第23キロ 減量の途中経過
こうして俺たちは餅ブタの肉の調理法や有効性や味について町の人に言いまくった。
1週間もすると冒険者の人たちが餅ブタの肉を狩ってきて、肉屋がそれを買い取り、店やお家で食べられるようになった。味が良いことと、有効性があることから結構なブームだ。肉屋では一時餅ブタの肉が品薄になったりもしていた。安定するまでは俺たちも並行して栄養ドリンクを小林さんに売ってもらった。
そうこうして、一月ほどすれば町全体に餅ブタ料理がしっかりと広がった。根付いたわけでは無いかもだけど一安心していいだろう。
ちなみに一月の間、サラマンザラは宿屋に泊まって小林さんの診療所に毎日顔を出していた。
俺とメイは餅ブタの肉の可能性について色々模索したり……使い魔の皆さんが友情を深めるのを見ていた。
ブラックピッグは俺を仲間だと認識しており、細かく言えば使い魔とは微妙に違うらしい。けれど大きい分類にしてしまえば使い魔だとメイは言った。研究所に帰ってきた俺たちは人参の使い魔たちに群がられた。どうやら寂しかったらしい。ニジはメイに抱っこされたがっていたし、リーダーもメイの後ろについて回っていた。何気に怖い。
そして俺の問題は……頭の上に乗っているブラックピッグを見たミズタマンが目を見開き、プルプル小刻みに震えていることだった。めっちゃ怖い。爆発しそう。俺はとりあえずブラックピッグを床におろした。
「皆、俺の仲間だから仲良くな。」
そういえばブラックピッグは種族名だったか。ちゃんとした名前はまだ付けていなかった。
「えっと……トントン。」
トントン。我ながら良い名前である。豚のトントン。撫でてやればトントンは誇らしげに黒い毛をキラキラさせていた。床に降りたトントンの前にミズタマンがツタを使ってシュルリとやってくる。こう見るとトントンは小さくて、ミズタマンの半分とまではいかないけど結構な大きさの差があった。
(ミズタマンの方が1.5倍くらい大きいような……。)
2匹はしばらくお互いをジッと見て動かなかった。
そうしてしばらく、ニジがようやくメイから離れた時にニジに2匹で何かを訴えているようだった。そしてそれを聞いたニジがメイに
「何か、トントンとミズタマンが決闘するから地下3階を開けて欲しいとか言ってるんだが。」
と伝えたらしい。
「え?!何それ物騒!!」
決闘って何?!そんなに怖い話になってたの?というか地下3階ってまだ封印されてるフロアじゃなかったっけ?!
「3階の脅威の排除も込みで決闘したいんだって。」
メイは立会人及び有事の際の回収の役割をリーダーに頼んだ。そうしてミズタマンとトントンとリーダーと数匹の人参の使い魔を地下3階に放り込んだ。
彼らが出てきたのは放り込まれてから4日目で、ミズタマンとトントンはボロボロだったけど互いに寄り添って出てきた。
多分肩を組んでるんだと思う。豚とスイカが肩を組む状況がよく分からないけど。
とにかく二人の間で何か落としどころが決まり、友情が芽生えたのだろう。それから2匹は俺の頭には乗らず両肩に1匹ずつ乗るようになった。
「微笑ましいな。」
メイはマシュマロを零しながらそう言って笑った。うん。確かに喜ばしくて微笑ましいけど
(何気に両肩が重い……。)
腹回りを計ったら98㎝㎝だった。体重は102キロ。
これは結構コロンビア!!と言いたい。結構順調に痩せている気がする。まだ4か月たっていないのに8キロ減量成功である。
しかも腹回りは100㎝を下回ったのだ!!やったね!腹回り1メートルの世界よ!さらば!!!と言う感じである。リバウンドとか色々考えることもあるかもしれないがとりあえず痩せたことに喜びたい。まあ減量の初めの方は結構ガンガン体重が落ちる気がするけれど。ある程度落ちると落ちにくくなるとか聞いたことあるな……。とりあえず次の目標は体重が100キロを下回ることである。BMIは43だった。前回46くらいだったので、それにも感動する。40代前半の世界……!!
そんな感じの一か月だった。
「そろそろ良いですよね。小林医師も実さんもメイさんも王都に来てくれますよね?」
そう言うのはサラマンザラだ。確かにそろそろ餅ブタも町に流通しているし、俺たちがいなくてもすぐにたくさん死人が出る様な事にはならないだろう。それにサラマンザラが此処に来て一月。そろそろ俺たちを連れて行けないとサラマンザラが職務怠慢とか責められそうだ。今回の餅ブタの件に置いてサラマンザラは一番の功労者かもしれないのに。
「そうだね。そろそろ王都に行く準備をしようか。」
「そうだな。病気の説明ができるもの……後は栄養ドリンクと餅ブタの肉を持ってくか。」
「後は患者さんたちの状態レポートも持って行こうか。ちゃんと匿名です。」
そんなことを話していた日だった。
森の方が騒がしいのに気が付いた。今から帰ろうと思っていたのに、どうしたんだろう。森に入れば動物が逃げ、鳥が飛んで行った。
「どうしたんだ?」
メイが1匹に尋ねれば返答が返ってきたらしい。目を見開いて俺達を振り返る。小林さんもサラマンザラも森の様子がおかしいとここまでついて来てくれたのだ。
「どういう事だ、サラマンザラ。」
「は?」
「この森で王都の騎士が暴れているそうだ。」
サラマンザラはその言葉に固まった。