表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

珊瑚の処遇

作者: よしかわこうへい

「私が死んだら、骨で珊瑚を造ってちょうだい」

 それが妻の遺言だった。四十九日が過ぎてすぐ、私は墓の底から妻の骨壺を取り出し、窯業をやっている友人の元へ連れて行った。

 人骨で珊瑚を造るなど、理解を得ようとする方が間違っているのは分かりきっていたし、そう簡単に引き受けてもらえるとは当然考えていなかった。結果として友人は、妙に熱い好奇心でもって、妻の願いを引き受けてくれたのだが。

 完成した珊瑚は、生前の妻の肌には劣るが、ほとんど同じくらい真っ白で、丁度手のひらを広げたような形と大きさをしていた。あまりにも現実的に造られたいくつもの筋は、私に骨上げの記憶を蘇らせた。若い骨だったから密度があって、案外大きいのが作れたよ。そう言って笑う彼の顔は、まさに芸術家のそれであった。

 珊瑚の処遇については、私は妻から何も指示されていなかった。私は珊瑚がぎりぎり入るサイズの水槽を買い、三パーセントの濃度の食塩水に珊瑚を沈め、ベッド・ルームの窓から一番離れた棚の上に祀っておくことにしたのだった。

 眠りから覚めた私と、動かない珊瑚の間には、全裸の女が立っていた。私が声をかけると、女は色鉛筆の肌色をした尻を振り、丁寧に視線をこちらに預けてから言った。

「すごいですね、この珊瑚。本物ですか」

 カーテンから漏れる早朝の光を真正面に受けた女の瞳は、栄養ある水を欲して乾いていた。

「いや、造られたものだよ」

 水槽の食塩水も濁り始めてきた。そろそろ替えてやらねばならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ