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第28キロ  王都での生活 アフター

 その日から俺たちの扱いは国賓扱いになったらしい。何かめっちゃふわふわで綺麗な部屋に泊まるように言われて、研究室として大きめの部屋を1つ貸してくれた。

そうしてその日からメイを中心にビタミンB1不足症の周知と治療が始まった。朝から晩まで忙しくて大変で、メイの色んなことが気になったけど俺はメイとあんまり喋れなかった。


「ゴールデンフェアリーって何なんですか?」


俺たちの様子を見に来たマッチョンにそう尋ねる。知識はあっても一番患者を診れるのは小林さんで、メイはゴールデンフェアリーとして忙しそうで、俺が先に部屋に戻って休むことが多かった。


「実殿は本当に知らなかったんだな。」


マッチョンは目を細めてそう言った。


「マッチョンは……知ってたんですか?」


マッチョンは静かに頷いた。


「お前たちの研究所でメイ殿の隠さない姿を見て、それに気付いた。我としては彼女の正体に気付かず、ゴールデンフェアリーの存在を知らない……それでいて……栄養学?の知識はこの世界で一番持っているであろう実殿の正体が気になるところだが。」


まあ異世界から来たからこの世界では確かにワンチャントップかもしれない。そして正体と言えば異世界人ということになるのだろうか?


「ただの世間知らずのデブですよ。」


そう言えばマッチョンは一つ頷いてくれた。


「お前たちは我の恩人だからな。力になろう。」


そう言うととりあえずマッチョンは図書館の本だと言って絵本を渡してくれた。結構有名な話らしい。なんでも他の国でも読まれているらしい。つまりあれか、シンデレラとか白雪姫とか青い鳥の仲間みたいな感じか。

とりあえず3冊渡されたので頑張って読んでみることにする。文字は大体同じなので多分大きく解釈が間違うということも無いだろう。







 1つ目の絵本は王子様と王女様のメルヘンな感じの話だった。閉じ込められた王女様に王子様の仲間のゴールデンフェアリーが力を貸してテレパシーを伝えて窮地を脱していた。


 2つ目の絵本は貧乏な主人公がゴールデンフェアリーにガラクタを届ける話だった。ゴールデンフェアリーがそのがらくたを知識で素晴らしいものに変え、主人公は金持ちになる話だった。


 3つ目は詩集だった。ゴールデン、黄金、金色。様々な言葉で表現されているがどうやらゴールデンフェアリーを指しているらしい。ゴールデンフェアリーは革新の光。黄金の幸福はどんな黄金よりも重い。お空の金色よりも欲しい金色。




 マッチョンに礼を言って本を返す。絵本以外にも研究書とか俗説を集めた文献も欲しいといえば図書館の場所を教えてくれた。


(最近メイの感情食べてないな……。)


口寂しいとでもいうのだろうか。とにかくメイの感情が恋しくなった。


栄養不足の人を助けるのは良い事だと思う。出来るならしたいとも思う。けれど俺がこの世界で一番したいことはそんなことじゃない。俺の目的は異世界でのダイエットだ。ダイエットのためにお菓子じゃなくてお菓子より美味しくてノーカロリーな感情を食べることなんだ。本末転倒にはならないようにしたいところだ。




 ゴールデンフェアリーの特徴はその名の通り髪、瞳、羽がゴールデンだからである。それはゴールデンフェアリーが特殊な魔力を作りながら生きているからであり、特殊な魔力は他に類を見ない程に質が良い。大都市の魔力器具の魔力をただそこで生きるだけで賄えるほどである。


 多くのゴールデンフェアリーはその魔力を存分に生かす才能を持っており、魔法や錬金術、医学、工学、薬学等の様々な分野で技術革新を起こした。それらの実績からゴールデンフェアリーは幸運の象徴、発展の担い手などと言われることも少なくなかった。


 妖精族にも色んな考えの者がいる。他の人間族に有効な者。排他的な者。大体は妖精の里の方針でそれらが決まっている。ゴールデンフェアリーはその役割から里の中で大切に育てられる。そうしてその力により里をより強く、里の技術をより発展させると考えられ里の外にゴールデンフェアリーが行くことは快く思われなかった。




 「そんなことを知って何が変わるんですか?」


小林さんが読書中の俺にそう話しかけた。


「知識は良いと思うよ。正しいか間違っているかは所説あるあるで飲み込むにしても、知ってるのと知らないのとでは全部違うし。」


そう言えば小林さんは顔をしかめた。


「彼女は、君が知ることを望んでいるとは思えない。」

「メイが望んでいることは変わらないことだと思うんだ。結果的に変わらないなら、途中経過……俺の知識量なんて気にしないと思うよ。」


小林さんは俺の言葉に目をパチパチさせた。


「君は……やはり理性的だとでも言おうか……。感情を零さないだけあるな。」


小林さんから散った青いヒバナみたいな感情をつまんだらめっちゃパチパチして痛かった。多分あんまり良い感情じゃないんだろう。俺を見ていた目も冷たい感じだったし。

別に感情が零れないのは感情が動かないからじゃないんだけどな。


「俺は感情的な人間だよ。小林さん。無知が好きじゃないだけなんだ。」


もうこの場にいない小林さんにそっと言う。

知っているからこそダメなことも知るのが怖いこともあるんだろう。でもそれがメイのことであるなら、俺は知りたい。

無知であるがゆえにメイを傷つけたり、無知であるがためにメイの隣に立てなくなる可能性の方がずっと怖いから。知識を持って何かあった時にちゃんと胸を張って彼女の隣に立ちたい。


(まあ胸を張るというか、腹の方が主張が激しいけど。)


なんて思って思わずため息をついた。

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