第114キロ 闇のドラゴン
夜が、ある。
見た感想はそれだった。黒い塊。
その下の影は濃く、夜があるようだった。
シタッパを含む護衛に囲まれた俺たちは迂回して闇のドラゴンの頭の方に回り込む。
顔がどこにあるのかなんて俺には分からなかったけど、シタッパ達にはわかっているらしい。
そうして俺たちは闇のドラゴンの頭側に簡単な拠点を作った。前方には黒い闇の山、闇のドラゴンが見える。危険かもしれないので、毎日途中まで護衛と一緒に闇のドラゴンの近くまで行って、そこから先はメイが1人で行ってドラゴンと話をすることになるらしい。
「大丈夫?!食べられたりしない?」
心配する俺にメイは安心しろと笑ったし、シタッパは万が一のことがあればすぐに闇のドラゴン討伐を始めると言った。だから俺はハラハラしながらもメイを送り出した。
「あのドラゴン、すっごく頑固なんだけど。」
初日帰ってきたメイは不機嫌にそう言った。
一応話すことは出来たが、なんでもやる気がないから心地いい場所から動きたくないと言われたらしい。色々言っていたが要約するとこんな感じだった。
まあ遠くから闇の山を見ていたけど動かなかったから、危険なことにはなっていないのかなと思っていた。
とりあえずシタッパは話すことができたことを喜び、これからも毎日続けて欲しいとメイに頼んだ。
あの人と同じ、金色の妖精。
でも違う。決して同じではない。あの人と同じ人はいない。
それなのに目覚めてしまった。目覚めたくなんてなかった。
どうか、静かに、光が降り注ぐこの場所で死が来る時まで眠らせてくれないだろうか。
「ドラゴンの寿命が尽きるまでなんて、どうしたって待てないんだよ。人間の寿命も、他の多くの魔物の寿命もドラゴンほど長いものはそういない。」
金色の妖精は、そう言って違うところに移動して欲しいと言ってきた。
良いじゃないか。私にだって、最後の場所を選ぶ権利ぐらいあるだろう。
「寿命が尽きなくても死ぬ生物は多くいる。例えば光が届かなくなっただけで死に近づく存在もいるんだ。」
金色の妖精は私がここにいると起こる、多くの不利益を口にする。
けれどそれらは私にとってはどうでもいいことだ。だから、私は動かない。
「まずはお互いを知ることから始めたほうが良いのか?俺は栄養学の研究をしてる錬金術師で、ある日突然やってきた男とこの研究をし始めた。」
さすがゴールデンフェアリーといったところか。新しい概念を、新しい知識を彼女は私に話した。
それは興味をそそられるものだったが、それ以上に興味をそそられる内容があった。
「俺は、自分で何かを作り出したゴールデンフェアリーじゃない。実の手伝いをしているだけの魔力が異常に多いフェアリー族だ。」
彼女が語る男のことだ。
突然現れて、いつ消えるか分からない存在らしい。
彼女はそんな男を好きなのだと、話を聞いているうちに分かった。
動かない私を無機物だとでも思っているのか、彼女は恋心のかけらをこぼす。
零れる感情だけじゃない。彼女の言葉が、すでにきらきらと輝く恋心だった。
ああ、眩しいなあ。
ゴールデンフェアリーの金の羽より、金の髪より、金の瞳より、あなたのその言葉が眩しい。
私もね、好きな人がいたのよ。
あなたと同じ金色の妖精。
友人だなんて言われてしまって、何も言えなかったの。
でも好きだった。
闇のドラゴンは光が強いところが好きだ。
それは物理的な光もいいけれど。それよりも、もっと――――。
そしてなにより私は彼女におせっかいをしたくて、恋の話をしたくて仕方がなかった。
闇のドラゴンは意外と乙女だと思います。