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第22キロ  流行れ!餅ブタのポーション漬け


そうして餅ブタを手に入れたはいいものの……


「血抜きとかが適切じゃないと美味しく食べれないんじゃね?」


俺はそれに思い至った。


「あーそうですね。解体だけなら何とかできますけど美味しくは食べれないかもしれないですね~。」


それはいけない。せっかく命を頂くのならやはり美味しく食べたい。


「とりあえず後で肉屋に持って行くとしても栄養価は調べろ。そうじゃないとマジで来た意味が……。」


メイは呆れたようにそう言ってから俺の頭の上のブラックピッグを撫でた。


「とにかく!来た意味がこいつの捕獲以外なくなるから、さっさとやるぞ!」


とりあえず、ビタミンB1及びタンパク質を調べてもらおう。紙に化学式を書いて渡す。


「100グラム当たりの含有量……で調べるぞ。」


メイが餅ブタに手をかざす。


「ビタミンB1は……0.91……mgくらいか?」

「よし!上々!!」


豚肉も部位ごとにビタミンB1の含有量は異なるけれど、とりあえず適当に測ったところで0.75mgを超えるなら上々の結果と言っていいだろう。


「とりあえず町に持って帰ろう!」

「え?もしかして俺が担ぐパターンですか?」


俺とメイは顔を見合わせる。身長155㎝以下の俺たちに何か期待はしないでほしい。牛サイズの魔物を持って帰るとか無理な話である。


「……仕方ないですね。ちゃんと後日二人とも王都に連行しますからね?」

「連行とか物騒!!」

「ご同行願いますからね。」


サラマンザラはため息をつきながらも餅ブタを背負って歩いてくれた。毒舌だが多分ある程度良い人なんだろう。





 そうしてメイ御用達の肉屋に餅ブタを持っていく。


「餅ブタか……。やれるだけやるけど、食えるのかね。」


角の生えた店の人は少し困り顔で餅ブタの解体を引き受けてくれた。持つべきものはその道の専門家である。





 「と言うわけで、小林さんもどうぞ。」

「何がと言うわけでなんですか?」


小林さんの診療所の台所ナウである。そこに置きましたのはでかいサイズの肉のブロック。筋が滅茶苦茶入っていて何となく血が集中しているところは紫に見える肉である。


「……何のお肉ですか?」

「餅ブタです。」


小林さんはマジで狩ってきたのかこいつらって顔をして俺を見てきた。実行犯はサラマンザラです。まあ俺も共犯ではあるけれど。


「とりあえず、肉質が固そうだから、殴りまくるか。」


メイはそう言って小さなハンマーのようなものを持ってきた。


「えーっとそれは?」


尋ねればメイはニッコリ笑って


「ミートハンマー。」


と語尾にハートが付きそうなテンションで言った。肉叩きですね、分かります。


「これだから何も考えていない子は嫌ですね~。」


サラマンザラが横でため息をつく。その手に握られているのは包丁だ。


「ほお?じゃあお前には他に策があると?」

「筋が多いなら筋切すればいいでしょう。繊維に直角に切るのも有効でしょうけど。」


どうやら結局物理的解決の様だ。ちなみにこれらの物理的に肉を柔らかくする方法を機械的軟化方法と言います。うん、目の前のちょっと大分物理的な解決に現実逃避しているだけなので気にしないでください。とりあえず肉の味が分かるように、作られたのは餅ブタのソテーである。早速実食……。


「味は……そこまで変じゃないと思うんだけど。」

「毒があるわけでも無いんですが……。」


味としては豚肉に似ている。豚肉より硬めだけど、味はやや上かもしれないレベルだ。だけど……


「何か腹は満ちるけど体力を削られるような感覚がする。」

「「「それだ!!!」」」


サラマンザラの言葉に全員で同意した。


「餅ブタは群れはするけどそこまで強い魔物でも無い。あんまり他の魔物の捕食対象にならないのかな?と疑問には思っていたけど、そういうことか。」


メイが納得したように頷く。つまり?


「毒は無い。味は普通。けれど食べるのに体力を消費させる特性がある。食事は普通空腹を満たし、体力を回復する手段だ。体力が減る特性なんて、面倒なことこの上ない。この特性故に餅ブタは他の生物の捕食対象になりにくいんだ。」


メイの言葉に一同納得する。


「肉を柔らかくする方法は調味料とか果物の酵素を使うとか色々あるけど、味と肉質の改善にはなっても特性はどうにも出来そうにないよね。」


俺がそう言えば小林さんとサラマンザラは少し驚いたように俺を見た。


「え?何?」

「いや、知ってはいたけど、何気物知りですよね。」

「ただのデブじゃないんですね!」


調理知識に驚かれていたらしい。俺の言う調理法を聞いてみたいと言われたので紙に書いて説明していく。


「漬け込む……。回復薬のポーションに肉を漬け込むのはどうだ?」


メイが顎に手を当てながら呟く。


「え?ここ回復薬のポーションなんてあったの?」


初耳な気がする。この世界にそんなものがあったなんて知らなかった。


「普通の店でも売ってるじゃないですか。実さん世間知らずですか?」


サラマンザラが不思議そうに首を傾げる。小林さんも首を傾げている。


「世間知らずなんだよ。実は。」


メイが俺のお腹にポンと手を当ててそう言う。


「だから俺が教えてやるんだ。いつも実から色んなことを教えてもらってるから。」

「メイ……!!」


メイが俺を見上げて笑う。やっぱりメイかっこいい!!

ちなみに回復薬のポーションは効果によって種類は様々あるらしい。小林さんの診療所ではS級の回復薬も少量なら置いているらしい。小林さんすごいよね!


「回復薬は主な効能は体力回復。疲れてる時に摂取して元の体調に戻したり、怪我の治りを早くしたり、風邪を治癒を促進したりする。」


ある意味これこそ栄養ドリンクな気がするけど。ぜひ俺としては回復薬のポーションのカロリーや成分が知りたい。


「回復薬の効能は大抵が薬にかかっている魔法らしいから、成分とかはあんまり意味がないかもしれないぞ。」


とメイは苦笑した。そうか……そこはファンタジーでマジカルなんだな……。


「とりあえずC級の回復薬のポーションで良ければ使っていいですよ。」


小林さんが苦笑しながら薄い緑色の透明な液が入った小瓶をくれた。本当は真空パックとか出来れば肉の中まで液を沁みこませらるかもしれない。まあ出来ないので下ごしらえは重要だ。メイに肉を殴ってもらってサラマンザラに切り込みを入れてもらおう。


「ちなみに回復薬の味は?」

「C級は出回ってるから飲みやすい味ですよ。A級とかだとめっちゃ苦いんですよ。まあ使う場合はそんなこと気にしてられないから無理やり飲ませますが。」


試しに少し小皿に出して舐めてみた。


「ほぼ無味?」


少しだけ苦みがある気もするけど、あれだ、炭酸水が苦いような気がするのと同レべの味わいだ。ひとまず気にせず使っていいだろう。殴って切り込みを入れた肉を袋に入れる。そこに回復薬を入れて袋の上から揉む。袋から肉を出して塩と胡椒を振りかけてフライパンでソテーにすれば……。


「見た目はさっきと一緒かな?」

「まあ回復薬入れただけですもんね。」

「実食しましょう。実食。」


小林さんが一番吹っ切れてる……。とりあえず俺たちは一口ずつ食べてみることにした。


「おお?!」


回復薬の効果か、食べても疲れるなんてことは無い。それどころか


「さっきより肉が柔らかい!!」


成分の問題か、それとも回復薬の細胞に働きかける効果か普通に機械的軟化方法をとるだけの肉より数段柔らかい。筋っぽさを感じない。ちなみに筋と言うものは歯触り的に味わいに及ぼす影響はマイナスだけど、しっかり煮込んだりして固さを克服できればちゃんと美味しい。


「回復薬が肉汁と混じってますね。うん!ジューシー!!」


メイだけじゃなくサラマンザラも小林さんもマシュマロをポロポロ零しながらフォークを動かしている。回復薬という特殊なものだからだろうか、水っぽさは無く、むしろジューシーさが増している。俺が知っている中ではなんか、こう、ワインを使った料理が一番似てる気がする。


「これならむしろ流行りますよ。流行ればそこから人々の食生活に溶け込めると思います!!」


小林さんもそう言ってくれた。



「よし!俺と実は肉屋さんにこの料理を持って行ってアピールしてくる。」

「レシピを書いて、あとこれが脚気予防につながるんだよな?!それについても書いてきます!!」

「じゃあ僕はギルドに行って、餅ブタの肉を獲ってきて~って依頼を王国騎士の名前のもとに出してきますね~。」


こうして俺たちは餅ブタを流通させるように尽力することにした。


今までで一番大人数での料理シーンでした。

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