第20キロ 豚が無理そうなので魔物の餅ブタで代用しましょう
出てくる名称は魔物の名称とか人名とか色々とフィクションであり現実世界の色んなこととは一切関係ありません。
「いやあ、本当にぷにぷにのお腹ですね~。ここまで太ってたらつついたらそのまま転がってくんじゃないかと思ってましたけど、そうはならなかったですね~。」
悪気が無いらしい言葉をぶつけられお腹をつままれる。
「えーっと……。」
「いや、本当に小林医師とご一緒で良かった。御一人だったらモンスターと勘違いして攻撃しちゃってたかもしれません。」
ニコニコしながらサラマンザラは言うけれど言ってることは滅茶苦茶怖い。
サラマンザラは何気に押しが強く、めいじつ研究所の他の人にも会いたいと言って店の方まで押しかけられてしまった。流石に研究所には来てほしくない。その道すがら脚気についてのお話は一通りした。ちなみにミズタマンは俺の頭の後ろにくっ付いて体にツタを巻き付けている。多分防御態勢なんだろう。
「流石にそれは避けたいですね。」
と言ったのは小林さん。俺の腹を触るサラマンザラの手を叩き落としたのはメイだ。騎士とは会いたくなかっただろうに店に押しかけられて会うことになってしまった。
「おや、メイさん。そんなに怖い顔してどうしたんですか。」
「実に攻撃なんて俺が許さない。」
メイかっこいい!!
どうしよう、中性的だしすごくイケメン!!って、感動している場合じゃない。
「サラマンザラさん、本題に入りましょう。」
「あー……確かにそうですね。ついついお腹をつつきたくなっちゃって。」
可愛くてへぺろされても可愛くない。眉を寄せたメイからはパラッと赤い三角形が落ちた。
「えーと……メイ、これ何?」
メイは赤い三角形を見て少し気まずそうに目を逸らして言った。
「怒りの煎餅。」
怒りの煎餅―――ここに来て新しい感情のお菓子登場である。怒りの煎餅って……なんでこんなに赤いんですかねぇ……。恐る恐る食べてみたら。
「辛っ!!!」
「そりゃな?!」
どうして食ったんだ?!と言いながらメイが水を差し出してくれる。怒りの感情は唐辛子煎餅……よく分かりました。怒りだからかあんまり美味しく感じない。
(……そう言えばこの感情は、俺に向けられたものじゃないよな。)
俺の腹をつついたサラマンザラに向けられたものだ。
怒りなんだけど……良い感情じゃないんだけど……。
なんだか胸のあたりがモヤモヤした。
ちなみに舌はヒリヒリする。
「玄米と豚肉の流通ですかー……。」
サラマンザラさんはうーんと首をひねった。
「どちらもわが国ではあまり食べられてないですよね。」
そう言ったのは小林さんである。
「そりゃそうですよ。玄米は精米技術が進歩した我が国にとってはあまりいい食品じゃありません。誇りの問題ですが、大事な問題です。」
ですよねー……。分かってはいたんだが……どうしよう。
「後、豚肉は豚自体が光の国に上手く合わないのか養豚が上手くいかないんです。だからまああんまり美味しくないよ~って言って豚肉をそんなに食べたくない感じにしてたりしまして。」
印象操作ってやつなのだろうか。王都の連中に噂流されるとヤバそうだなと心の中で思っておく。
「やっぱり供給が楽で日常生活の食材に組み込めるいい物は無いのかな……。」
「イノシシはどうだ?山の中にいるし。」
鼻が似てるだろうと小林さんは言った。確かに着眼点はいいと思います。でも……!!
「イノシシは豚肉に比べてビタミンB1の含有量が少ないんです!!」
「なんだと?!何故だ?」
「そこまでは知りません!!」
卒研でそっち系じゃなかったしそこまでは知らない。ただ表を見てイノシシと豚って似てるのにビタミンB1の含有量は結構違うんだな~と思っただけなんです。
「ブタかあ。じゃあ北の草原にいるらしい餅ブタを狩ってみるのはどうかな。」
サラマンザラがそんなことを言いだした。
「北の草原……。」
「まあ主な生息地はそこらしいけど草原だったら結構あちこちにいるからここから北に行って森を抜ければ多分いますよ。」
とりやすくて良いと思うんだ、と彼は続けた。えー……っと。
「あの、餅ブタって何ですか?」
俺の質問に小林さんとサラマンザラはキョトンとした。俺の質問に答えてくれたのはメイだ。
「餅ブタは、主にもち米を始めとした米を好み、人間を襲ってくるモンスターだ。そのせいか餅ブタの触り心地は餅の様でたまに愛玩動物にもなっている。確かに言われて見れば美味しそうかもしれないけど、食べる発想は無かった。」
「あはは!僕としては一回食べてみたかったんですよね~。とにかく餅ブタ狩って成分?調べてもらってビタミンB1とかいうのの含有量みましょうよ。」
ふむ。確かに米が主食であるモンスターならビタミンB1を体内合成できる可能性があるかもしれない。
ならば……!!
「行こう餅ブタ狩りに!!」
俺たちは餅ブタを狩りに行くことになった。