第38キロ 大樹でGO!
「こんな大きな木なのに、今まで気が付かなかった。」
「ここがめいじつ研究所なんですね~。」
二人は旅支度をしてめいじつ研究所にやってきた。これから使い魔達と二人と一緒に地下に潜るのだ。
「それにしてもヤバいですね。ニンジンの使い魔、めっちゃいるじゃないですか。」
研究所にいる使い魔を見てサラマンザラが歓声をあげる。
「ゴールデンフェアリーの魔力の賜物かもしれないな。」
小林さんはそう言って皆を仕切るニジと一際大きいリーダーを見た。
「でもトントンは実さんの仲間なんですよね~。」
サラマンザラがそう言って俺の肩に乗っているトントンを軽くつついた。トントンは仲間という言葉に誇らしげに毛並みをキラキラさせている。
「家の地下だから、なんかあったらすぐ撤退できるし。俺たちの戦力を考えるのにも良い経験になるかなって思うんだ。」
小林さんは俺の言葉に頷いた。
「私と君は戦闘員じゃないからね。戦い方を考えるのに、撤退しやすい場所での戦闘はありがたいと思う。」
そうして俺たちは地下に潜った。
地下は10階ほどあり、降りるにつれて何か虫型のモンスターとか悪魔型のモンスターとか、精霊系のモンスターとかが出てきた。結構ガチなモンスターだ。個人的には地下空間にはエレベーターとか付けたい。10階分も階段での移動は疲れる。
「うわ!!やばい。」
暗闇から飛び出してきた精霊がニンジンの使い魔達に火の魔法を放ったようだ。使い魔達は体を燃やしながら逃げ惑う。
「このままじゃ、皆ニンジン炒めになっちゃいますよ?!」
「消火!消火!!」
「状態異常除去の魔法は使ってるけど追い付かない!!」
俺たちがパニックになっている間に使い魔達もパニックになってしまう。そうしてそのまま暗闇の方に走っていってしまいそうなニンジン達。遠くに行かれたら、どうにもできない。俺は、メイから預かった彼らをだれ一人欠けさせることなんてしたくないのに!!
ジュッ
それは火が消える音。
燃えるものがなくなった……わけじゃなくて
「水?」
水のツタが辺りを一閃して火の精霊もろとも辺りの火を消していた。
そのツタの出どころは俺の……頭の上……?!
いつの間にか頭の上に移動していたミズタマンが水のツタを振り回したようだ。何だその芸当。どこで覚えた?!
「え?その使い魔すごいですね?」
「ミズタマの……使い魔。」
サラマンザラも小林さんも息をのんでいる。やっぱりミズタマンはすごいらしい。あれか、スイカ的な感じで内部の水分が多いからその水分を使ってツタにして利用したのかな。あれだな、後で水分をたっぷりとらせよう。こう、流水で冷やす感じに……夏場のスイカっぽい絵になりそうだな。
そんなこんなでおそらく地下の最深階に辿り着いた。
「ずいぶん狭い階だな?」
6畳ワンルームより少し広いくらいの階だった。狭いのでニンジンの使い魔の半分以上は上の階で待っている。木の中をずっと下ってきたわけだから……。この部屋が狭いのは根っこの先の方だからかもしれない。足元には白いチョークで描かれた……。
「化学式?」
この世界の錬金術のレシピって化学式なんだっけ?この化学式が示すのは……
「水、後はミネラル系?カリウムと……リン酸と窒素?」
人間の食べ物!って感じではないな。特に窒素。人間にはどうにもエネルギー変換できるものではない。空気の70パーセントから80パーセントを占めていると言われても……どうにもこうにも。
俺は一つ考える。栄養学とは人間の栄養学だ。犬や猫、動物にはそれぞれの栄養学がある。つまりこの化学式のものが栄養になるものは存在しないか。
答えはすぐに出た。
俺たちが今まさにいる家。
植物の栄養だ。
肥料でリン酸とかカリウムとか聞いたことがある気がする。
「サラマンザラ!植物の肥料を買いに行くぞ。」
「植物の肥料!?」
「それをここに持ってくるんだ。」
どういう意図なのかよく分からないけどとりあえずやってみるしかない。サラマンザラと小林さんと町で肥料を買って最下層に置く。
「これで一体何が起こるんですか?」
「いや、知らないけど。」
これは植物に対する餌付けなんだろうか?いや、この場合の肥料ってなんだろう。贄?供物?餌?そんなことを考えていたら
「うわっ?!君たち、下がるぞ。」
小林さんに肩を掴まれて下がらせられる。何?と思って目をやれば部屋のあちこちからのびたツタが肥料の袋を器用に破って中身を物色していた。何か微妙に気に入らないみたいだけど渋々肥料を吸収しているようだ。え?この植物と明確な意思疎通って出来るの?
「この大樹はメイさんがずっと暮らしてきた家なんだろう。」
「そうですよ。」
「おそらくこの大樹の栄養はその間メイさんから零れ落ちた魔力を利用していたんじゃないだろうか。」
「……つまり?」
「質が良い魔力を長く摂取してきたなら他のものじゃ物足りないんだろう。」
ふむ。つまり俺のお仲間ってことだろうか。
「じゃあ利害は一致してるんじゃないですか?メイさんを取り返したいんじゃないですか。」
サラマンザラがそう言う。周りのニンジン達もコクコク頷いている。まあそうだけど、それをこの大樹にどう理解してもらえれば良いか。俺は意を決して肥料を漁るツタに近づいた。ツタは俺を確かめるようにぷにっとしている二の腕に服の上から絡まった。
「俺からメイの何かを感じる?」
そうだとしたらきっとずっと隣にいたから。感情をずっと食べていたけど、感情は長続きしないものらしいから俺の中にメイの感情は残っていないだろう。
そう思えばツタをちょっと痛いくらいキツク締め付けてきた。まるで感情が残らなくても気持ちや想いは残るとでもいうように、俺を叱るように。
「メイに会いに行きたいんだ。君の足を貸してくれないか。」
足っていうか根っこかもしれないけど。そういえばツタがシュルシュルと引っ込んだ。
「……。」
「……。」
「……失敗ですか?」
俺は頭を抱えた。やっぱり植物との意思疎通って難しかったかな。そう思っていたら思い切り部屋が揺れた。
「え?!何?」
「地震か?」
ニンジン達が上にあがれと全身で示すので全員で上の階に駆け上がる。上にいけばいくほど揺れは少なくなった。
「何が起こってるんですか?!」
「知らない!!」
本当にマジで意味が分からない。しかし小林さんは何かを理解しているようだ。本当に頭いいイケメンですね!?
「もしかしたらこの揺れは大樹が地面から出たものなんじゃないか?」
……どういうことなの?
そう思いながら玄関の扉を開けると、目の前に地面はなかった。地面は、地上に露出した根っこを辿れば降りれそうだけど……。
「って、本当に大樹が地面から出てる!!?」
驚いている俺の後ろからサラマンザラも外を見て歓声をあげる。
「マジで外に出てるじゃないですか。これは実さんの説得が効きましたね!!」
「それにしてはここから動きが無いんだけど……。」
「それはそうだろう。だって君はまだこの大樹に行き先を伝えていない。」
小林さんの言葉に納得する。
「大樹!まずは王都に行ってくれ。王様にメイの情報を聞くんだ。」
そう告げれば大樹の根っこがわさわさと動き進み始めた。
「うわ、速いですね?!」
「しかも彼女によって決壊が張られているからね。こんなに大きい気が高速で動いても魔物も寄ってこないし、普通の人には気づかれないだろう。」
めっちゃ高性能なんだな、俺たちが住んでたこの大樹。