第13キロ 栄養研究所『めいじつ』
ビタミンB1を含む人工的に作ったものといったら……
「栄養ドリンク……?」
サプリという手もありだけどやっぱり液体の方がやりやすそうだ。
瓶は黒っぽい色付きの物を使用して、大豆からビタミンB1を抽出して樹液で味を整えて詰めていく。あんまり美味しくないけど飲めない味じゃないと思う。
「我はきな粉餅の方が好みだ。」
「普通に食べるならそれも良いんですけどね。」
だけど多分、脚気を発病してからきな粉を食べさせるのでは間に合わない。
特に重症化したら、濃く抽出したビタミンB1でも間に合うか微妙だ。でも異世界から来た、知り合いなんてメイくらいしかいない管理栄養士に出来ることなんて限られている。
本当は食事の危険性を声を大きくして言って、豚肉や玄米もバランスよく食べるように言った方が良いのかもしれない。けど……
「大丈夫だろう。下手に動いても事を大きくするだけだからな。」
落ち着いた声でマッチョンがそう言って俺の背中を叩いた。
「マッチョンさん!」
「うん。マッチョンで良いぞ。お前たちは我の恩人だからな。」
何かマッチョンがかっこよく見える。
「もし町で不調なものがいたら、ここの薬が効くと俺が伝えてやろう。」
確かにマッチョンは多分あだ名がつくくらいだからすごい人なんだろう。きっと信頼もあるに違いない。
「ちなみに通り名な。」
どうやら考えていたことが声に出ていたようだ。
「そう言えばメイの商品って何て言って売るの?」
「?」
尋ねれば首を傾げられた。メイ研究所の栄養ドリンク!とか、メイ研究印のもち米とか、商品名もだけど施設名も必要だと思うんだけど。
「そうだな。やはり光の国の南の草原のトウモロコシと聞けば質が良いと思うしな。逆に闇の国のライトポーションはあまり質が良くない気がするだろう。」
何処で生産しているかによって質のイメージも付くんだからやっぱり名前は付けるべきだろう。
「一番楽なのはゴールデ」
マッチョンの言葉を遮るようにメイが俺に言った。
「じゃあ実がつけてくれ。」
「え?」
「俺ネーミングセンス無いけど良いのか?」
「別に悪くないと思うんだけどな。それに――――――どの発明品も、実がいたからこそだから……。だから実が名付けてくれよ。」
俺がいたからこそ……か。
でも俺にとってはメイがいたからこそで……。
メイと実……。漢字で明実……。あけみって読めそうだけど……誰だお前って感じだよな。
「栄養研究所『めいじつ』で良いかな?」
「うん!良いと思う。語呂も悪くないし?」
ネーミングセンスが死んでる俺にしては普通のネーミングだと思うんだ。とりあえず俺たちはビタミンB1の栄養ドリンクをせっせと作ることにした。
ミズタマンが俺とメイにツタで何かを訴えかけてきた。それについていけばどうやら診療所が出来たよってことだったらしい。
「おお。来たか。」
マッチョンもいた。何か暑かったのか上半身脱いでてめっちゃムキムキの体が露わになっている。本当に強そうだよなあ。
「結構綺麗に出来ましたね。」
町に比較的近い場所に小さな小屋が出来上がっていた。
「後は魔力で動く冷蔵庫を持ち込んで栄養ドリンクを少し置いておくか。」
「まあ必要があればだけどな。」
マッチョンは俺みたいな人間だったからビタミンB1不足の症状が出たが、所謂エルフとかドワーフとか亜人とかの栄養事情は分からない。
「ふむ。まあ我はとりあえず町に行ってみるぞ。困っているものがいたらここに来るように伝えておこう。」
「マッチョン……。」
「困った時には大きな声でマッチョンと呼べ。どこに居ても転移魔法で駆けつける。」
マッチョンはそう言って行ってしまった。名前はあれだけど、カッコいい人だよな。
店には人参の使い魔を3体置いておくことにした。誰か来たら呼びに来てくれるようにだ。
「ごめんな。」
「ん?」
メイは店に行く時用につばが大きな帽子を用意していた。多分人前はあんまり得意じゃないんだろう。
「こんな、偽善みたいなことに付き合って貰って。」
ビタミンB1で人をすくおうなんて、無駄に知識を持ってしまった管理栄養士の傲慢だ。そう思っていたらメイは穏やかに微笑んだ。
「大丈夫だ。それに実は脚気だったか?それが蔓延するであろうことを気にしていたんだろ。巻き込まれて嬉しいくらいだ。」
「面倒ごとだと思わないか?」
「思うけど……お前に言われない方が嫌だし。」
メイはそう言うと俺の腹に拳をぶつけた。ぽよんと俺の腹が跳ねる。
「だから、遠慮せずに言えよ?」
そう言って笑うメイからはコロコロとチョコレートな感情が零れ落ちた。
「わかった。」
頷いたらご褒美と言わんばかりにそのチョコレートを一つつまんで口に押し込まれた。
やっぱりチョコレートの感情は他の感情より甘くって美味しくって、今日のチョコレートはどことなくバニラの香りがした気がした。