第3話
今回くらいからグロ描写が多めになります。ご注意ください
ふと目を覚ましたら若菜の見慣れた顔が見えた。ただ一つ、いつも違うところは若菜が僕の返り血で真っ赤に濡れているところだ。動こうとするけど体が上手く動かない。かろうじて動く首を伸ばして体を見てみると、若菜以上に血まみれだ。右腕が半分ちぎれている。
若菜は僕が目を覚ましているのに気づかずに僕の体に……なんて言うのだろう?僕には渡らない名前の大きな刃物を突き刺している。よく聞くと、何かをブツブツ言っている。
「渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚渚」
………………おおぅ。若菜の目が虚ろだ。再生しながらの僕の体を抉りながら恍惚の表情で何度も何度も突き刺し続ける。
「若菜……?」
「あー!渚!起きたんだね!大丈夫?頭とか痛くない?ごめんね?ちょっと強く殴りすぎたね?」
「それは大丈夫だけど……ていうかそこは問題じゃないし」
「私ね?ずっと渚のこと好きだったんだよ。でも私……渚が好きと同じくらい渚のこと殺したかったんだよ。好きだから殺したい……殺したいくらい好きなんだよ……渚!愛してるよ!愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」
完全に僕の話は通じていない……好き好きと言いながらも僕を刺している。どうにか体は再生して動けそうだ。
こっそりと体が動くかを確認している間にも、若菜は僕に刃物を突き刺し続ける。痛覚が麻痺してるとはいえ流石に少しは痛い。
幸運にも体は椅子に固定はされていない。これなら!
僕は腹に刃物が刺さったまま勢いをつけて若菜に飛びかかった。あまりにもとっさの出来事で若葉も反応出来ずに僕の突進をそのまま受ける。
僕も勢いを付けすぎて二人とももつれ合うように床に倒れ込んだ!
そのまま僕らは上を取ろうと30秒ほどゴロゴロと転がりながら取っ組みあった。そして体力的に勝る僕が若葉を押さえつけながら馬乗りになった。
お互いにハッハッと荒い息をつきながらしばらく無言で見つめ合う。すると若葉がこんな状態にも関わらず、いつもと何ら変わりない笑顔で僕に話しかけてきた。
「な、渚……私としてはそういう事も渚としたいけど……ちょっと流石に強引すぎない?でも、いいよ。渚が無理やりしたいなら……いいよ?私、初めては渚って決めていたんだよ。渚、愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」
相変わらず話は通じそうにない……!そうだ!アレをしてみるしかない!
小さい頃から若葉はたまに人の話を聞かない時があった。ブツブツと独り言を言い、自分の世界に入っていった時があった。その時は僕がいつもアレをすると元に戻ってくれた。
僕は若葉から下りて若葉を座らせると(意外と抵抗せずにすんなり座ってくれた)正面から思いっきり若葉を抱きしめた!
すると若葉も僕の背中に腕を回して控えめにギュッとしてくれた。僕がハグをすると若葉の独り言は止まるのだ。
どのくらいそうしていただろう?不意に若葉の狂気的な雰囲気が無くなり、いつもの若葉に戻ったような気がした。よかった、元に戻ったようだ。
「若葉?大丈夫?落ち着いた?」
「……な…ぎさ?」
「うん。僕だよ。若葉、またブツブツ独りごちていたんだよ」
「あぁ……うん。覚えてるよ……全部……渚に酷いことしたのも全部……。渚、ごめんね?本当にごめんなさい……」
若葉がえぐえぐと泣きじゃくりながら謝ってくる。僕は別に良いのだけど……この状況はどうしたらいいのだろう?
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若葉が泣きやみ、落ち着いたところで改めてお互い向かい合って座った。若葉はまだ僕に目を合わせてくれない。
思い切って僕の方から聞いてみることにした。
「若葉?」
と僕が呼ぶと、ビクッ!と飛び上がり、若葉が5センチ下がった。
「な、何?渚?どうしたの?まだどこか痛む?」
「ううん、そんな事ないけど……それより、説明してくれる?」
「う、うん……。私の中にはね、化け物が住んでるの。私の心の中には愛する人を殺して自分のものにしようとする怪物がいるの。その怪物が渚を殺そうとするの……。いつもは私が抑えられるけど、渚の秘密を聞いた瞬間、怪物が全力で私の外に出てきて……そこからは怪物が全部やったの……本当にごめんね……」
「もういいよ、僕は死なないし。じゃあ、今までの危ない僕を殺そうとしてたのは……?」
「冗談とかじゃなくて怪物が表に出ようとしてる時のことなの。人格が代わりはしないけど、怪物の性格が少し私にも影響してくるの」
若葉の頭を撫でながら考える……若葉がこうなった原因はなんなんだろう……?幼稚園の時からずっと一緒だったけど何か理由になるような大きな出来事はないはず……じゃあ普通には起こらない事?……!まさか……
「若葉、今から若葉の家に行ける?」
「え?う、うん。大丈夫だよ」
「もしかしたら、若葉の家に行けば若葉の怪物を抑えられるかもしれないんだ!」