第27話 過去篇その27
「ちっ、お前ら!ここから離れな、近くに居る死ぬぞ!」
エリディアは大声で兵士達に呼び掛けるとアーノルドの方を向く、彼女の姿を見てアーノルドはまだ違和感を感じていた。
彼女は魔神……そう思って居たがどうも魔力らしきものの禍々しさの中に少し変なものが混じっている、どうも引っかかって居た。
「どうした?来ないなら行くぞ?」
そう言ってハルバードで地面を叩きつける、すると大地は裂けてアーノルドの立って居た場所に大きな谷の様な穴が出来た、だがアーノルドは一瞬で移動すると手を顎に当て考えるポーズをとった。
「どうもおかしいな……」
エリディアと名乗ったあの娘……魔神にしては弱過ぎる。
初めの一発をもらった時、本物なら少なくとも腕の骨が折れた筈、だがアーノルドは至って無傷、だが魔神の魔力を微かにでも感じる以上人間は有り得ない……どう言うことなのかよく分からなかった。
「エリディアとか言ったか……お主本当に魔神か?」
アーノルドは率直に問い掛ける、すると聞かれたエリディア本人は大笑いした。
「アッハハ!!あんた馬鹿だろ、私が魔神じゃなけりゃなんだって言うんだよ!」
お腹を抱えて笑うエリディア、だが次の瞬間、アーノルドの放った言葉によって彼女の笑う声が止まった。
「魔神とは違い微かに感じる血……魔女じゃな?」
魔女の一族は昔から青髪と言われている、だがその中で人を殺す為だけに魔法を使い続けた魔女が赤毛に変わったと言う話が昔あった……だがそれは飽く迄もアーノルドが若い時の話、まさか彼女が本人とは思わなかったがこの静まる反応、図星の様子だった。
「へー、あんた赤毛の魔女知ってる世代なんだ」
ハルバードを肩に担ぐエリディア、彼女から一時的ではあるが戦意は消えた。
「昔起こった魔女の村周辺にある集落惨殺事件の残骸を全て見てきた、じゃがそれは何十年も昔……何故姿が変わらぬ」
「私は人を殺す事に快感を覚えたの、でもほら、魔女とは言え所詮は人間の派生型、だから私は魔神と取引したの」
「取引?」
「そう、言われた人を必ず殺す代わりに魔神の寿命を分けてくれってね、彼らの寿命は何千年と言われてる、そしてそれは人の魂を吸えば伸びる……魅力的じゃない?」
笑いながら言うエリディアの話にアーノルドはキレる寸前だった……皆殺しにされた集落には家族が居た、元々アーノルドもシリズと同じ異国の出身だった。
「人を殺すのは快楽の為、そして延命の為……じゃと?」
「そうよ!人の命なんて所詮は私達力を持つ者の前では遊び道具同然なのよ!!」
そう言って突然ハルバードを構え突っ込んでくるエリディア、だがアーノルドはその場から一歩も動かなかった。
「成る程……だから儂の家族も、お主は本当に幸運じゃ、拳武神の本気で死ねるんじゃからな」
そう言い放ったアーノルド、だがエリディアはもう目の前まで来て居た。
そしてハルバードを振り下ろそうと腕を上げた瞬間、アーノルドが何倍にもでかく見えた。
「な、なに?!」
エリディアの攻撃しようとした手が止まる、その瞬間彼女の胸をアーノルドの腕が貫いた。
「お主は殺してもなんの罪悪感も生まれん……人じゃないからじゃろうな」
そう言ってエリディアに刺さった腕を抜くと蹴り飛ばすアーノルド、かなり痛手を受けたエリディアは一瞬の出来事にあまり理解が追いついて居なかった。
攻撃しようとした途端、アーノルドが何倍にも大きく見えた……だが今は普通サイズ、彼が魔法を使った様子もなかった、と言うことは自分が恐怖をしたと言うことなのだろうか。
「わ、私が……戦いに恐怖を感じたって……言うの?」
血を吐き出し倒れながら言うエリディア、彼女は生まれてから一度も戦闘で恐怖を感じた事が無かった。
故にアーノルドの強さもあまり理解が出来なかった、戦闘で恐怖をしないと言うことは今まで自身より弱い奴としかやって来なかったと言う事なのだから。
「お主はもっと早くに敗北を知るべきじゃったな……今はもう遅いが」
そう言って戦利品代わりにハルバードを拾い上げるアーノルド、その様子を霞む視界で見ていたエリディアは届かない背中に手を伸ばしていた。
「私のハルバード……大切な人から……貰った……」
そう最後に告げて手が地面に落ちる、それを聞いたアーノルドはため息をついた。
「儂もつくづく甘いの……」
持っていたハルバードを下ろしエリディアの隣に置く、いくら人殺しで家族の仇だからと言って一度拳を交えた相手には敬意を払うのがアーノルドにとっての礼儀だった。
アーノルドは最後に両手を合わせて礼をすると本来の目的であるラインハルトを殺した犯人を見つける為オージギア軍の野営地に入って行った。