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第25キロ  王都での生活 ビフォー

前半は実視点。後半はメイ視点です。

 そうして竜車に乗せられた。めっちゃ高くて怖かった。

待遇が最悪とかそう言うのも問題だけど何より空を飛ぶのが怖すぎた。

サラマンザラは弱弱しい表情で俺たちに謝った。雇われているものとしては上司が嫌なやつだとマジ苦労するよな!俺は全力で同意してサラマンザラに笑った。メイも当初はむくれていたがサラマンザラを心配してもいるようで溜飲を下げていた。

小林さんも基本的にはサラマンザラを心配しているようだった。それでいて王都の騎士のやり方を仕方ないと思う一方、不平不満もあるようで受けた扱いに不服な点があると全て笑顔でメモをしていた。やっぱり小林さん賢くて怖い。曰く、どんな状況でも証拠はあった方が良いとのことだ。


 上空から見えた王都は何か滅茶苦茶大きくて、建物の構造とか、素材とかが違うけど何か元の世界で都会とかを展望台から見たのを思い出した。そうして灰色の石材で作られた大きな建物、王都の中心にあって一番大きいので多分ここが王が住む城なのだろう。

 そうして放り込まれたのは客室でも牢でもなく、従業員用の適当な空き部屋の様だった。男女混合で部屋に放り込むとか酷い……。牢じゃないのは抵抗をしなかった褒美ってところなのかな。


そんなことを思っていたけど甘かった。

本当に甘かった。

次に兵士たちに連れて行かれたのは何か……


(裁判所……?)


沢山のが周りの席から俺たちを覗き込む。先ほどの従業員部屋は俺たちを牢に放り込む前段階の控室だったらしい。


「あそこの森には元から魔女が住むという噂があった。」

「そこにいた者たちが、今回国全土に広がった病気を治せるなんて偶然とは思えないわ。」

「そうだ、きっとこいつらが、病気を国全土に広げたに違いない。」


そこにいた者たちの多くは車いすだった。脚気が結構進行しているのだろう。

彼らは責める相手がただ欲しかったようで俺たちの説明なんて全く聞かずに、俺たちを牢に放り込んだ。


「将軍!!僕はこんな話、聞いていません!!」

「何を言うんだ、サラマンザラ。皆様は事実から導き出される答えを述べただけだ。」


サラマンザラが苦々しい表情で歯を食いしばるのが見えた。


俺たちを責めたら病気が治るとでも思っているんだろうか。

毎日たくさん食べているのに、足りないものがあるなんて信じないんだろうな。


俺たちは今度罪人として、王の前に連れて行かれるらしい。

男女の問題とかプライバシーの問題とかの関係では無く、おそらく協力して逃げ出さないように俺たちは一人ずつバラバラの牢に放り込まれた。


最低限の配慮か食事はサラマンザラが運んできてくれた。サラマンザラにメイと小林さんの状況を簡単に聞く。

医者である小林さんは医療関係で取り調べを受け、メイは魔女なのではないかと疑われているようだった。フェアリーでも魔女ってあるの?と尋ねれば職種なんだからありえますと返された。一応王に合わせるまでは暴力を振るわれることは無いようで、そこはひとまず安心だった。

多分俺は無能に見えるんだろう。尋問とかもほぼなく、栄養なんてものを語る俺はただのバカだと認定されたようだった。



 頭をよぎるのは自分がこれからどうなるか、と言うことよりもメイのことだった。

ただのバカとしか思われていない俺と違ってメイは明らかに危険視されている。頭に魔女狩りのイメージが連想されて嫌な感じしかしない。拷問とか、死んだら人間死ななければ魔女とかいう刑に処されたりしないだろうか。


(そう言えばメイ……牢に入れられたら帽子とられちゃうのかな。)


外出時は帽子を深く被っていたメイを思い出す。あの行動にも何か理由があるとは思うのだけど……とにかくメイが痛い思いや嫌な思いをしないように願うことしか出来なかった。











 「魔女じゃなくて錬金術師。で、連れの実は栄養士。」


俺の意見はずっとそれだ。事実だし変わらない。しかし兵士たちは納得しないようだ。

帽子はとられてしまったので髪の色は茶色に変えておく。こちらの方が普通だし、怪しまれることも無いだろう。


「あれ?メイちゃんってそんな髪の色でしたっけ?」


そう、以前会ったことがある者でなければ。

確か、感情屋のフィールだ。旅をしていると言っていたが。やっぱり国の巡査を兼ねた旅だったようだ。


感情屋は旅芸人。感情で人を魅せることで金を稼ぐ。

しかし、感情屋には他の職種もあるのだと聞いたことがあった。


感情を自在に操り、出せるなら、それは素手で敵地に乗り込むことも可能にするのだと。現に目の前の女は俺を見て不思議そうに首を傾げながらもたくさんの赤く鋭い刃を俺に向けていた。


「ちょっと聞きたいことがあるんです。」


彼女はあの日、実と町で話していた時となんら変わらない表情で俺にそう言った。


「私はあなたを傷つけたくはないんです。」


と彼女は言った。


それに嘘は無かったのだろう。結局かすり傷一つさせられなかった。

目の前に怒りの刃をかざされても、顔の横に憤りの岩石を叩きつけられても苛付きの茨が足元の牢の床を抉っても、彼女は私の体には傷をつけなかった。


「素直でいい子なあなたなら分かるでしょう。あなたに秘密があるのなら明かしてしまいなさい。実君を守りたいならそうしなさい。」


――――魔女なら、魔女であると。罪人は自分一人なのだと言いなさい。

フィールは少しだけ泣きそうな顔でそう言った。








 例えば一人で森の中に住んでいたこと。


たくさんの使い魔を従えていたこと。


動かすのに大量の魔力が必要な装置をたくさん普通に動かしていたこと。


人前では基本的に帽子を被って羽を隠していたこと。


すでに命が付きかけていた大樹と契約を結び新たな生を与えたこと。



そのどれもが普通ではないらしい。ばれたら面倒なことになるらしい。

出来そこないで、何もできないのに、過度な期待ばかりを押し付けられてしまう。

それか意思が無い方が良いような、魔力のタンクにされてしまう。


どちらもごめんだった。

だけど、どこかで諦めきれなくて、

出来そこないの自分でも誰かを救えるならと思ってしまった。

だから――――


この世界の常識が全部吹っ飛んでいたお前に全力で手を貸したくなった。


そんなことを言ったら、お前はどんな感情をその胸に抱くのだろうか。







牢で一人、実のことを思えばコロリとチョコレートの感情が零れた。


(この感情は、本当によく分からない。嬉しくても悲しくても零れる。何か心がすごく揺さぶられる感情なのだけど、その正体はいつまでたっても掴めない。)


見たことが無い感情で、感じたことが無い感情だった。

口に放り込めば、結構ビターでほのかに柑橘系の香りがした。


こんな味、知らないのに。


「……覚悟を決めるか。」


一人、誰に言うでもなく呟いた。

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