表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/121

第37キロ  協力は惜しまない

 というわけで俺は小林さんの診療所にやってきた。ミズタマンとトントンを肩に乗せて、ニジを抱っこして。


「そういうことがあったのでご意見を伺いたいんです。出来ればお力を借りたいんです。」


俺の言葉に小林さんは頷いた。


「事情は分かりました。ところで……」

「はい?」

「なんで野菜齧ってるんです?」

「野菜は鬱に聞くと聞いて。」


そう、俺はニジを抱えるのとは逆の手でニンジンを齧る。何かどっかの調査でそんな結果出ていた気がする。まあ正しい食事に限らず生活習慣を整えることによって鬱を軽減させることは可能な気がしなくもないけど。というか早寝早起きとか、腸内細菌による腸内環境の整備とか色んな要素がある気がするけど。


「それにしても婚約者に連れていかれたメイさんにもう一回会いたいなんて、思ったよりも君は情熱的だな?もっと冷徹な人間だと思っていたのに。」


そんなことを小林さんに言われる。冷徹なんて、元の世界じゃ言われたことなかった。それでも小林さんにはそう見えるらしい。


「以前もそう言ってましたよね。」

「君は……感情を零さないからね。」


この世界の人間は感情を零す。あふれた感情はころころと転がる。感情を零さないのは眉一つ動かさず行動する人間のように思われるのだろうか。


「小林さん、俺は……感情を零さないんです。」


そういえば小林さんは目を丸くした。


「それは……。」

「病気とかじゃなくてそういう体質なんです。」


まあ生まれた世界が多分違うから仕方ないとは思うんですが。


「メイさんはそれを知っているんですか?」

「一応?」


俺から感情が零れないという事実だけは知っていると思うけれど、ちゃんとした説明はしていなかったかもしれない。メイが俺をすんなりと受け入れてくれたから、俺は彼女に異世界から来たなんて話はしなかった。どんなに眉唾物でもきっとメイだったら笑いながら信じてくれたと思うのに。小林さんのため息が聞こえた。


「私はすっかり君が冷静な人間だと思ってたよ。」

「違いますよ?」

「今なら一応理解できるよ。でもね、私はなんだかんだ言ってめいじつ研究所の君たちと結構仲がいいと思っていたんだけど。」

「良いんじゃないですか?一緒に投獄された身ですし。」

「まあね?いや、そうじゃなくて。」


小林さんは一つ、咳ばらいをした。


「私が君を勘違いしていたんだ。メイさんが君を勘違いしていないとも限らない、と言いたいのさ。だって君は言葉にしていないんだろう。」


感情を零さないくせに、感情を言葉にもしていない。小林さんは呆れ半分な感じに目を細めて俺を見た。


「君たちには幸せになって欲しいからね。協力はしますよ。」

「ありがとう!!」

「ただ、私と君じゃ情報も戦力も足りない。」


確かに。メイの行き先すらわからない。肩に乗っているミズタマンとトントンが戦力になるよ!ってアピールしているが見ないふりをする。


「とりあえずサラマンザラに話を通そうと思う。」


それから王様に掛け合ったりしてみよう。大臣の地位なんて、今使わずにいつ使う。公私混同?別に特殊な権力を行使するわけじゃないし、情報収集くらい許されるんじゃないかな?!







 すぐさま小林さんは通信用の魔石でサラマンザラを呼び出してくれた。


「つまりメイさんを取り戻しに行くんですねー!メイさんの同意があったらもっと燃える展開なんですけど……。」

「残念ながら同意があるわけでも、頼まれたわけでもない。俺が会いに行きたいから会いに行くだけだよ。」


そういえばサラマンザラはどこか呆れた目をした。


「実さんがそんなに真面目な顔してるの食べ物とか栄養とかの時だけだと思ってました。」

「まあそうかもしれないけど……。」

「否定して欲しいんですけど?!え?結局メイさん追いかける理由って食と栄養なんですか?!」


食と栄養。ダイエットのために、カロリーが無い感情を、それもとびきり美味しいメイの感情をずっと傍で食べていたいって思うのは、やっぱり食と栄養がらみの感情なんだろうか。


「まあいいですよ。ハッキリしたものが必ずしも正しいとは思わないし。」


サラマンザラはそう独り言ちた。


「会いたい気持ちが本物なら協力するまでです。お二人は俺の国を救ってくれた人ですから。」

「ありがとう。」





 さて、とりあえず王都に行く方針は決まった。問題は移動手段である。サラマンザラの飛竜に飛車を引いてもらうのも良いとは思うけど。いかんせん持っていける荷物が少ない。使い魔のニンジンも全員ついてくるつもりみたいだし……明らかに色々足りない。そう思っていたらニジが俺のカバンからメイのくれたノートを取り出した。


「ニジ?」


そうして指示したのは……


「家の大樹についての説明のページ?」




――家に使っている大樹について

大樹の地下室には師匠による封印が施されている。その一番最下層、そこには大樹の根を動かないようにする封印がされている。それを解除してあの大樹とうまく意思疎通が出来れば動く家になってくれると思う。


(ふむ。)


「サラマンザラ、小林さん。乗り物ゲットのクエストなんて興味ありませんか?」


俺は二人にそう持ち掛けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ