第19話 過去編その19
「どうだ白斗、初めての戦場は怖いか!」
3本の剣を巧みに使い敵の兵士を蹴散らして行くレイブラ、その表情は至って余裕、流石第七位階のメンバーだった。
「今は戦闘で忙し過ぎてそんな感情分からないよ!」
レイブラとは反対に、必死こいて四方から迫り来る敵兵の攻撃を交わして反撃する、剣が人の肉に斬り込まれる時の音と感触……やはりいつ感じても慣れないものだった。
辺りを少し見回せば敵味方問わず人が死んで行く、先程早く戦闘がしたいと息巻いて居たあの兵士も、いつか街中で少し話したあの兵士も……皆んな死んで行っていた。
だがそれにしても能力を持つ兵士は中々出て来ない……元々突撃部隊は彼らの数を少しでも減らす為に今回の戦場では存在する、だがその肝心な能力持ちが出て来なければこちらが先に疲れて突撃隊の意味を成さなかった。
何処かに敵影は無いか確認しようと辺りを見回した時、死の危険を感じ白斗はかなり後退した。
「何だ今の感じ……」
背筋がゾワっとし、死の危険を感じた、ふと横を見るとレイブラも白斗と同様に下がって来ていた。
彼女にも同じ様な物を感じたのか尋ねようとした時、先程まで白斗達の居た地面から大量の先が鋭利に尖った氷が突き出て敵味方関係無く突き刺していった。
「体力減らしご苦労さんっと」
そう言って遥か後方から歩いてくる男、すぐに分かる……転生者だった。
剣に手を掛け先手を打ちに行こうとする白斗、だがレイブラがそれを止めた。
「白斗……嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
額に汗を流しながら深刻な表情で告げるレイブラ、その言葉に息を呑んだ。
「見てみろ、あの男の後方……人が誰も居ない」
そう言って指を指す方向を見る、確かにあの男の後ろには誰も居なかった。
周りでは兵士達が白兵戦を繰り広げているがその奥に本隊が待機している様子も無い……不自然だった。
「まさか?!」
「あぁ、あいつらは突然シャフリン様の結界に感知されずここに現れた、となれば中に居てもおかしくない」
レイブラがそう言った瞬間、街の中で轟音が響き、兵士達がぶつかり合う声が聞こえた。
「早く行け!こいつは私が食い止める!」
遠目だが近付いてくる男を見てそう叫ぶレイブラ、その言葉に白斗は何も言わず走って街の方へと行った。
「物分かりが良くて助かるよ……」
剣を二本抜くと男の方を向き歩き出すレイブラ、そして一定の距離に互いが近付くと両者とも止まった。
「一人で勝てるの?」
「問題ない、そっちこそ一人で大丈夫なのか?」
強気な態度で男を挑発する、そして男が氷の剣を作り出した瞬間レイブラは男に向かって走り出した。
右手に構えて居た剣を男に投げつけると男はそれを上に弾く、そしてその出来た隙を突いてレイブラは反対の手に持って居た剣で斬りかかった。
だが男に後一歩で手傷を負わせられるという所でレイブラは後ろに下がる、するとその約1秒後、レイブラのいた場所に尖った氷が何本も突き出て来た。
「まさかこれを避けるとは……凄い反応速度だね」
余裕の表情でそう告げる男、レイブラは冷静に男の力を分析していた。
どうやらあの能力、速発動は出来ない様子だった。
剣を生成している時も徐々に形を作っていた、その時間およそ5秒……もし仮に彼が氷を生成するのにかかる時間が5秒とするならば大して脅威では無かった、そう思うと昂ぶっていたレイブラの興が削がれた。
「なんかなー、つまらん」
「は?」
レイブラの言葉に鳩が豆鉄砲食らった様な顔を男はする、レイブラは一本踏み込み剣を振ると鞘に収めた。
「何を?」
男はレイブラの行動に身構える、だが時既に遅し、男はその数秒後無数の斬撃を浴びてその場に倒れた。
男との距離は凡そ5メートル、だがレイブラにはまだ射程範囲内だった。
神速の剣技を使うと言われたかつての剣聖フィリアと引けを取ら無かった。
「お前も……転生者か」
レイブラの情けで致命傷は与えられなかったものの、動けない男はレイブラにそう話し掛ける、だがレイブラは何の事か分からず首を傾げた。
「嘘だろ……じゃあその強さは」
「強いて言うなら……生まれた家筋と努力だな」
「努力……まぁいい、俺の事を殺せ」
そう言って諦めその場に大の字になる男、だがレイブラはトドメを刺さなかった。
「な、何故殺さない!?」
その行為に男は驚きで声を荒げる、確かに戦争で相手を殺さないのは失礼……だがレイブラには分かっていた、彼が初めて参加する事を。
そもそもレイブラは殺しはあまり好きではない、ユーリの様に戦争に快感も覚えない、ただ強い者と戦いたいだけ……それだけだった。
「あんたを見逃すと強くなって復讐しに来そうだからな、私は強い奴と戦いたい、それだけだ」
そう言って男に背を向ける、そしてその場から去り白斗の方に向かうとした時、真後ろで凄まじい轟音と共に砂埃が舞った。
「情けねぇ、情けねぇよ……転生者だったか?神から力を授かった癖に負けるなんてよ……情けねぇよ!!」
何度も何度も男の居た地面を泣きながら殴る気味の悪い大柄の男、レイブラは突然の出来事に少し理解が追い付かなかったが良く男の顔を見てみると彼の事を知っていた。
「まさかお前、アヌディスか……」
「覚えてくれたのか、レイブラよぉ」
血のついた手を振り払いヌッと近付いてくる、そして唐突に大きな拳を振りかざした。
「図体の割には速いが……私には遠く及ばないな」
そう言ってアヌディスの後ろに回るレイブラ、だがアヌディスはそれを見て嬉しそうに笑った。
「なまってねぇようだな……5年振りの再戦と行こうじゃねぇか」
そう言って腕の骨を鳴らすアヌディス、それを見てレイブラはため息を吐き、呆れ顔で剣に手を掛けた。