちをしてしまう。魔力をどうにかするのも大分やばい話だったのだろうか。そうやって思い悩んでいると俺の肩を誰かがたたいた。