第119キロ もしもを使ってみました
ダイエットしたいなら筋トレよりも有酸素運動。いや、組み合わせればいいのでは?腹筋後に息を切らしながら天井を見上げ、そんなことを考える。
元の世界に帰れるとか帰れないとかは置いておいて、俺は転生者ではなく転移者なので体は引継ぎである。そのため太ったままにしておくと生活習慣病のリスクがやはり高い。
異世界に来て戦闘とかで命を落とすんじゃなく生活習慣病で命を落とすとかマジ問題。食事制限と運動でやはり痩せるしかない。そう思いながらとりあえず上体を起こしたところで
「実。」
メイが部屋に入ってきた。
……なんか最近もこんなことあったような?いや、一緒に住んでるんだからこういうことは多々あるわけだが、そうじゃなくて
(なんか緊張してるような?)
メイは俺と目を合わせないまま部屋にあった椅子に座る。落ち着かないのか足を上げ、椅子の上に体育すわりをした。ちなみにメイは最初に会った時から普段着は短パンなので安心です。いや、太ももとかは眩しいけどね!!
「実!!」
「はい!!」
メイが大きい声で話しかけてきたので大きい声で返事をする。メイがぴしっとした感じで話しかけてきたので、俺も同じ感じで返していた。
「もしも、もしもの話だぞ。」
「わかった。もしもの話な。」
「もしもな……。その、俺と、例えば、付き合って欲しいとか言ったら……どうする。」
………………………………ん?
なんだか今、幻聴が聞こえたような気がしなくもない。いやいや、俺の都合が良すぎる何かだったな。
あれだな!椅子の上で体育すわりしてるメイが、伺う感じでこっちを見つめてる金の瞳とかさらりと前に流れる感じの金の髪がキラキラし過ぎてるせいだな。
うん。いや、それっぽく聞こえただけという可能性もあるな。えーっと?なんだっけ、付き合う?ああ、もしかして何処かに行きたいとかそういう?
「えっと、何処にって聞くかな?」
笑いながらとりあえず答えてみる。
「……俺が悪かった。」
何故かメイは頭を抱えた。
「え?いや、謝ってもらう必要性はないと思うんだけど」
「言いまわしが回りくどかった。」
メイの金の瞳が俺を捉える。逃げ場を与えるつもりはないというように鬼気迫った瞳。
それなのにメイの方が一瞬逃げ場を探すように目を泳がせた。
「あー……、前提は引継ぎだ。」
「前提。」
「もしもの話!!」
「そうだったな!!もしも!もしもな!!」
メイはもしもの話なのだともう一度念押しを繰り返す。それからメイは俺をもう一度見た。何故だか、その金色しか世界に存在していないみたいな感覚に陥る。メイの瞳が意を決するようにほんの少し細まった。
「俺が、実のこと、好きだって言ったら、どうする?」
息が、
止まった。
はくりと動かした口の中は妙に乾いている。
強い想いを抱いた金の瞳は、まっすぐに俺を見ている。けれど、ただ強いだけではない。メイの口はきつく閉じられている。漂う緊張感は、誰からのものだろうか。
もしもの話。そうだ、これはもしもの話なんだ。
「もしも!!」
「!!」
俺が声を張り上げればメイが肩をびくりと跳ねさせた。
大きい声で話し出したのに、俺の声はすぐにか細くなる。
「もしも、もしもメイが……俺のこと、好きだって言ってくれたら、っ……お、俺は……俺も、好き、だって……言うよ……。」
顔が燃えるように熱くて、俺もメイと同じように体育座りして顔を膝にうずめてしまう。
やっべえ。これは、死ねる!!恥ずかしいというかなんというか!!
心臓がバクバクいっててそれ以外の音が聞こえないレベルだ。なんか息を飲むような音がした気がするけど
「実!!」
「はいぃ!!」
バクバクの心臓を止めるような大きい声でメイが話しかけてくる。最早大声というより何かの叫びのようだ。
「俺は!実のことが好きだ!!」
「俺も好き!!!」
次の瞬間俺は視界が真っ黒になり、目を覚ますと、メイと恋人同士という関係に収まっていた。視界が真っ黒になった原因は溢れたチョコレートだということは後から知った真実である。
一応くっつきました!!この2人をくっつけるのは意外と大変でした。作中で恋人にするかどうかすら迷ってました。なにせ二人とも恋愛に不慣れなので……。