第1話
古来より、人はある物を食べるとその物の特性が身につくと信じられていた。
狩猟生活が基本だった時代から、狩りで捕らえた獲物を食べるという事は、ただ単純な栄養摂取と言うことだけではなくその獲物の力を身につけるという思想から来たものでもあった。
宗教的観点からもカニバリズムという行為から、人は倒した相手を食べることでその物の力を得るという事が信じられていたのも分かる。
そんな事とは何も関係なく僕、青葉渚は高校1年生になるまで僕の秘密は誰にもバレることなく生活出来た。
そしてこれからも僕の秘密は誰にも知られることなく僕はこの生活がいつまでも…そう、いつまでも続くと思っていた。僕の幼馴染の不知火若菜に僕の秘密がバレるまでは…
────────────────────
キーンコーンカーンコーンという少し間の抜けた音を聞きながら今日も一日疲れたなぁとか、今日の夕飯は何かなぁなんて考えながら帰ろうとしたら、やっぱり隣のクラスから若菜がやってきた。
「渚、今日も一緒に帰ろ?」
「若菜、もう少しクラスの人と仲良くしようと努力したら?」
「渚に言われたくない」
彼女は不知火若菜。幼稚園どころか生まれた病院から一緒にいる上に、幼稚園からこの高校までずっと同じ学校に通っている。
家の近いことからよく遊んでいたのだが、若菜が引っ込み思案なせいで友達がいなくてよく僕と遊んでいたから僕によく懐いている。軽い茶髪を肩まで伸ばして、制服のボタンを軽く開けている姿は規則に縛られるのを嫌う若菜らしい服装だ。
「若菜、今日こそはクラスに友達出来た?」
「そう言う渚こそ、私にばかり気を使っているけど渚も友達いないでしょ?」
「僕はいいんだよ」
「良くないの」
といつもと変わりなく家までの道を駄弁りながら歩き、お互いの家に着く。
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日」
と、いつも通りの挨拶を交わして僕達は別れる。
────────────────────
今日も一日バレずに済んだ…あとどれだけの期間僕はこの秘密を隠しておかなければ行けないのだろう…
嗚呼、神様、いや、悪魔に頼むほうがいい。誰でもいい…誰か僕を…僕を殺してください。
────────────────────
気づいたら朝になっていた。まだなれない高校生活で気が張っていたのかな…
とりあえず今日も誰にもバレないようにしないと。でもまあ普通に生活する分には僕の秘密はそんなにバレやすいものじゃないだろうし大丈夫か。
そう思ってぼんやりと歩いていたらいきなり後ろからチクッと鋭いものを突きつけられた!
「動くな、動くと殺すよ?」
この声…若菜か。若菜は小さい頃からこんな事をして僕をからかってくる。そのイタズラに僕はいつもこう返す。
「若菜に殺されるなら本望だよ」
そう言うと若菜は満足したのか背中に刺さっているものを除けてくれてそれから僕の正面に回って抱きついてきた。
「嬉しい、私に殺されてくれるのね?」
「若菜、いつまでこのイタズラは続くの?僕達もう高校生だよ?」
「勿論、あなたが死ぬまでよ」
「じゃあ永遠に続くね」
「それは素敵な事ね」
と、いつも通りのやり取りをしながら僕らは学校に向かう。
────────────────────
「起立、礼、着席」
「おーし、授業始めるぞー」
先生の話をぼんやりと聞きながら僕は自分の秘密のことについて考えていた。
僕は今はこうしてバレずに生活ができている。しかし、もし僕の秘密がバレてしまったらどうなるのだろう?どこかの研究施設で永遠に人体実験だろうか?痛いのは少しは我慢出来るけどあんまり痛いのはやだなぁ。
なんて事をぼんやり考えていたらチャイムもなり、今日の授業も終わった。
さて、帰るかと思いながら教科書をカバンに詰め込んでいたら、クラスメイトの木下君が話しかけてきた。
「おう、青葉」
「やあ、木下君、どうしたの?」
「今日クラスの奴で集まるらしいけどお前も来るか?」
うーんクラス会か…行きたいけどあんまり人と関わるのは遠慮したいから。悪いけど遠慮しよう
「悪いけど僕はいいよ」
「ちぇー、ダメかーお前が来てくれたら女子が喜ぶんだけどなー!」
「その分木下君に女の子が回ってくるし、頑張ってね」
「おう!次の集まりには来いよ!」
と言って別れる。
悪いけど次も行かないよ、と心の中で謝りながらカバンを背負うと、もう若菜が教室にやってきて僕を待っていた。
「終わった?」
「うん」
「じゃあ一緒に帰ろ」
若菜に僕の秘密がバレたらどうなるのだろう?彼女の性格的に喜ぶのかもしれない。それならいいのかもしれないな。
と考えていたら若菜が心配するように僕の顔を覗き込んできた。
「渚?どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ若菜。帰ろう?」
これでいい、若菜にも知られない、勿論他の人らにも知られることの無い僕の秘密。永遠に僕にまとわりつく呪いのような秘密。
そんな事を考えていたせいだろう。ぼんやりとしていたせいで信号が赤になっていたことに気づかなかった。トラックが迫ってくる!不味い、非常に不味い。いや、轢かれることなんてそんな事はどうでもいい。それを若菜に見られるのだけはダメだ!僕の秘密が若菜に知られるのだけはダメだ!
たけど、車の速度と人間の僕が走って逃げる速度なんて比べるまでもない。僕が歩道に飛び込む前にトラックが僕の体を突き飛ばした。
トラックに吹き飛びされた僕は少し痛いなと思いながら若菜に秘密がバレてしまうなとと思いながら。道路に転がった。
初めての方は初めまして。ハーメルンで読んでくださっている方はいつもありがとうございます。KeyKaです。今回は完全オリジナル作品を書いてみました。ハーメルンの方も続けているのでどちらも不定期更新になりますが、どうかのんびりとしていってください。