第27キロ ゴールデンフェアリー
「確かに、使い魔の話も大樹の話も概ねあっています。」
ヤリッパ将軍がその言葉に何か言おうとする。しかしメイは言葉を続け、発言を許さなかった。
「だけど、俺は魔女ではありません。全ては俺の魔力なのです。」
メイは真っ直ぐに立ち、王を正面から見やった。
そんな彼女の髪が茶色から本来の輝くような金に戻っていく。
それは研究所では見慣れた、けれど町では決して見ない彼女の姿。
フィールが目を見開き、マッチョンが難しい表情をする。そして辺りがざわつく。一体何を話しているのか。
普段は隠している金の羽をメイは大きく伸ばした。自然に伸ばしているよりもずっと大きく、まるで見せつけるように開かれた羽は彼女の片方の羽だけで身長ほどもあった。薄い金色の羽からは金色の光がポロポロと零れている。王の様子を見れば目を見開いていた。
「そなたは……ゴールデンフェアリー、なのか?」
王の問いかけにメイは
「ああ。俺はゴールデンフェアリー。職業は錬金術師だ。」
と頷いた。
ゴールデンフェアリーとは、いったい何なのか?
聞きたくても周りの誰もが息を呑んでメイを見ている。とても聞ける雰囲気ではないし、何かすごいものなんだろう。
いつもこんな時、メイが教えてくれるのに彼女は俺に問いかけさせてはくれなかった。メイは俺に一瞬だけ視線をくれて目を細めて笑った。眩しいのはメイなのに、まるで俺が眩しくて仕方ないという風に。
「ゴールデンフェアリーは、フェアリーの里から出てこないはずだ。」
「金の髪、金の羽、金の瞳……あれが伝説のゴールデンフェアリー!!」
「何らかの技術革新の際には高確率で現れるというあの?!」
周りのざわめきからめぼしい情報を探す。何かゴールデンフェアリーがすごくて、メイがそのゴールデンフェアリーであるということは何となく察せられた。
「ゴールデンフェアリーは信じられないほどの魔力を生成して生きている。魔力の問題は全てそれで片が付くのです。」
マッチョンが王に向き直って説明をする。王はそれに頷いた。
「ゴールデンフェアリーは革新の象徴。ゴールデンフェアリーがもたらすのは新しい知識。新しい発展。そんなお話をおとぎ話で聞いたことがあるでしょう。」
メイが周りの人たちに向けて歌うように言った。すらすらと喋るその様は普段のイメージとはまるで違っていた。大衆の率い方を知っているかのような動きだ。
「ゴールデンフェアリーである私が、新しい考えをもたらして何の不思議があるでしょう。此度の病魔の国土への広がり。今までの病とは全く異なるその知識と回復法を、授けましょう。私の右腕、秋野実と共に。」
一人称すらも変わっていることに驚いていると突然名前が呼ばれた。驚く俺にメイが向き直って手を伸ばす。どうやら縄はいつの間にかフワフワと光るメイの魔力の粒によって斬られていたらしい。
そうして、メイは……
あんなに自信満々な感じで大衆に話していたのにその目は俺に縋るようで、
俺は迷わずその手をとった。
周りから一斉に歓声が起きる。先ほどまでとは一転して歓迎ムードでいっぱいだ。
そんな歓声をどこか遠くで聞きながら、俺は目の前のメイだけを見ていた。
あんなにたくさん喋っていたのに、きっと頑張っていたし、声に抑揚だって感情だってあったはずなのに……メイは謁見の間で一粒の感情も零さなかった。