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転生者狩りの騎士と奴隷の少女  作者: 餅の米
第4章 黒騎士の過去編
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第13話 過去篇その13

「そろそろ行くか」



エスフィルネの過去話で暗くなった雰囲気を変えようと手をパンっと鳴らし立ち上がった。



今の時間は大体昼頃だが白斗達が座るカフェのテーブルには空の食器が大量に置かれている、少し早いがお昼は終わった……となれば後は何処に行けば彼女の暗い表情が明るくなるだろうか。



腕を組み考えるがこの街に来て凡そ一年程の自分にはあんまり良い案は浮かばなかった。



「白斗さん!白斗さーん!!」



一先ず場所を移そうとカフェの外に出た途端聞こえて来た青年の声、その声がする方向へと視線を向けると一人の兵士がそこそこの重量がある鎧をガチャガチャと鳴らしながらかなり焦った顔色で走って来ていた。



「どうかしましたか?」



白斗の前で息を切らせている兵士の青年を心配しながら要件を聞く、彼の焦りようを見るとただ事では無いのは分かった。



「はい、お休みの所大変申し訳ないのですがシャフリン様がお呼びです!」



「シャフリンさんが……だけど」



今はエスフィルネとの久し振りとも言えるデートの最中、少し昔話しで暗くはなったがそれでも楽しみにして居たのだ、あまり邪魔はされたくなかったし、そのデートを中断されるなんて以ての外だった。



エスフィルネの方を見た後に兵士の青年に断ろうと視線を戻す、その時エスフィルネが白斗の肩を叩いた。



「白斗、行ってきて」



「エスフィルネ、でもデートは」



「大丈夫、このデートの分、埋め合わせはしっかりしてもらうから!」



笑顔でそう言ったエスフィルネ、それでも行くのを戸惑っている白斗を見ると少し怒った様な表情になった。



「もしかしたらこの国の存続が掛かる話かも知れないよ?それでも白斗は行かないの?」



「それは……」



「私の事は良いから早く行った、行った!」



そう言ってエスフィルネに背中を押されて少しよろける、彼女がそこまで言うならば行く他無いのだろうと白斗は仕方無く首を縦に振った。



「分かった行ってくるよ……埋め合わせはちゃんとする、だから待っててくれ」



「うん!」



笑顔で手を振るエスフィルネを横目に兵士の青年を先頭に城へと駆け足で向かう、それにしてもシャフリンからの呼び出しとは何のようなのか……見当もつかなかった。



「白斗さん、俺はエディンって言います!以後お見知り置きを!!」



走りながら元気にそう言うエディンと名乗った青年、正直彼の名前はどうでも良く、頭の片隅にでも置いておいた。



暫く街を走り城に着くと急いで階段を駆け上がる、第七位階が集まるいつもの部屋へと行くとその扉の前に見慣れない男が立っていた。



「ん?君は誰だい?ここは第七位階のメンバーしか入れないけど」



軽い口調でそう尋ねる男、口調は軽いが殺意がこもっていた、彼は只者では無い……そう一瞬で感じた。



「ラ、ラインハルト様!」



「君はたしか……シャフリンさんのパシリだっけ?」



「大体は合ってますけどその言い方は……」



「はっはっ、ごめんごめん、でそこの人は誰?」



「彼は白斗さんで森の魔物を手懐けた人です!」



エディンのその言葉に表情が変わる、何処と無く怖い雰囲気になっていた。



「エディン、少し外してくれ」



白斗はそう言ってエディンを先に中へと入れる、するとラインハルトが一瞬で距離を詰めて来た。



「怪物……ねぇ」



そう言って目でも追えないほどのスピードで近づいてくる、だが白斗はあたかも見えていたかの様に振る舞った。



暫く無言の時が続く、その時ラインハルトが口を開いた。



「アーノルドさん、元気だった?」



突然口を開いて初めて白斗に言った言葉がアーノルドの事、白斗は少し戸惑った。



「まぁ元気でしたよ」



「そっか、それは良かったよ……あの人も長く無いからね」



ラインハルトのその言葉にエスフィルネが話していた過去の話を思い出す、あの時は第七位階にも入っていなかった彼が今は一位に……凄いものだった。



初めて見た時は彼の凄まじい殺気と命の危険で気が付かなかったが、良く名前などを聞けば直ぐに誰か分かるはずだった、それにしても彼が居ると言う事は今回の件……かなりの大ごとという事だった。



「第七位階、一位の……ラインハルトさんですか?」



念の為確認を取っておく、するとラインハルトは至って普通の笑顔で『そうだよ』と答えた。



そして扉を開け中に入って行く、その後について行くと中はすごい光景だった。



長い机の両脇に序列順に第七位階のメンバーが並び、一番ど真ん中の今来たラインハルト以外の席が皆埋まり揃って居る……こうしてみると凄い光景だった。



ふと三位の椅子を見るとアーノルドがめんどくさそうな表情で座っていた。



「やっと来たか……早よ座れラインハルトに白斗」



ラインハルトの方をチラッ見てすぐに目を閉じ腕を組む、1年間一緒に居た白斗には分かった、ラインハルトに久し振りに会ってアーノルドは少し喜んで居た。



「凄いなー、俺も含め全員集合……あ、ユーリ第七位階に入れたんだな」



「私は天才だからね、それよりハルトにぃ早く座って」



「はいはいーっと」



そう言って椅子に座るラインハルト、メンバー外の白斗は入り口付近にあったボロボロの椅子に腰かけた。



ラインハルトが来たことによってざわついて居た部屋が静かになりシャフリンが一通り辺りを見回す、そして咳払いをすると立ち上がった。



「今回集まって貰ったのは他でも無い、戦争だ」



予想通り、何も驚く事は無かった。



ここ数年は均衡状態が続いて居たが、最近また頻繁にオージギアが攻めてくる様になった……戦力的には両者ともかなり消耗して居る、恐らくつぎの戦争で終わりに近かった。



「シャフリン様、一つ……質問してもよろしいですか?」



「メリドか、なんだ?」



メガネをクイっと上げて立ち上がると大きな紙を机したから取り出す、そしてテーブルに広げた。



「次の戦場はこの国……そうシャフリン様は仰りました、ですが15万の国民は何処に避難を?」



15万人が逃げれそうな場所を探したのか、ばつ印が大量に付けられた地図を指差してそう言う、そもそもこの国が戦場になる事自体驚きだった。



何故自国で戦争をするのか、建物や宝物が盗まれる可能性があると言うのにも関わらず……確かに地形が自分達にはよく分かると言うメリットはある、だがデメリットの方が大きい気がした。



一人で腕を組みそんな事を考えて居るとシャフリンが少し間を開けて話し始めた。



「その点は安心しろ……私の異空間魔法で国民を避難させる」



「異空間魔法って、15万人も逃げさせるとなると……シャフリン様は」



「この場から動けん、だから護衛にアーノルドを付ける、此奴は戦場で暴れる力は無いが居るだけで戦意が上がる」



そのシャフリンの言葉に白斗はある違和感を感じた、何故第七位階のメンバーはアーノルドの事を怪物と認識して居ないのか……そして何故国民は逆に怪物と認識して居るのか、不思議だった。



「催眠を解かれるのですか?」



メリドがそう言うと頷くシャフリン、会話が進んで行くたびに謎が増えていった。



「実を言うとつい先程オージギア軍がこちらに進軍中と言う情報を手に入れたばかり……だから皆んなを急に集めて会議を開いたと言う訳だ」



「こ、こちらに進軍中ってお爺様!到着はいつ頃なんですか?!」



「早くて4日後……と言ったところだな」



そう言うシャフリン、4日はあまりにも早すぎた。



あの第七位階のメンバーシリズが死んだ戦争がまた始まる……そう思うと恐怖は多少和らいだが不安がまだあった。



第七位階のメンバーが話すのを聞き流し戦争の事を考え続ける、人を斬ったあの感触……自身に飛び散る返り血、忘れられない感覚だった。



どちらかと言うと平和主義な性格……だが何故だろうか、戦場は妙にワクワクした。



人のを命を奪うのが楽しいわけではない、そんなユーリの様な狂った発想では無く……自分が生きて居ると戦場では実感出来た。



この世界に来た時からあまり現実味が無く、ずっと夢なのでは無いのかと心の何処かで思っていた、だが戦場はそれを現実と思い出させ、しっかりと生きて居る事を実感させてくれた、そんな戦場を待っている自分が少し居た。



怖い……白斗の表情が暗くなる、その瞬間シャフリンによる解散の声が聞こえた。



「白斗、お主ちゃんとあれから修行しとるか?」



終わるや否や近寄ってくるアーノルドの言葉に苦笑いする、正直そこまで修行はして居なかった、何処か……自身の力を過信している部分があった。



「ったく……まぁいい、儂はエスフィルネにでも会ってくる」



そう言って去って行くアーノルドの背中を見つめる、戦争まであと4日……少し外に出たくなった。



城の外では無く、街の外へと……白斗は一人剣だけを片手に導かれる様に城門を潜り抜け街を歩いた。



何も知らない街の人々は相変わらず明るい、賑やかな街だった。



「この国、絶対に守りたいな……」



「当たり前よ、てか異国民のあんたにそんな感情あったのね」



一人、ボソッと呟いたつもりが聴き覚えのある声で返事が聞こえる、後ろを振り返ってみるとユーリが鎌を担いで後ろをついて来て居た。



「ユーリ、何の用だ?」



「用って言うか……まぁちょっと私も外に行こうかなって」



石ころを蹴り歩きながらそう言う、やはり彼女も17歳、いくら戦闘狂と言っても不安はある様子だった。



「まぁ何でも良いよ……」



そう言って先を歩く白斗、ユーリはその背中を早歩きで追い掛けた。

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