第30キロ 日常にただいま
あげるの遅れてすみません!
結局俺たちは国王から名ばかりな役職と栄養についての研究関係の権限を貰った。王から本当に困った時にだけ声をかけるから出来ればその時は招集に応じて欲しいとのことだ。まあ一応いつでも返上可能の大臣の権利らしい。
サラマンザラの竜車に乗って俺たちは帰ることになった。
「あー……やっと肩の荷が下りるぜ。」
メイは竜車の椅子の上でぐたっと伸びていた。
「お疲れー……。ミズタマン達大丈夫かな?」
「あー……多分大丈夫。あの木があいつらを守ってくれてるはずだから。」
そう言えばあの家の木はメイと契約してるとかそう言う話だったか。
「今日は疲れてるから冷ややっこと白米とみそ汁で良いか。」
「そうだな。うん。俺も作るよ。」
それで疲れが取れたら小林さんのところに行って町の様子を見よう。
「ねぇメイ。お菓子を作ろうよ。」
「菓子?食ったらお前、さらに太るんじゃねーの?」
怒ってるわけでも呆れてるわけでもなく心配そうなのが何かギュッとくる。こう、胸のあたりに。
太りすぎによる心疾患だったら嫌だなーと思いながら言葉を続ける。
「そこは太らないように調節する。メイの感情も零してくれれば調節も簡単だし。」
「……俺の感情があれば、菓子なんて不要だろ?なんで作りたいんだよ。」
少しだけ頬を膨らませたメイが俺を見る。
「メイと二人で甘いものが作れたら、とびきり美味しいんじゃないかなって思ったんだ。」
思いのままにそう言えばメイが少し頬を赤くして目をそらした。
「ふぅん。」
サクサクのクッキーも、ふわふわのスポンジケーキも卵に砂糖に小麦粉にバターと……その辺りのものを使っている。
「脂肪と糖……かあ……。」
水を基準に考えて、水は小さじ一杯5グラム。油系は水より軽い4グラム。砂糖とか小麦粉みたいなふんわりした感じの粉は3グラム。ちなみに塩、醤油、味噌のしょっぱい系のは6グラム。料理をする時に覚えた数値だ。
「炭水化物とタンパク質は1グラム4キロカロリー。脂質が9キロカロリーだから……。」
純粋なほど誤差は小さくなる。例えば炒め物を作るときに引く油。あれは結構純粋に脂質なのでそのまま99キロカロリーと考えてもあまり問題はない。例えば5グラムの油を引いたら単純に考えて45キロカロリーアップ!という事なのだ。まあ給油率とか付着率とかは別にあるけれど。そんなことを考えながら現実逃避をする。つまり……
「焼き菓子は無理そうだよなあ。」
俺はため息をついた。
何となく焼き菓子っていい感じがしないか?
可愛い女の子が可愛いエプロン来て大きめのミトンを付けて焼き立てのケーキとかパイとかクッキーをもって出迎えてくれる感じ。お菓子が焼けるにおいも甘くて好きなんだ。幸せの匂いって感じがする。でも……ダイエットにはあんまり向かない。
俺たちは家に帰ってきてすぐに使い魔たちから熱烈な歓迎を受けた。ニジはメイに飛びついて、下ろそうとすると暴れるし、ニジを抱えたメイをリーダーがしばらく抱えていた。
俺もボンっと膨れたトントンの上に乗せられ、ミズタマンにシートベルト的な感じで拘束された。
メイが物語を聞かせるように事情を細かく説明しても3日間くらいそんな感じだった。
とりあえず使い魔の皆も少し落ち着いたので俺は有言実行と言わんばかりにメイと作るお菓子を考えている。カロリーを気にして作るなら……。
「メイ、寒天とかゼラチンって知ってる?」
俺はメイにそう問いかけた。
お菓子の国の輸入品を扱う店にやってきた。メイ曰く菓子作りの材料は大体ここに揃っているらしい。この前は俺とメイはたくさん町に通っていたし、二人一緒だったから使い魔を連れて行かなかった。まあその結果があれなので今日はニジもミズタマンもついてきている。
「これが……あめいか。」
白というより紫のような茶色のような飴色のような色をしている。
「生きてる奴はもっと七色に見えたりするぞ。」
「マジで?」
「ちなみに鮮度がもっと下がると普通の白になる。」
マジで俺の世界のイカみたいだな……。
「ちなみにこっちがチョタコだ。」
メイが続いて指差したのは茶色いタコの形の物体だ。これが今まで何度か話にあがったチョタコか。
「お菓子の国の冷たい海にしか生息しないんだ。あったかい海や、チョコレートの海では溶けて生息出来ないらしい。」
メイはすらすらと言ってくれる。
「本当に実は色々知らないよな。」
楽しそうにそんなことを言うから
「そうだな。だからずっと教えて教えてほしい。」
と言えば、メイは少しだけ頬を赤くしてそれから少し困ったように笑った。そうしてこぼれたチョコレートは
「塩チョコ……。」
アクセントにしょっぱさを感じた。