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第21キロ  餅ブタ狩り

 小林さんは診療所に戻り、餅ブタ狩りには俺とメイとサラマンザラで行くことになった。


「そういえばお前は体調悪くないのか?」


メイがサラマンザラを見てそう尋ねた。


「僕は体をたくましく保つために赤身肉と野菜と牛乳をメインでとってるからね。」


ビタミンB1は炭水化物をエネルギーにする時に必要なものだ。食べる炭水化物の量が多ければ必要なビタミンB1も多くなる。つまり彼は炭水化物をあまりとっていないから少ないビタミンB1でもどうにかなって、牛乳から摂れる量で足りるのだ。

うーん。その食生活もそこまで良くはないんだけど……。

筋肉を効率的につけたいなら炭水化物でエネルギーはしっかりとるべきだ。そうでなければタンパク質がエネルギーとして使われてしまう。今の状態でエネルギーをとることをお勧めは出来ないけど。


「それにしてもメイさんは僕が嫌いなんだと思ってましたが、心配してくれるんですか?」

「……嫌いでも心配くらいする。」


メイがぶっきらぼうに答えるが言っている内容は良い子だ。うん。やっぱりメイは良い子。ちらりとサラマンザラを見てみればなんだかポカンと口を開けていた。


「それにしてもメイさんは身体的特徴から見てフェアリーの様ですが飛ばないんですか?」

「別にいいだろ。気が乗らないんだ。」


メイはそう言うと帽子を深く被り直した。






 餅ブタは主に郊外の米農家を襲いに来るらしい。また、稀に町とかの米を売る店にも被害が出るらしい。一番被害が多いのは餅ブタが出ることを知らずにおにぎりをお弁当に持ってきたよその国の観光客らしい。餅ブタの主な攻撃は体当たり、およびその鼻によるぶっ飛ばしである。ぶっ飛ばされて怪我をするパターンが多いとのこと。


 ちなみに米農家さんたちは餅ブタ対策に餅ブタと番犬を飼っているらしい。番犬で餅ブタを追い払い、万が一餅ブタにぶっ飛ばされた時には飼っている餅ブタに受け止めてもらうらしい。動くもちもちクッション餅ブタ。飼いならせば心強い味方の様だ。


「まあ今回は食用だけどね。」


森を抜けて草原を歩く。


「あれは……田んぼ?」


水路が引かれていたので辿ってみたら水田があった。


「これは良いですね!米農家があれば餅ブタたちが生息している可能性も高くなるでしょう。」


サラマンザラがそう言って喜ぶ。米農家があるなら農家の人もいそうだけど……。見た限りでは家とかは見えない。どうやってこの水田を管理しているのだろうか。


「農家の人とかいないのかな。」

「そうですね~。農家の方がいたら一泊くらい泊めてもらうんですけどね。」


サラマンザラが俺の言葉に同意した感じで言ってきたが、別に俺はそういう意味で言ったわけじゃない。いや、実際問題日が傾いては来てるんだけど。


「王都の騎士様はしっかりしたお家じゃないと眠れないのかよ。」

「そこまで上級な騎士じゃないから野営もバッチリですよ~。フェアリー族のちっこい女の子の方が野営なんて出来ないんじゃないですか?」


この煽り合っていくスタイルどうにかして欲しい。そして今、一番言いたいことは


(多分この中で一番野営とか出来ないの俺なんだけどー?!)


ということだった。



結局水田の近くの木の横で野営をする感じになった。サラマンザラの予備の槍にメイに言われて持って来ていた布をかけて簡単な屋根を作る。無いよりはだいぶマシで何かテント感が出た。サラマンザラは流石王都の騎士と言うべきか、魔物除けの結界を張ってくれた。思ったよりずっと優秀な人である。






 そうして翌朝である。


「とりあえず水田に沿って歩くか。」


のどかな感じの田園風景の中を歩く。カメラがあったら一枚摂撮りたいところだ。そんなことを思っていたら


「わ?!」


頭が重くなった。というよりは、頭に何か落ちて来た?別に痛くは無かったけれど。


「メイ、俺の頭に何かついてる?」


俺の言葉にメイとサラマンザラが振り返る。


「あー。ついてますね。餅ブタの亜種かな?早速狩りましょうか!」


サラマンザラがそう言いながら槍を構える。

え?頭に乗ってるの餅ブタなの?!

俺はキョドりながら頭の上のものを触って確認する。

何か……毛が生えてる様な?モフモフで柔らかいんですけど?


「待て。多分それは餅ブタじゃない。」


それを止めたのはメイだ。


「ふむ?確かに餅ブタとは少々違いそうですが、味には大差ないのでは?」

「大事なのは栄養。豚とイノシシでもだいぶ違うんだから!」


特にビタミンB1においては。

俺とメイに止められてサラマンザラは渋々槍を下ろした。


「でも多分それ、魔物でしょう?狩った方が良くないですか~?」


頭の上のものを手でつかめたので胸元まで持ってくる。


「か、かわいい!!」


俺の頭に乗っていたブタ型の魔物は黒い光沢のある毛皮に覆われてモフモフしていた。何か表情は心なしか凛々しい。


「多分そいつはブラックピッグ。極稀に人間に懐いて幸運をもたらすとか何とか。」


メイも詳しくは知らないみたいだが、どうやら良いものらしい。


「ブラックピッグなら知ってます。たまにホワイトピッグと一緒に群れで行動する……あ。」

「あ……。」

「え?」


メイとサラマンザラの視線が俺の腹部に集まる。

そうか、つまりあれか!


「この俺のもちもちボディにブラックピッグが寄ってきたんだな!」

「「もちもちボディ……。」」

「え?マシュマロボディとかの方が良い?」


メイとサラマンザラに微妙な表情をされた。わがままボディとかの方が良かったのだろうか。


「とりあえず敵性の魔物ではなさそうですね。」

「実を仲間だと思ってるならむしろ味方なのでは。」


そんなことを言っている内に水田のある側と反対側から鳴き声が聞こえた。


「……犬の鳴き声?」

「そうですよ。ここで昨日の話が役に立ちます。」


昨日の話……。そうか、確か農家は餅ブタ対策に餅ブタと番犬を飼っているんだっけ!!

俺たちは顔を見合わせて鳴き声の方に向かうことにした。







 そうしてそこには確かに餅ブタが5匹ほどいた。


「群れとしては小さいですがちょうどいいと思います。とりあえず確実に一体は仕留めますね。」


餅ブタは普通のブタが丸くデフォルトされた感じだった。まるかいて尻尾と鼻と耳をつけました!って感じ。ただし大きさはだいぶ大きい。俺の世界の牛かな?って思うくらいの大きさをしている。

そしていまさら気が付いたけど、俺たちのパーティって魔物と戦えるのサラマンザラしかいなくない?


「実!番犬の後ろ側に行くぞ。」


メイに腕を引っ張られて餅ブタから遠ざかる。


「え?あれサラマンザラ一人でどうにかなるの?」

「あいつは騎士。それこそ戦闘のプロフェッショナルだ。あいつに任せて、俺たちは非難しといた方が良い。」


確かに俺達を庇いながら戦う方がリスクは大きいだろう。



サラマンザラの実力は確かなもので俺たちが距離を置いて振り返るころには餅ブタの一匹にサラマンザラが止めを刺していた。他の餅ブタたちはそれを見て怯えてどこかに行ってしまう。


「強いな……。サラマンザラ。」


流石は王都の騎士である。


サラマンザラは普通に強い。普通に。

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