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転生者狩りの騎士と奴隷の少女  作者: 餅の米
第4章 黒騎士の過去編
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第25話 過去篇その25

「どうした?こんなものか?」



両手を広げ余裕を見せるジルドの前に片膝をつくラインハルト、彼の強さはこの世のものでは無かった。



昔からラインハルトは化け物じみた強さと言われていた……だが相手は本当の化け物、自分なんぞ足元にも及んで居なかった。



「まだだ……」



ラインハルトはゆっくりと立ち上がり両手を合わせ地面につける、すると地震の様に大地が揺れた。



「これは……」



ジルドの表情が少しばかり強張る、先程までは感じなかった莫大な魔力……少なくともジルドに余裕は無くなっていた。



「俺は今まで魔力を使わず生きてきた、理由は使わせる程の奴が現れないから……だがあんたは違う、全力受け止めて貰うぜ?」



今まで何回も戦争を経験した……だが自身の本気を出させる様な奴にラインハルトは出会った事が無かった、だがジルドは違う、寧ろ自分よりも強い……ならば持てるだけの力を発揮しても大丈夫な筈だった。



何も無い辺りの荒野に起こる振動がどんどん大きくなって行く、そしてジルドが動き出そうとした瞬間彼を囲む様に地面が盛り上がりジルドを囲んだ。



「地属性の魔法か……破壊してやる!!」



そう言ってジルドは爆発魔法を発動しようとする、だがあまりにもスペースが狭すぎた。



「終わりだ!!」



ボロボロの体で両手を合わせるラインハルト、その瞬間盛り上がった地面から無数の土で出来た針が飛び出た、そしてその針はジルドを貫いた。



貫かれたジルドはラインハルトを宙ぶらりんの状態から睨みつける、そして生き絶えたかの様に土が消えると地面へ落ちて行った。



ラインハルトはその様子を見ると急いでジルドに駆け寄る、そして息を確認した。



いくら串刺しにしたからと言えど相手は六魔神が一人、死んでいない可能性もあった。



だが瞳孔を確認し、口元付近に手を近づけるが反応は無い……ラインハルトは勝ちを確信した。



「勝った……のか?」



あの伝説の六魔神と戦い、そして勝利した……今思えば危険な戦い、その事に震えが今頃来ていた。



勝利した安堵で地面に膝をつく、だが直ぐに戦争中という事を思い出しラインハルトは立ち上がった。



「街へ向かわなくては……」



剣を拾い上げ街へ行こうと死体になったジルドに背を向ける、その瞬間何かがラインハルトの体を貫いた。



「何が……起こって?」



突然の出来事にラインハルトは現状を理解出来ずにいる、そして貫いていた鋭利な『何か』は抜けるとラインハルトは地面に倒れた。



「まさかこの俺が変身せざるを得ないとはな……お前のこと見くびってたよ」



そう言って近寄ってくるジルドの声、だが彼は先程殺した筈……死体も確認した、なのに何故こうして話しているのかラインハルトには理解出来なかった。



痛む身体の傷を堪えて上体を起こしジルドの姿を確認する、するとそれは白髪の若い兵士ではなく恐るべきものだった。



人らしき体をしているが顔は無く腕は4本……そしてその全てが剣の様に先端は尖り、刃が付いていた。



「お前、その姿……」



ラインハルトは恐れた、死では無い……こんな怪物がこの世に存在していた事を。



今まで当たり前だが人間としか接して来なかった、そんな人間が異形の怪物を見れば起こす反応……それは当然驚きと恐怖だった。



「怖いか?済まないな……俺は魔神、怪物なんだよ」



そう言ってジルドは腕を全て構えて近寄ってくる、そしてラインハルトの身体目掛けて刺そうと地面に向け腕を突き出す、だがラインハルトは横に転がってそれを間一髪でかわした。



「恐怖……していたのでは無いのか?」



先程まで顔が真っ青になっていたラインハルトがまだ生きようともがく事に疑問を抱く、そして首を横に傾けた。



「確かに怖い、死ぬのもな……だが俺の守りたい者を守れず死ぬ方のがよっぽど怖いさ!」



自分は一度大切なエスフィルネの妹、リーシャを守れなかった……あんな思いは二度としたくない、繰り返したく無かった。



その思いがラインハルトを恐怖から立ち直らせ、そして戦う勇気を与えた。



ラインハルトは貫かれた筈の体を起こして剣を握る、その手は若干震えていたものの恐怖では無く直ぐに止まった。



「その心意気、敵ながら見事だよ……」



そう言ってジルドは一瞬にしてラインハルトの背後を取る、そして4本ある剣の様な腕で二度と立ち上がって来ないように串刺しにした。



「……俺の命に変えても、この国は救う」



ラインハルトは刺され持ち上げられても尚生きていた、そして腕を剣で切断すると胸に深く突き刺した。



だが一矢報いた……そう思っているであろうラインハルトを見てジルドは笑っていた、何故なら切り落とされた筈の腕はもう既に再生されていたからだった。



その間約1秒、だがラインハルトの表情は絶望していなかった。



「なんだ……その顔は」



「お前は、もうその姿にはなれない……」



口から多量の血を吐き出しながらいい捨てるラインハルトの言葉にジルドは混乱した、彼は魔法を使った様子は無い、だが言葉通り徐々に変身が解けて行って居た。



「な、何をした?!」



初めて焦りを見せるジルド、それを見てラインハルトは笑った。



「俺の先祖、レイルの次の世代が作った魔を封じ込める剣さ……名前は無いが、安直に退魔剣とでも名付けようか」



「くそっ!呪力を持ってかれた……てめぇ、それを分かっていたのか!」



完全に人間の姿になったジルドは剣を抜くと折ろうと試し見る、だが剣には傷一つつかず、逆にジルドの手が焼ける様な音を立てていた。



この剣はレイルが起こした災厄を知った次の世代の子供が作った世に二つと無い剣、それをずっと代々受け継いでいたのだった。



剣に宿った魔とは異なる聖の力で魔神が変身に使うとされている呪力を封じ込める、そしてそれを解除する方法は何一つ無かった。



剣は悪しき者が触ると聖の力でその身を焼き、折ろうとも絶対に折れないと言われている天使の輪を素材に作られているとの話だった。



「後は……任せたぞ希望の光、白斗よ……」



ラインハルトは空に手を伸ばしそれだけを告げ生き絶える、それを見たジルドは髪を掻き毟った。



「くそくそくそ!!こうなったら皆殺しだ……変身しなくとも俺の力があればやれる、残念だった、勇敢な騎士さんよ」



ラインハルトの死体から腕を切り落とし退魔剣を掴ませるとジルドは怒りに満ちた表情で街の方へとゆっくり歩いて行った。

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