第11キロ 屈強な戦士
思ったより時間通りに投稿できました。途中から目線が変わります。
ここは異世界だから、あくまで可能性の話なんだけど、ビタミンB1不足で起こる脚気がこの国で多くの人に発生するかもしれない。
脚気は死に至ることもあって、日本でも以前は国民病とまで言われた時期があった。
まあそんな話をしてもすぐに打つ手はないのだけど。
「そう言えばドラゴンの肉ってあったじゃん。キメラの肉もだけど。」
「うん。あるぞ。あれから食ってないからな。」
メイはそう言って悟ったような瞳で冷凍庫を指差した。
「あれさ、油で揚げたりまたはハムとかにすればいいと思うんだ。」
「あー。売ってるぞ、ドラゴンのベーコンにキメラジャーキー。」
ドラゴンベーコンとキメラジャーキー……。
「もう商品化されてるんだ……。」
まあ燻製にしたりするのは色々面倒だしご家庭では揚げ物の方が良いと思います。
「揚げ物って?」
「たくさんの油を熱してそこに食べ物を入れて料理をします。」
「へぇ。たくさんの油って……バターでも使うのか?」
メイはコテンと首を傾げた。
「出来なくはなさそうだけど、バターって常温だとどれかというと個体だからなあ。」
それに動物性油だし。なので植物油が欲しい。
「大豆と菜の花から油がとれるはず!」
メイは少し考えると研究室の奥の機械を指差した。
「確か師匠があれで大豆から油をとってた!」
どうやら問題は解決しそうだ。
今日の夕ご飯はドラゴンフライになる予定だ。
とりあえずメイが油を作ってくれている間に俺はちょっと外に出た。
少しずつ日が傾いていく。
木漏れ日の色が緑から黄色に変わっていく。
そんな色彩を見ながら俺は少し考えた。
どうして俺はここに来たんだろう。
異世界転移なんてする要素があったとは思えない。
ただの事故って感じなんだろう。
元の世界には……
「帰らなくていいかな……。」
あのブラックな会社のことを思い出す。帰ったって良い事はなさそうだ。
……それに
「メイと一緒にいたいしなあ……。」
今の感覚を何て言えばいいのかよく分からないけど、メイと一緒に居られたら、それはすごく嬉しい。だってメイの感情はあんなに美味しいんだから。
「ん?」
ふと、少しだけ自分の考えに違和感を感じる。メイと一緒にいたいのは、メイの感情が美味しいから。間違ってはいない。間違ってはいないけど……。
―――ガサッ
近くの草むらから音がして思わず飛び上がる。
「な、何?!」
俺の声に反応したのかぴょんっとミズタマンが俺の横にツタを使ってやって来た。
多分何かヤバいことがあってもミズタマンが俺を守ってくれるだろう。
俺は勇気を出して草むらを覗き込んだ。
「だ……大福ぅ……?」
彼は俺にそう言って手を伸ばして力尽きた。そこにいた彼は、何か筋肉ムキムキで金属製の鎧に身を包んだ、身長2メートルくらいある様な人だった。
「今、俺のこと大福って言った?」
どうやらこの異世界にも大福はあるらしい。
ツッコミどころが違うことは自分でも分かっているのでとりあえずメイに状況を説明した。メイは少し考えてから
「もし感染症なら面倒だな。」
と言って俺に銀色の腕輪を渡してきた。この腕輪をしていると体の周りに薄い膜が張られ病気を防ぐらしい。ちなみにやっぱり動力はメイの魔力です。
野菜の使い魔は基本的に人間の病気にはかからないから大丈夫らしい。
リーダーに男の人(40歳前後だろうか)がお姫様だっこで運ばれている。大変な場面なんだけどなんだかシュールだと思ってしまった。俺たちのベッドに運ぶわけにもいかないので研究室の石の台に布を敷いてそこに寝かせる。
「この人筋肉すごいし、暴れられたら面倒だな。」
「そうだね。俺たちより大分大きいし。」
「なので拘束しておこう。」
「えー……。」
とりあえず男は呼吸はしているようだった。
(少し荒いかな……?)
脈をとってみる。まあそこまで詳しくはないんだけど……。
「少し……早い?」
悪いけど医者じゃないので詳しいことは分からない。脳に障害がなければ今すぐにどうにかなる病気ではないと思うけど。男が少し身じろぎしてかけてあった毛布がずれた。メイが台に固定した足が見えた。
「……むくんでる?」
俺は少し思い当たることがあった。
(この国の現状なら……あり得るよな……。)
申し訳ないが検査の方法は一つしか分からない。違っていたらその時にまた考えよう。
「メイ、考えがあるんだ。」
俺は『屈強な戦士』。光の国でも最強の実力者の一人と謳われる男だ。
各地に現れる魔物を倒し、光の国の東側に来ていた。
米は美味い。特に白米は良い。白い米がちゃんと食べれるようになったのは比較的最近だが、あっという間に国中に広まった。俺もガッツリ食べている。
そんな俺だが、最近どうも体がだるい。特に下半身のだるさが異常だ。足はむくみ、痺れてきていた。しかし、そんなことを俺を頼る方々に言えるわけが無かった。
(だってそんなこと言ったら情けないって思われるかもしれないもん!!)
昨日も俺は魔物を倒した。食欲は無かったが依頼人がお礼だと言ってご馳走してくれたので断れなかった。白米もガッツリ食べた。酒も……昨日は結構飲んだ。
(お酒……強くないけど、断れないんだよね!)
それで今日は……今日も……魔物を倒しに森に……来て、なんだか世界が回って、森が無限ループして……それで……大福があって。
「う……。」
それでどうなった?
体を動かそうとしたが上手く動かない。力を入れても……怠いとかそれどころじゃなくて
(え?何か固定されてない?!)
目を開くと何か座らされるような形で俺は体の自由を奪われていた。手足が何か魔力のこもったベルトで固定されているのだ。
(え?何?!なに?!)
安定しない視界で辺りの状況を見渡す。頭も固定されているようだ。それにしても体がだるいし、痺れもある。一体全体何なんだ!!
「ちょっと寄り目っぽいかな。おはようございます。」
そう言って俺の視界に飛び込んできたのは大福のように丸い男、大福男だった。
「なんだ貴様は!!そこまで太っているなど只者では無いな!魔物か?!」
「人間ですよ!え?太ってるのそんなに珍しい?」
「ドワーフとかならワンチャンだし、町では振り返って見られるくらいかな。」
大福男以外に声が聞こえた。そちらにいるのは金髪のフェアリー……。
「ゴールデン……フェアリー……?」
そう零せば、妖精は俺を見てニヤッと笑い
「ああ、あんた知ってるんだな。まあ良い。すぐに楽にしてやるよ。」
と言った。その手には小さなハンマーのようなもの。もしやマジックアイテムか?!妖精がそれを振り上げたので俺はギュッと目をつぶった。
「え?」
「あー全然反応しないね。」
「やり方あってる?」
「多分大丈夫……。うーん。とりあえず脚気ってことで治療してみよう。改善しなかったらお医者さんに見てもらえるようにしよう。」
妖精は俺の膝にさっきのハンマーみたいなものを当てた。確かめるように何度か。それに脚気?こいつらは何を言っているんだろうか。
「とりあえず、きな粉飲め。」
「そのままがきつかったらお餅に和えるよ!」
俺は状況を理解できないまま、口にパサつく粉を放り込まれた。
屈強な戦士は、屈強な戦士です。40代のナイスミドルな感じです。オネエキャラじゃなく、どちらかというと乙女キャラ。ごついけど心は乙女なノリです。