砂時計と時間
砂時計は時間をはかるもの。
私もそうだと思う。
だが、私は砂時計を見ていると自分の人生に見えるのだ。
私達がどう足掻いても叶わないものは時間だ。
誰にでも等しく過ぎて行きいつかは老いる。
其れはその人間の時間は決まっているからだと私は思う。
砂時計も枠の中でサラサラと時間を刻んでいる。
時間設定も様々だ。
だからこそ私は人の人生に当てはめてしまうのだ。
手の中にある砂時計を反対に返した。
さらりと音を立てて砂が重力に基づき落ちていく。
「何をしているの?」
後から掛かった声に私は振り返る。
「何もしていないよ」
「…どうせ君は砂時計でも見ていたんだろう?」
呆れた顔の彼に私は誤魔化す様に微笑んだ。
手の中にある砂時計を彼が取っていく。
すっぽりと開いた手の中に虚しさを感じた。
「返してよ」
私の時間、私の砂時計は私の時間なのだから。
「はぁ…恋人に対して君は冷たくないかい?」
ため息をついた彼の手から砂時計を奪い取り私は手の中に収めた。
「冷たくないよ。君が見舞いに来てくれるのは嬉しいし助かってるよ」
此処は病室であり私は入院患者だ。
死ぬかも知れないし死なないかも知れない病気を患っている。
毎日の検索や点滴、注射などはもう嫌だ。
これから一生こんな生活の中に彼が居るなら少しは私の景色は色付く。
嬉しいが、時に健康な彼の身体を羨ましくも思う。
「うん、また明日来るよ」
そう言って笑う彼を見て矢張り彼が好きだと思う。
何時もの様に来てくれる彼は心の支えになる。
でも、こんな砂時計の様に儚い時間だ。
夢から覚める様に、砂時計の砂が全部落ちる時間は直ぐにくるのだ。
「ありがとう」
心の底を塗り潰して私は微笑む。
本当は早く何処かに行きたい。
彼と出掛けたい。
「身体の具合は大丈夫なの?」
私の心情を察したのか彼がそう言った。
「うん、最近は大丈夫だよ」
大丈夫だ、私の病気は内面からじわじわと侵食されるのだから。
「今度遊びに行かないかい?」
決心した表情で彼が言う。
君は本当に私がして欲しい事ややりたい事を先にしてくれる。
少しだけ泣きそうになり顔を伏せる。
「どうした?嫌だった?」
慌てた様な彼の声が鼓膜に心地良く響く。
「…何処行こっか?」
私は顔を上げて彼に笑い掛けた。
私の砂時計を使わせてあげる。
私の時間を君にあげる。
だから、一緒に過ごした事を忘れないで。