珊瑚の処遇
「私が死んだら、骨で珊瑚を造ってちょうだい」
それが妻の遺言だった。四十九日が過ぎてすぐ、私は墓の底から妻の骨壺を取り出し、窯業をやっている友人の元へ連れて行った。
人骨で珊瑚を造るなど、理解を得ようとする方が間違っているのは分かりきっていたし、そう簡単に引き受けてもらえるとは当然考えていなかった。結果として友人は、妙に熱い好奇心でもって、妻の願いを引き受けてくれたのだが。
完成した珊瑚は、生前の妻の肌には劣るが、ほとんど同じくらい真っ白で、丁度手のひらを広げたような形と大きさをしていた。あまりにも現実的に造られたいくつもの筋は、私に骨上げの記憶を蘇らせた。若い骨だったから密度があって、案外大きいのが作れたよ。そう言って笑う彼の顔は、まさに芸術家のそれであった。
珊瑚の処遇については、私は妻から何も指示されていなかった。私は珊瑚がぎりぎり入るサイズの水槽を買い、三パーセントの濃度の食塩水に珊瑚を沈め、ベッド・ルームの窓から一番離れた棚の上に祀っておくことにしたのだった。
眠りから覚めた私と、動かない珊瑚の間には、全裸の女が立っていた。私が声をかけると、女は色鉛筆の肌色をした尻を振り、丁寧に視線をこちらに預けてから言った。
「すごいですね、この珊瑚。本物ですか」
カーテンから漏れる早朝の光を真正面に受けた女の瞳は、栄養ある水を欲して乾いていた。
「いや、造られたものだよ」
水槽の食塩水も濁り始めてきた。そろそろ替えてやらねばならない。