第42キロ どうにかなる話とならない話
「お前は何もしなくて良いよ。出来なくても良い。それでいいんだ。だってお前はゴールデンフェアリーなんだから。」
その分まで俺が頑張って、お前の魔力を全部有効に使えるようにするから。そう言った時、彼女の金色の瞳が、水色の花をあげたときとは全く違う光を宿しているのに俺は気が付かなかった。
何が起きたのか理解できなかった。ただ、日が昇った頃にはもうメイは里にはいなくって、開発したいくつかの道具と共に姿を消していた。発見が遅れた原因は魔力の籠った髪の束だった。
まだ10にもならないようなフェアリーがそう遠くにいけるはずがない。でも相手はゴールデンフェアリーだ。他の里の者が彼女を攫ったのかもしれない。色んな話が溢れて、責任の押し付けあいが行われた。俺も色んなことを言われた。
「婚約者のお前が不満でゴールデンフェアリーはいなくなったんじゃないか?!」
考えなかったわけがないだろう。俺だってそう思ってたさ。メイの一番近くにいたはずなのに、俺はメイの何も掴んじゃいなかった。だからだからだから!!必死で努力して強力な魔法を覚えた。強くなって強くなって今度こそ、メイを隣に縛り付けられるように。
「浮かない顔だな?」
「必要ないだろ。」
金の髪に赤い花が飾られている。金の髪には金以外の花だって似合うのだと誰かが言った。捧げるなら金の花なのに、飾るなら他の色だっていいなんて面倒な話だ。
「花嫁衣裳を選んでるんだから、もうちょっと嬉しそうな顔をしてほしいものだけど。」
「じゃあマリッジブルーなんだよ。ほっておいてくれ。」
「つれないな。」
短くなった金の髪を見る。昔はセミロングだったのに。里を出る時に切って、そのままショートにしたんだろう。
「俺はもうちょっと長いほうが好みだな。」
メイの髪に指を絡めれば不機嫌そうな顔をされた。でも視線はこちらに向かない。ああ、それが気にいらない。こんなに隣にいるのに、どうしてこっちを見てくれない。
「昔みたいに。」
「そうか。放っておけば伸びる。良かったな。」
金の髪から手を離す。どうして隣にいるのに、隣にいないような表情をするのか。
大樹に乗って移動している。魔物を寄せ付けない結界は施されているけれど、どうしたって強い魔物にはそれが効かないやつがいる。道が険しくなってからはそれが顕著だった。
「絶対こういう魔物って俺くらいの兵士だったら2人以上の3人グループくらいで対処する奴っすよー?!」
サラマンザラがそう言いながら大樹の根っこに乗って槍をふるっている。
「はっはっは!!まああれだ!!防御は俺に任せろ。このくらいの魔物の攻撃なら全部ノーダメージだ!!!」
「本当にマッパンさんけた違いですねー?!」
マッパンはマジで強かった。特に防御。どうしてふんどし一丁であんなにダメージを食らわないのだろう……。
普通のニンジンの使い魔はニジの支持の元、弱めの魔物を倒したり、傷薬を怪我した人に持って行ったりしている。ちなみに小林さんは木の中で薬を作っている。リーダーはマッパンの反対側で襲ってくる魔物を倒している。
「さーて!!私も負けられないわね。」
フィールは感情で出した紐―――食べたらグミみたいな味がするのかもしれない―――で魔物を縛り付けた挙句、怒りの煎餅や悲しみのドロップでめった刺しにしていた。そういう使用法?!そういう使用法なの?!
「感情を研ぎ澄ませればこうやって鋭くもできるんですよ。」
なんてウインクしながらいう事じゃない。やっぱりこの人怖い。
感情って味がするだけじゃなくて本当にこういう使い方があるんだな。勝手に煎餅とかドロップって言ってたけど感情はお菓子じゃない。じゃあなんだって言われてもきっとこの世界の人達はただの感情だと答えるだろう。メイはいつだって俺に向けての感情を零していた。いつだって俺に何らかの想いを向けてくれていたのだ。
「俺も頑張ろう……!」
俺は図書室にあった三日月型の船に乗って大樹の周りを飛んでいる。メイがいなくてもいた間の魔力の蓄えで飛べるらしい。ミズタマンとトントンが一緒に乗っている。シートベルトはミズタマンのツタで、トントンは何かやばいものが飛んできた時に大きくなって跳ね返してくれる。大樹の周りを飛んでちょっと手薄になっているところの魔物をミズタマンに払ってもらっている。手に負えないときはマッパンやフィール、ニジかリーダーに声をかけている。確かに話通り魔物は強いけどどうにかなりそうだった。