第24キロ 理不尽な連行
最初の部分だけサラマンザラ目線です。
知るわけが無い。分かるわけが無い。王都へは毎日定時に報告を行って、もうすぐ医師たちを連れて行くと連絡していたのだ。世間知らずなデブと不愛想なフェアリーのことを悪く報告したことはなかった。危険性なんて報告したことも無かったのに。
確かにそこまでの信頼関係は無かっただろう。彼らの森の中の店に行ったことはあれど、彼らが住んでいる研究所にはついぞ行ったことが無かった。けれど、彼らを嫌いなわけでは無かった。彼らが疎ましいからと王都の騎士を呼び寄せる様な事はしていなかった。メイが今にも泣きそうな目で僕を見るから、居ても立っても居られなかった。
「僕の後ろをついて来てください。何かあったら盾にはなります。」
そう告げれば実さんが頷いてくれた。
「実……。」
メイは実さんを見て少し苦い表情をしながらも僕の後をついてくることを決めてくれた。森の中を走って、二人の店がある辺りまでやって来て、俺は足を止めた。
(ああ……。あんたか。)
そこにいたのは僕の上司。独断と偏見で走り回り、やりたいことをして、後始末は周りに押し付ける男。槍の腕はなかなかだけど……ある意味、とってもいい性格をした男がにんまりと笑って立っていた。
「こんな辺境の森まで、どうされたのですか?ヤリッパ将軍。」
ヤリッパ将軍は顎が尖っているような顔をしていてそこからクルンとした顎髭が生えていた。顔とか髭のセンスも大分ヤバいと思うんだけど
(ヤリッパ……?ヤリッパって名前なの?!王都の騎士の将軍。)
個人的には名前のインパクトに問題を感じる。
サラマンザラが俺たちを隠すように将軍に向かっているのを見ると単純な味方と言うわけでもなさそうだ。メイが俺の腹の影に隠れるようにくっついてくる。
まあ確かに良い印象は受けない。なんていうか、俺の元職場の店長みたいな印象を受ける。つまり、理不尽に部下を扱い自分に出来ることは誰にでも出来るのだと強要し、怒鳴り、人前で部下がどれほど出来ないのかを公開していくような人間だ。
「いや、サラマンザラ。お前があんまりにも遅いから心配したんだ。何があった?」
「報告したとおりです。こちらの民の健康にも配慮した結果であり」
「それにしたって遅すぎだよな?どうしてこんなに遅いんだ?俺ならその日に連れてくるな。分からないのか?相手に同意を求めるのがいけない。おい、お前だったらどうする?」
ヤリッパ将軍はそう言ってそばに控えている部下に問いかけた。部下は背筋を伸ばしていった。
「どのような相手であれ、速さが肝心なので、まずは適当な罪状を押し付けて犯罪者として輸送します。罪状は王都で誤解であったと言って解けば問題ないでしょう。」
あんまりにも滅茶苦茶な内容に目を見開く。拒否権も与えられないような方法で連れて行くなんて。
俺はサラマンザラが来た当初、町の人たちが言っていた王都の騎士はあんまり良い噂を聞かないという話を思い出した。本当に嫌な奴らだ。
「そうだ。サラマンザラ、次回以降はこれを見習え。まずはそいつらを今すぐに強制連行しろ。」
サラマンザラは辛そうな表情で俺たちを振り返った。元から行こうとは思っていたんだ。サラマンザラはここ1か月頑張ってくれた。だから、少しくらいは仕方ないと思ったのだ。俺は大人しく連行されることにした。
年内最後の投稿になります。
良いお年を!