第32キロ 打ち上げはお茶会で
お父さんもお母さんもちゃんと歩けるようになった。王様による命令でやってきた騎士さんたちが持ってきたもち豚ってお肉が病気に効いたみたいだった。
「今回の病気をどうにかしたのってゴールデンフェアリーなんだって!」
「やっぱりゴールデンフェアリーはすごいな。」
皆がそんなことを口々に言う。
確かにすごい。病に侵されていたこの国をたちまち救ってくれたんだもん!!私は日記を書いている。きっといつか子供や孫にこのページをたくさん読むんだろうなあって思いながらペンを動かす。
ああ、この日々を元にしたお話を書くのも良いわ。ゴールデンフェアリーのお話はたくさんあるけど、このゴールデンフェアリーさんのお話はまだないもの。今回のゴールデンフェアリーさんは女の子でメイっていうんだって。
公園のベンチに座って文章を書いていたら、手元が急に暗くなった。顔をあげれば目の前に男の人が立っていた。少し身長は低めだけどどちらかというとカッコいいタイプの男性だった。
「この国は、ゴールデンフェアリーによって救われたのかい?」
そんなことを聞かれたから、すぐにその人が旅人だってわかったの。だってこの国に住んでたらそんなの当たり前なんだもん!!
「そうよ!今回新しい知識を持ってこの国を救ってくださったの。メイ様って言うらしいわ。私も王都にいけるようになったらたくさんメイ様のお話をたくさん聞いて、それでお話を書くの。」
そういえば彼は口元を綻ばせた。
「それは良い。ぜひ書き上げてくれ。」
そうして、何となく、本当に何となく言ってしまった。
「ああ、メイ様の金色の髪は私の髪なんかよりずっとずっと綺麗なんでしょうね。」
同じ金色でも、きっとゴールデンフェアリーのメイ様はもっともっと輝く髪の色を――
「そんなものでは無いよ。」
低い声に体が跳ねた。顔をあげれば先ほどの男性が表情をどこかに落としたような表情をしていた。彼は私が怯えているのに気が付いたのだろう。すぐに朗らかに微笑んだ。
「いや、日の下で輝く君の髪はきっと何よりも美しいんじゃないかと思っただけだよ。」
腹回りを計ったら97㎝だった。体重は98キロ。
俺は!俺は!!俺は!!!ついに100キロをきりました!!!
さすが牢屋生活によるパンと具のないスープ生活!強制ダイエット!!強制絶食にならないだけマシだったけど。
でも腹回りはあんまり減ってないんだな。むしろ伸びた皮がたるんでるのが気になってきた。これからは腹回りを引き締める運動を取り入れるべきだろうか。腹筋とか。
食事は大切だけど食事だけでは健康的に痩せるのは難しいからな。体重も100キロ切ったのは嬉しいけど実質は4キロだ。これは、あれだな。牢屋生活の後の王都生活で少しリバウンドしたとかそういうやつだな。多分。今後はリバウンドとか痩せにくい時期が出てくるんだろうな。
とりあえず100キロ未満の体重を維持することを考えよう。
ちなみにBMIは41。うん……。目指せBMI30台の世界。
「小林さん!差し入れです!お元気ですか!」
小林さんにそう言ってミルクプリン(ゼラチンで牛乳を固めて煮詰めた樹液をかけたもの)を渡す。
「君たちがなかなか来ないから微妙に心配してしまったよ。まあその様子だと……離して貰えていないみたいだけどね。」
俺の両肩にはミズタマンとトントンが乗っているし、メイもニジを抱っこしている。なお後ろではリーダーが腕を組んで立っている。ボディーカード感がやばい。サラマンザラは何か新しく出来た駐留所にいるらしい。小林さんが何か石に話しかけてサラマンザラを呼び出していた。
「メイ……あれは?」
「魔石だな。色んな石があるがあれは通話石だな。」
石を魔力に込めて俺の世界の電話みたいな役割になっているらしい。
「さすがにマッチョンさんは呼べないけれど、とりあえず軽くお茶会でもしながら打ち上げしましょうか。」
流石小林さんだ。休診日に来てよかった。彼は棚から茶葉を出してお茶を入れてくれた。
「お邪魔します、小林医師。やっと会えた!一応二人は俺の上司というか取引先というか、そういう関係なのでもっと会いに来てくれても良いんですよー?」
サラマンザラがそう言って診療所に入ってきた。
「サラマンザラ、はいこれ。」
メイがミルクプリンをサラマンザラに渡す。
「ありがたくいただきます。」
「狙える栄養効果は主にカルシウム。あとは食物繊維。その他牛乳に入っている栄養素はとれます。」
「さすが栄養大臣ですね~。変に細かい。」
「ただ牛乳をプルルンで固めただけですけどね。」
小林さんが淹れてくれたお茶を運んでくる。
「お茶請けはチョタコの刺身です。」
そう言って大きなお皿に置かれたのは……うん、タコの刺身の形をしたチョコです。スライスされたチョタコの外側は全部茶色のチョコレートだけど断面にはホワイトチョコレートも見て取れた。
「頭の中のビターチョコは部分によっては苦めです。君たちは苦いのは大丈夫ですか?」
「食べてみます。」
渡された金色のフォークでぶつ切りにされているチョタコの頭のあたりの部位を刺す。
「んー……。」
味にグラデーションがあって外側がミルク、内側がビター……その中は甘さが無いようなカカオ率が上がっているような味がする。
「いけなくは……ない感じです。」
メイの零すチョコレートの方が美味しいけれど。
「実さんは味覚が大人ですね。」
サラマンザラが視線をメイに流す。メイは苦めの部分は一つもつまんでいない。
「それに比べてメイさんは苦いの苦手ですか?」
メイはその言葉に眉間にしわを寄せた。
「苦手って言葉だって苦いって字が入ってるだろ。」
「はい。」
「つまり、そういうことだ。」
「どういう事なんですかね?」
別にチョタコの部位も色々あるんだから苦手な部分は食べなくてもいいと思う。小林さんが隣で苦めのところを食べてほわほわマシュマロを飛ばしてるし。小林さんに苦めの部分はあげよう。