第33キロ 鉄壁の海賊が倒れました
「小林医師ー!!」
お茶会をしていた診療所の扉がいきなり開かれた。
そこには見慣れたマッチョン。そしてその逞しい腕の中には
「わが友を助けてください!!できれば『めいじつ』の二人にも連絡を!」
マッチョンと同じくらい逞しいムキムキの男がふんどし一丁で口から血を流してぐったりしていた。
とりあえずぐったりしていた男を診療室のベッドに寝かせる。
「彼はどうしたんですか?」
「こやつの名はマッパン。ふんどし一丁でも大砲をはじき返す防御力を誇る『鉄壁の海賊』である。」
屈強な戦士マッチョンと鉄壁の海賊マッパン。
……この国は大丈夫だろうか。
「此度は北にある雪の国に挑戦してくるといって半年以上国を離れていたんだが。」
「海賊じゃないの?雪国?」
海は凍っているのでは?
「陸路をソリという船で行ったらしい。」
海賊とは……。
「帰ってきたらこのざまだ。雪の国は最近闇の国から経済制裁を受けていたりして色々あったからな。情勢調査をしてもらってもいたんだが。」
報告を聞くどころではないと。
「雪の国をこんな薄着で……。低体温症か?」
いや、太ももに大きな痣。口からの出血……。
「魔物かなんかにボコされたんじゃないのか。」
「マッパンの鉄壁な体は大砲でもこんな傷はつかんぞ。そうだとしたらよっぽどの魔物がいるという事になる。」
太ももをよく見ると毛穴から点状の出血が見られた。
「小林さん。」
「なんだ?」
「口からの血は赤い血。ぱっと見、泡は見えないから肺からの出血だとは思えない。」
小林さんは俺の言葉に頷きながら手袋をした手でマッパンの口を開かせる。
「歯茎……。それに口全体というか……広範囲からの出血だ。外傷からの出血とは思えない。」
出血疾患、暫く雪国への滞在。
正解かは、わからない。
俺が知らない病気も世の中にはいっぱいある。
「この病気は城の医者に見せてもわからなかった。だから……!!」
マッチョンが必死に俺に言う。
俺には一つ心当たりがあった。俺の世界であの北国が、そのほか色んな航海士たちがなったという病気。
「壊血病……?」
やるだけやろう。
「小林さん、かんきつ類はありますか?」
「あ、ああ。冷蔵庫に。」
「サラマンザラ、かんきつ類を絞ってくれ。そのジュースをマッパンに飲ませるんだ。」
「わかった。」
「我も手伝おう!!」
立ち上がろうとしたマッチョンをメイが止める。
「とりあえずサラマンザラが何とかしてくれる。マッチョンは今、たぶん、落ち着いてないからマッパンを見守ってくれ。」
城でたくさんの人にしたようにマッチョンの手を両手で包み込む。
「メイ殿……。」
マッチョンは戸惑いを浮かべながらも席に座りなおした。
「持ってきました!」
サラマンザラが持ってきてくれたジュース。多分オレンジだな。多分。
血管に入れるわけにはいかないのでマッチョンに呼び掛けてもらって意識を取り戻してもらう。
そこで小林さんがフレッシュオレンジジュースを飲ませた。沁みるかもしれないけどそこは頑張ってください……。あとは対処療法をしてもらうしかない。
「で?何か大量にオレンジのしぼり汁飲ましてたけど……なんだあれ?」
「俺が心当たりがある病気は壊血病。……よく見れば肌も荒れてるし、太ももに大きな痣、毛穴からの点状出血。および歯茎や粘膜からの出血。それに……雪国に長くいたという状況。それも何か色々大変そうな時期に。新鮮な野菜や果物を長期食べれないとなる病気なんだ。」
俺の言葉を皆が神妙そうに聞く。
「なんでかんきつ類?」
メイが首を傾げる。
「ビタミンCっていうのが多めに含まれてるからだな。」
「「「ビタミンC?」」」
おっとメイ以外はビタミンについての予備知識がなかったな。
「この前の脚気の原因とは違うんですか~?」
「あれはビタミンB1だったか。」
「きな粉餅やもち豚のあれだな。今回はかんきつ類がカギという事か。」
なんだかんだ言って理解が早くて助かります。とりあえずメイを含めてビタミンCの説明をしてほしいと視線で訴えてくるのでそれに応えることにした。