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☆一九八六年二月九日

 お茶の間にあるブラウン管テレビのワイドショーでは、バレンタイン特集に続いて、七十六年ぶりのハレー彗星の接近について取り上げている。


「もう。陽子ったら、テレビをつけっぱなしにして」


 そう言って、アラフォーの女は、ちゃぶ台の上からリモコンを取り上げ、主電源ボタンを押した。そして、廊下へ向かいながら声を張る。


「陽子。どこにいるの? ちょっとリビングに来なさい」


 すると、廊下の向こうから背中の曲がった高齢の男が姿を現し、女に声を掛ける。


「どうかしたのかね、幸子さん」

「あぁ、おじいさん。陽子を見ませんでしたか?」

「おぉ、陽子か。陽子なら、アタシの部屋にいるぞ。蔵で探し物をしてたら、学生時代の雑記帳が出て来てな。ハリー彗星についての話を聞かせてたところなんだ。実は今でも謎なんだが、その当時、まるで彗星のように少女が現れ、忽然と姿を消してな」

「そのお話なら、私も小さいときに何度も聞きましたよ。――陽子は、奥の和室にいるんですね?」

「おぉ、そうだよ。蔵で、雑記帳を見つけてな」

「それは、良かったですね」


 女は男の話を遮って切り上げると、ずかずかと廊下を奥へ進み、小言を言いながら襖を開ける。


「陽子。リビングを出るときは、ちゃんとテレビの電源を消さなきゃ、もったいない……。あら?」


 女が部屋に入ると、そこには筆で縦書きされた和紙が紐綴じにされた冊子が、半開きのまま放置されてるだけであった。


「もう。こんなところに散らかしたままにして、どこに行ったのよ」


 女は、畳の上から冊子を取り上げて文机の上に置くと、腰に手を当て、小さく嘆息した。ちなみに、その表紙には「桂三郎、ハリー彗星とハイカラ少女の関連性についての私説」という文字が、墨痕鮮やかに書かれている。

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