第28話 過去篇その28
シャフリンが街を眺める中、白斗はただ後ろに立ち剣を肩に掛けていた。
アーノルドに守れと言われたものの、敵はほぼほぼ撤退済み、それに加えて怪我した兵士やその護衛がこの城に集まって来ている……正直自分が居なくても良い気はして居た。
とは言えよく考えると居るのは第七位階では無い一般兵ばかり、ユーリは死にラインハルトは戦闘中、レイブラとレスフィルも行方不明……無防備のシャフリンを守るにはやはり自身が適任なのだろう。
白斗は城の屋上を歩き回りながらシャフリンの方を何回も見る、先程戦ったユーリの事……祖父である彼に伝えるべきか否か、ずっと悩んで居た。
懐にしまって居た刃折れした鎌のカケラを取り出し眺める、するとただ黙って一点を見つめて居たシャフリンが突然口を開いた。
「白斗……言わなくても分かっている、ユーリは死んだのだろ?」
魔法陣に手は合わせたまま、首だけをこちらに向けるシャフリン、白斗は突然の言葉に多少は戸惑いつつも静かに頷いた。
「先程魔力の消失を確認した……なに、戦場じゃ当たり前の事だ、私なら大丈夫さ」
そうは言っているが白斗は分かっていた、彼が強がっている事を。
いつもより声色が少し違う、それに震えてもいる……彼にとっては彼女が最後の家族と言っていた、それを失う悲しみは計り知れないだろう。
「シャフリンさん、これ……」
白斗は手に握っていた鎌のカケラを手渡そうとする、だがシャフリンは首を横に振った。
何故、そう聞こうと一歩踏み出したその時、微かにこの城を覆う魔力を感じた。
その瞬間白斗は死の危機を感じた……今まで大きな魔力ですら感知出来なかった自分が感知できる程の莫大な魔力、それは即ちとてつもない魔力という事だった。
「シャフリンさん!」
国民を守っているシャフリンだけでも助けようと駆け出す、だがその瞬間目の前が炎に包まれた。
「あっつ……くない?」
目の前で崩れ堕ちながら業火に焼かれる建物を見て熱さを感じないことに首を傾げる白斗、下を見ると自身の体が浮いて居た。
「何とか間に合ったな」
片手だけを魔法陣に着きながら魔法を継続し、息を切らすシャフリン、国民全員を別空間に守るだけでも多量の魔法を使う筈なのに、あの大魔法から身を守る程の結界を張ってくれたシャフリンの魔力量には脱帽だった。
やがて炎が止み、先程まであった城が消し炭になる、中にいた兵士達も皆……殺された。
「くそっ!」
白斗は何も出来なかった事に剣を投げる、その時下に見覚えのある白髪の男がいる事に気が付いた。
「ラインハルトは死んだぜ?」
ヒラヒラと手を振る男の言葉に衝撃を受ける、第七位階の一位が死……それは殆どこの国が負けると言う事を序列の意味を知らない白斗は意味していると思っていた。
「あいつは……まずいな」
シャフリンの表情が歪む、浮いていた体がゆっくりと地面に向かって下がり下に着くとジルドが笑って剣を抜いた。
「さぁ、どちらから来る?見たところそちらの老人は魔法で手が離せない様子……となるとお前か?」
ジルドは剣を白斗に向ける、だが白斗は地面に投げつけていた剣を拾えずにいた。
理由は圧倒的な実力の差、目の前にして初めて分かる……ジルドが何倍、何十倍にも大きく見えていた。
剣を構えている臨戦態勢になれば確実に殺される、その恐怖で白斗はその場から動けずに居た。
「所詮は一般兵か……それじゃそこの老兵、お前から殺すか」
つまらなさそうな顔をしてジルドは剣をシャフリンに向け変えるとゆっくり近づいて行っていた。
(くそっ……動け、動けよ足、手!)
心の中でどれだけ叫ぼうが意に反して手足は動かなかった。
「終わりだ老兵」
剣を掲げて首元目掛け振り下ろすジルド、しかしシャフリンはその様子を見ずに白斗の方を向いて居た。
「安心しろ白斗……死ねばこの魔法は解ける、ならば解いて彼を殺せば良いだけだ」
そう言ってジルドの目の前から消えるシャフリン、その瞬間ジルドの剣は空を切った。
「ハハッ!まさかそう来るとはな!!」
ジルドは笑いながらも急いで辺りを見回す、するとシャフリンは10メートル離れた場所に上半身裸で全身が黒いまるで鉄に覆われたかの様な姿になって居た。
「その姿……成る程、ただの老兵かと思ったがチート見たいな事するな、お前」
ジルドの表情から明らかに余裕が消える、それにしてもシャフリンのあの姿、少し恐ろしかった。
まるで人間では無いかの様、その時街の方が騒がしくなっているのに気がついた。
「シャフリンさんの魔法が解けたから国民が……」
城の城門を出ると案の定国民が壊れかけの城門目掛けて押し寄せて来て居た。
ジルドはその様子を見て笑う、そしてまたあの魔法陣が今度は国民の頭上に出現した。
「な、何だこれは?」
「人間はいつの時代も煩いものだな」
そう言った瞬間魔法陣が光り始める、その時白斗はエスフィルネが異空間に居たことを思い出した。
そしてシャフリンが魔法を解いた時、こちらに戻って来たということ……つまりそれはあの今にも魔法が放たれそうな魔法陣の中にいる可能性があるという事だった。
「エスフィルネ!!!」
白斗は急いで魔法陣の方へと走って行く、だがジルドはそれを見たからなのかタイミング良く魔法を放った。
「全員死ね!!」
城の城門手前で火炎魔法が国民を包んで行く、その瞬間白斗は崩れ落ちた。
「エ、エスフィルネ……」
目の前で燃えて行く人を見ながら白斗は放心状態になって居た。
「白斗、諦めるのはまだ早いぞ、国民皆は無理だった……だがエスフィルネだけは何とか間に合ったみたいだ」
その声が聞こえ白斗は後ろをゆっくりと向く、するとそこには少し炎に焼かれ火傷はしたものの、エスフィルネがシャフリンの腕に抱かれて居た。
「エス、フィルネ……良かった、良かった……」
涙を流す白斗にエスフィルネは優しく笑い掛ける、だがその様子を見て居たジルドは不快そうな顔をして居た。
「ちっ、まぁいい、そいつ以外は大方死んだみたい出しな」
「あぁ……私の弱さ故に、守れなかった、だからお前は絶対に殺す」
そう言ったシャフリンからは尋常では無い魔力量が感じられて居た。