第116キロ 不可逆なことについて
脂肪を燃やすならやっぱり有酸素運動が有効だろうか。腹筋して代謝を上げてから大樹の周りをウォーキングする。
もともとダイエットする俺に対する視線というものはあった。
ニジとかリーダーからの本気?みたいな視線とか。目が無くても感じる視線というものはある。
ミズタマンとトントンは特に何も思わずに見守っているんだけど。
……俺がここ最近気になるのは……新しい視線である。そう、闇のドラゴンの視線だ。
(なーんか、観察されてる気がするんだよな。)
腹筋をしてても、ウォーキングをしてても視線を感じて、見てみるとこの闇のドラゴンがいるのだ。
見定めるように、観察されている。
そして俺とは話せないけど、メイとは意思疎通できるらしいドラゴンは時折何かを話しているようで。
(メイが観察を依頼してるわけじゃないよな……。)
そんなことを思ってしまう。まあ、メイの反応からして闇のドラゴンが勝手にやってることだとは思うんだけど。
闇のドラゴンが実を観察している。
「悪くはないんだけど、持ってる知識も素晴らしいんだろうけど……私のゴールデンフェアリーの方がすっごくかっこいいと思うのだけど。」
「……。」
実験中に話しかけないで欲しい。ビタミンの抽出作業というのは錬金術を使っても大分面倒なものなんだから。
しかも話しかけると言ってもテレパシーだし、明確な言葉というよりは曖昧だけど意思が伝わってくる感じだし。気が散ることこの上ない。
「良いんだよ。実は実で。実だから良いんだから。」
実験道具から目を背けずに言えば闇のドラゴンは
「告白しないの?」
と言ってきた。どいつもこいつも同じようなことばっか言いやがって。
「まあ見た感じ、あれは肉体ごと落ちてきたし横移動じゃなくて縦移動だからもう元の世界には帰れないだろうけど。」
思わず実験道具を置いてドラゴンを振り返る。なんかすごい爆弾発言しなかったか?
「実は、戻れないのか?」
「異世界召喚なら召喚者が戻せるだろうけど、彼の異世界移動は事故だからね。事故の後、元の状態に戻らないことも多々あるだろう。あれが元の世界に帰れないのはそういう類の話だね。」
俺は何というか、なんといえば良いのか分からない気持ちになった。
安心してしまった。それを不謹慎だと思った。
嬉しいと思った。そんなことを思う自分が嫌になった。
実に知らせなくちゃいけないと思った。知らなくても良いんじゃないかと思った。
真実は伝えるべきだけど、悲しませたくなくて……。
そんな俺に何を思ったのか闇のドラゴンは言った。
「あなたにできることは、伝えることだけ。伝えられた事実をどう受け取るか、どう感じるか、それはあちら次第よ。」
だてに年食ってない。俺はため息をついて実験をきりが良いところで中断した。