第26キロ 王前裁判
そうしてついに俺は王の前に立たされることになった。手は後ろ手に拘束されたまま、兵士たちに引っ立てられて歩かされる。
王は白髪の……何か丸っこい人だった。白い肌に白い髪。どこかで見たような豊かな腹。あ、何か雪だるまっぽい。というか、これが噂の太った王様らしい。
うん。俺以外に太ってる人を見るのはこの世界では初めてです。
王は俺を見ると少しだけ目を丸くして
「トロール?」
と呟いた。
人間です。いや、俺もあなたのこと雪だるま?って思ったけど!!
荒い音がして小林さんとメイも連れてこられる。
「メイ!小林さん!!」
パッと見二人とも酷い怪我はしていないようだ。
メイの髪の色は何故か茶髪になっていた。
え?染められたの?何故に?
まあそれ以外に気になるところは無いし、ひとまず良かった。二人も俺を見ると少しだけ表情を和らげた。
そうして3人揃って座らされる。
「まず王よ、この者たちの罪状を申し上げます。この者たちは魔女の類と考えられ、この度、我が国全土に蔓延している病魔はこの者たちによって作り出され広げられたと考えられています。」
ヤリッパ将軍は得意げにそんなことを言った。
本当に根も葉も無い話なんだけど!!異論を申し立てるわけにはいかないのだろうか。
手をあげたりは……拘束されてるから無理だし。
「己の行いを反省して病魔を立ち去らせるのなら処刑を、そうでなければ極刑に処す予定です。」
どっちにしても死ぬよね?!あれか、楽に死ぬか苦しく死ぬかみたいな?殺した後死体をさらすかどうかみたいな?!
大分ヤバい展開に焦りが募る。
「王様!!この病気の原因は俺たちじゃないんです!!栄養不足なんです!!」
俺がそう叫べば顔に衝撃を受け、無駄に肌触りが良いカーペットに全身が沈んだ。どうやら顔を殴り飛ばされたらしい。
「王の御前で反省も無く妄言を述べるとは……!!」
ヤリッパ将軍が腹立たし気に俺を睨む。そして俺の横にいた兵士が俺の腹を踏みつぶすように蹴りつけた。
「ぅぐぁああ!!」
「実!!」
俺の名を叫んだメイも兵士に背中を蹴られて咳き込む。小林さんは青い顔で俺とメイを見てグッと怒りを抑えているようだった。
もう少ししたら小林さんの赤い煎餅が見れるかもしれないなんて場違いだけど思った。
「王よ!!お待ちください!!」
バーンと王への謁見の間の大きな扉が開かれた。
そうして、そこに立っていたのは……
「「マッチョン……?!」」
マッチョンこと屈強な戦士だった。
これにはヤリッパ将軍も驚いたのか目を見開いている。
扉のところにサラマンザラがいるのが目に入った。どうやら手引きしたのはサラマンザラの様だ。
「ふむ。どうした、屈強な戦士よ。発言を許そう。」
王はマッチョンを信頼しているのか、雰囲気が柔らかくなって、そう口を開いた。
「ありがとうございます。……ここにいるめいじつ研究所の者たちは我の命の恩人なのです。」
「我……?」
「ごほん。とにかくこの者たちは我が件の病魔に襲われている時助けてくれたのです。きな粉餅で!!」
そこできな粉餅を出すかー。
いや、確かにマッチョンの主な治療薬はきな粉でしたが。
「今はもっと効能が高い栄養ドリンクをそこの小林医師が売っているとか。更に最近は病魔に効果がある餅ブタの肉の調理法を編み出したそうです。」
サラマンザラから聞いたのかマッチョンはしっかりといろいろ説明してくれた。その隙に上体を持ち上げて、メイの方に目をやる。すると俺を心配そうに見ているメイと目があった。今にも悲しみのドロップが零れそうな悲壮な表情である。
「そして病魔の正体はあの者が言った通り、栄養不足。体の機能に必要な物質が足りぬゆえに起きたこと。それらが多く含まれる玄米が我が国で食べられなくなったことが大きな原因です。」
王はそれに目を丸くした。
「約2年前だぞ?!何故いまさら。」
その答えは、俺が持っている。
「不足症は、長期間不足していることによって起きるんです。」
俺が言えば周りで見ていた兵士もざわついた。そこにカツンとヒールの音がした。
「屈強な戦士の言うこと、確かに一定の信頼には値するでしょう。それこそ病気の治療の部分は信じていいでしょう。しかし栄養と言うものは俄かには信じられません。この者たちが病魔を広げたという疑いはまだ晴れていないのです。」
そう言いながら兵たちの後ろから姿を現したのは
(フィール……?!)
町で出会った感情屋、フィールだった。
「そうだ!!自分たちで作った病魔故に治療は出来るのだろう。」
ヤリッパ将軍はフィールの言葉に飛びついた。
「それにそのフェアリーは明らかに異常だ。あの魔女の森で多くの使い魔を操っていると聞いたし、大樹に住んでいるらしいのに発見できなかった。その大樹を覆うほどの結界を張っているならそれこそ魔物や悪魔と契約して魂を売り、大量の魔力を手に入れなければならない!!魔に身を落とした魔女に違いないのです!!」
その言葉に小林さんが苦虫をかみつぶしたような表情をする。痛いところをつかれたようなそんな表情だ。
「そうだな。……申し開きはあるか?フェアリーの子よ。」
王がメイにそう問いかける。マッチョンもフィールもメイの方に向き直る。
「メイ……。」
呟くような俺の呼びかけにメイは柔らかく笑った。
そして彼女はその場にしっかりと立ち上がった。
マッチョンは王の信用もある良い人。