第18話 過去編その18
「ふむ……敵の数は3万、そのうち不思議な力を使う奴らが3000か……部が悪いな」
「ですね、こちらには魔法を使える人材は僅か……どうしたものでしょうか」
白斗から得た情報を元に頭を悩ませる、現在国には第七位階のメンバー全員が居る、だがその中でシャフリンとアーノルドは国民を匿う為戦いに参加出来ない……となると実質第七位階のメンバーは五人しか居ない、メンバー、一人の戦力を敵兵100人と考えても500人、それに加えて敵には魔法の様な技を使う者が3000人も居る……状況的には絶望的だった。
国の全兵力を合わせても半分の1万5千、初めから平地で戦えば負けるのは見えている、だからこそ街に攻め入ると言う情報を聞いても逃げず、逆にそれを利用して待ち受けているのだった。
「そろそろ皆んなを集め……」
「どうされましたかシャフリン様?」
突然シャフリンの表情が変わる、そして次の瞬間シャフリンは声色を変えた。
「敵軍だ!なぜ気が付かなかった……もう敵は10キロ圏内に居る!」
魔法の結界を張り巡らせて居た筈……それも30キロ四方を、なのに敵は急に現れた、これもあの不思議な力の所為なのか……シャフリンは困惑しながらも己の仕事を果たすべく外に居たアーノルドを連れ城の屋上へと向かった。
一方同時刻、メリドの迅速な対応によって知らされたレイブラの言葉によりエスフィルネの部屋でくつろいで居た白斗にもその情報は伝えられた。
「とうとう何ですね……」
「あぁ、気持ちの準備は大丈夫か?」
レイブラが心配そうに尋ねる、正直大丈夫では無いがエスフィルネを、彼女の大好きなこの国を守る為なら大丈夫だった。
「少しエスフィルネと二人にしてもらっても?」
「あぁ、話しが終わったら城内の広場に来い、そこに兵士は集合だ」
そう言って走り去るレイブラ、ふとエスフィルネを見ると心配そうな顔をして居た。
その顔を見て白斗は安心させる為笑った。
「なんだよその顔、まるで俺が死ぬみたいじゃんか」
「ご、ごめん……」
「謝んなって、お前は信じてくれれば良い……あと話すはこれくらいにしよう」
そう言って鎧に着替え剣を手に取る、その言葉にエスフィルネは疑問でいっぱいの表情をして居た。
「まだ時間はあるよ?」
「俺が戦争から帰ってきたらまたいっぱい話せる……その時まで話題は取っとこうぜ?」
エスフィルネに笑顔でそう言うと最後に頭を撫でて部屋の外に出る、するとそこにはユーリが何故か待っていた。
「ビビってる?」
「そっちこそ」
二人で顔を見合わせて笑うと駆け足で下へ降りて行く、皆んなのお陰で怖くはなかった。
こっちには第七位階のメンバーも居る……勝てる、そんな事を考えながら白斗は城内にある広場へと向かった。
城内の広場に着くとそこには無数の兵士達が綺麗な隊列を組み待っていた。
「凄い数ですね……」
ユーリに着いて司令部の方まで付いてきた白斗は近くに居たメリドに話し掛ける、こんな数の人は初めて見た。
「彼らは外で戦う捨て駒の兵士達……だが皆んな志願してくれた勇敢な戦士達でもある」
そう真摯な表情で言うメリド、彼ら無しにはこの戦争は勝てない……大切な戦力だった。
兵士達がざわつく中、一人の爽やかな金髪でオールバックの青年が全兵士達の前に立った。
大きく息を吸い込む青年、すると大声で剣を掲げ叫んだ。
「俺の名はラインハルト、この国で最強と名高い騎士だ、そして生まれはクーロディリス、この国の生んだ誇り高き騎士でもある!」
自身の自慢話を始めたのか……そう思った時話しが変わった。
「この戦争、クーロディリス軍が必ず勝つ、理由は明白、誇り高きクーロディリスの血筋に敗北などないからだ!!」
そう言って剣をもう一度高々と掲げると兵士達もそれに合わせて剣を掲げ雄叫びを上げる、その凄まじい雄叫びに辺りはビリビリとし、白斗の鼓膜は破れそうなほど振動した。
「ハルトにぃも相変わらず派手な演説するなー」
いつのまにか鎌を出現させその柄に顎を乗せながらそう呟くユーリ、だが彼の演説のお陰で士気は格段に高まって居た。
これならもしかすると本当に戦争に勝てるかも知れない……そんな気持ちを胸に白斗は自身の持ち場に着く、そして3000人兵士達を前に白斗は少し緊張した。
「まぁそう緊張するな、私も付いている」
そう言って白斗の背中を叩くレイブラ、白斗の持ち場は戦場で一番最初に戦う突撃隊、それの副隊長だった。
何の実績も無いと最初は反対されて居たが身を呈してこの国を守ったと言う噂が広まり、今じゃかなり慕われている方だった。
「隊長に白斗さん!俺達は準備出来てるぜ!」
「今すぐ行こうぜ!」
気性の荒そうな男達が剣を鳴らしながら戦争を待ちわびている、突撃隊は最初に戦えるだけあって戦闘狂にはうってつけの隊だった。
レイブラは暫く周りを見て状況を確認すると兵達を街の外にある門まで移動させる、そしてそこで近接、遠距離と分けるとラインハルト同様、前に出た。
「この隊は顔見知りばかりだな……だがそれが我が突撃隊の強さを物語っている、今日のセリフも同じだ……」
そう言ってレイブラは後ろを向き、3本ある剣の中の一本を遠目に見えてくるマラドギール軍に向けた。
「今日も生きてうまい酒飲もうぜ、野郎ども!」
レイブラがそう言い放った瞬間、レイブラも含む突撃隊の全員が走り出した、それに遅れまいと白斗も走り出す……とうとう戦争が始まってしまった。
どうか無事死なず……勝利を収められる様祈りながら白斗は剣を抜いた。