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揺りかごの中で悠久を  作者: 大葉景華
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第9話

宮本との戦いから1日。渚と若菜は宮本の家にある修練場にて戦い方と自身の気配の隠し方を学ぶためにと戦い方の訓練をしている。ちなみになぜ当初予定していた若菜の家の地下ではないのかと言うと宮本が「若葉ちゃんの家!?行く行く行く行く!絶対行く!」と言い若菜が本気で嫌がったためである。


「さあ、行きますよ、渚君」

「はい、与一先輩」


そう言いながら宮本が弓を引く。その先には渚が構えている。

次の瞬間、宮本が放った矢は渚に向かって一直線に飛んで行く。渚はそれを躱しながら宮本との距離を近づけようとする。


「直線で入らない!的になるわよ!」


そう言いながら二の矢、三の矢を次々と放つ。


「接近戦しかないんだからどうやって距離を詰めるのか考えて!」

「はい!」


直線的な攻撃はいなされ、不慣れな蹴りを放てば合気の餌食。そのような訓練は2時間近く続いた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「はい、終わりです」


宮本がそう言うと、渚は力尽きたように座り込む。


「はぁ……はぁ……はぁ……ありがとう……ございました……はぁ」

「若菜ちゃんを呼んできますわ。ご飯にしましょう」


そういって息一つ乱さずに宮本は若菜を呼びに行く。


(やっぱりこの前勝てたのはほとんど偶然に近かったんだよなぁ……もっと強くならないと……)


部屋の真ん中でポツンと寝転がりながら考える渚。この前の戦闘や清姫との戦いも相手の防御が弱かったり、火力の強化が無ければ決して勝てる戦いでは無かったことは自覚している。しかし、渚の怪異の本質は不死であり攻めとは真逆の性格なのである。


(やっぱりこの前の清姫とやったみたいに炎の龍を纏って攻撃!……てのは上手くいかなかったしなぁ)


あれから清姫の炎を纏い攻撃する方法は何度か試したが制御が上手くいかず渚の体を焼くしか出来ていない。


渚が1人でいじけていると、部屋の向こうから出汁のいい匂いがする。すると若菜がうどんを載せたお盆をもって入ってきた。


「渚。ご飯だよ」

「ありがとう。……ねえ、若菜」


渚の隣に座ってズルズルとうどんを啜っていた若菜が振り向く。


「どうしたの、渚?うどん伸びるよ?」

「うん……僕らはこのままでいいのかなって」

「どういう事?」

「僕にも上手く説明出来ないけど……明らかに僕らは知識不足だ。与一先輩が今はいろいろおしえてくれるけど、やっぱり僕らだけでも怪異に対処できるようにしないといかないからって思ったんだ」

「渚……」

「良い心がけですね」


2人が振り向くと、うどんを啜りながら宮本がこちらを覗き込んでいた。


「与一先輩……」

「怪異の知識はあれば有るだけ良いものです。知っていれば対処は簡単な物もありますし、怪異を知れば己の怪異の使い方もより良くわかるかも知れません。でも今は基本の鍛錬が重要ですよ。お二人共怪異とは長い付き合いのようですし、慣れ親しんではいるけどやはり使い慣れてはいません」


という宮本のありがたいお説教で今日の訓練は締めくくられた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


1日飛んで月曜。二重の意味で重たい足を引きすりながら渚と若菜は登校していた。月曜からテンションの高い生徒などいない。例外なく二人もダラダラと駄べりながら歩いていた。


「若菜は炎、操れるようになって?」


「ううん……まだまだ。練習不足」


「若菜はまだ自分の怪異を自覚して日が浅いからね。それに比べて僕は……」


「そう言えば……渚は一体いつから不死なの?確か、幼稚園くらいの時は転けて膝を擦りむいたりしてたよね?その時は渚痛い痛いって泣いてた」


「う、やな事覚えてるなぁ……。僕が不死になったのは……あれ? 」


渚は立ち止まる。そう言えば自分はいつ頃からこの怪異と共にしているのだろう?若菜の言う通り、幼稚園の頃は平々凡々な人生だったため、生まれつきの怪異では無い。ではいつ?


「……? 渚?」


「あ、うん。ごめん。よく覚えてないんだ」


「へぇ、そんなに昔だったんだ」


若菜は渚の覚えてないをそういう風に解釈した。


そうこう話しているうちに学校に着く。その後は二人とも取り留めのない話をしながらお互いの教室に向かうが、途中で生徒会が何かを話している。


「本日、臨時の集会をしまーす。生徒の皆さんは体育館に集合して下さーい!」


唐突な集会に二人は顔を見合わせる。


「どうしたんだろうね? こんな時期に」


「さあ?まぁ、行けば分かるんじゃない?」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


二人が到着する頃には生徒の大半が既に集合し終わっていた。人見知りモードの若菜に変わり渚がクラスメイトに話しかける。


「木下くん。おはよう」


「おお、青葉、おはー」


「ねえ、今日の集合何か聞いてない?」


「ああ!それがな、どうやら新任の保健室のセンセーが来るらしいぜ!あぁ!どんなお姉さんかな!楽しみだなぁ!青葉ぁ!」


まだ女性と決まった訳では無いというのにこの喜びよう、渚は少し引く。後ろでは渚の制服の裾をつかみながら若菜が汚物を見る目で木下を見る。


「……渚」


「あ、うん。じゃまた、木下君」


「おう!」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


果たして、木下の願いは叶えられなかった。


「と、言うわけで家庭の事情で急遽退職なさった前任の先生に変わり、私。霧雨栄二がこの学校の養護教諭となりました。皆さん、よろしくお願いします」


よく言えば整った。悪く言えば特徴のない顔。中肉中背で髪型も特に目立たない。そんな男だった。


「おい、青葉ぁ……何なんだよぉ……何なんだよこの仕打ちはよぉ!」


希望通りとならず男性教諭だった事に涙を流す木下。周りのクラスメイトにも既にこういうキャラだと認識されており呆れと同情の目を向けられる。


「そんな事僕に言われても……」


「普通保健のセンセーってったら美人でボインのチャンネーだろ!そうだろ!それが何であんなふっつーの野郎なんだよ」


確かに、木下の言う通り渚にもあの教師は特徴のないただの養護教諭に見える。しかし、渚にはどうもあの壇上で浮かべている笑みは信用出来ないでいる。

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