第12話 過去篇その12
「困った事になったの……シャフリン」
上を見上げ言うアーノルド、それと同様にシャフリンを上を見上げて頷いた。
紫の結界の中で倒れこむエスフィルネ、何があったかは知らないが骸骨の動きが完全におかしくなった。
他の第七位階メンバーが国民を避難させたという事もあるのだろうが骸骨があからさまにエスフィルネを守ろうと中心に集まって来ていた。
「シャフリン、儂に攻撃の付与を頼む……この骸骨どもを一掃してくれる」
無言で頷いて中に浮くシャフリン、そして杖をアーノルドに向けるとアーノルドの体が赤く光った。
見る見る力が漲る……魔法の神と呼ばれるシャフリン、彼の真髄は攻撃魔法では無く味方や敵にもたらす付与魔法にあった。
随分と前の戦場ではシャフリンと共に攻撃付与のみで敵軍2000を壊滅させたのが懐かしい……そんな感傷に浸っていると目の前に骸骨がいつのまにか来ていた。
だがアーノルドは余裕の表情で笑うと地面を殴る、すると地が盛り上がり辺りにいた骸骨達を一掃した。
とは言え倒したのはほんの一部、しかも復活する……辺り一面に広がるゆうに1万は超える骸骨の軍団にアーノルドは少し困った表情をしてため息をついた。
「キリがないの……仕方がない、使いたくは無かったが使うかの……」
「まさか……アーノルド、禁忌を犯すつもりか!?」
「この量を見ろシャフリン……儂はこの国が大好きだ、国民も……だからこの国を失うのは耐えられん」
上を見上げてシャフリンにそう言うアーノルド、その間にも破壊された骸骨の兵達は再生し始めていた。
「闘武モード……」
そう言ったアーノルドの身体から光が満ち溢れる、闘武モード、それはアーノルドにしか使えない武を極めた者の証し、数十年前にとある所で習得した技なのだがその代償が凄まじかった。
代償、それは魔力と寿命。
10年と言う寿命を削り発動、そして魔力を消費して闘武モードを持続……消費した魔力は勿論戻らずその消費の量も半端では無い、アーノルドは魔力が無くなるのを覚悟で発動していた。
「一気に方を付ける!シャフリン、骸骨を頼む、儂を巻き込んでも構わん!」
そう言って結界に向かって風よりも速く骸骨の隙間を走り抜ける、そして結界の前に一瞬で着くとアーノルドは拳を握りしめる、そして無音のパンチが結界に触れた。
結界にほんの少しの傷が入るのと同時に凄まじい轟音が遅れて聞こえてくる、音を置き去りにする程のスピードに加えて大地をも裂く力……それを持ってしても軽い傷だけ、その時辺りを業火が包んだ。
シャフリンの火炎魔法がアーノルドをも一緒に攻撃するがアーノルドは何も感じなかった、寧ろ緩いくらい……それ程に闘武モードは桁外れに強かった。
「元々儂は魔力が多い方では無いからの……持ってあと3分か」
「どうするんだアーノルド、今の全力じゃないのか?」
「全力じゃな、儂だけなら……シャフリン、神のエンチャント行けるか?」
上を見上げてそういうとシャフリンはその言葉に驚きを隠せて居ない様子だった。
それもそのはず、神のエンチャントとは最上級付与魔法で最も神に近い力を一時的に得られる魔法だった。
その効力は闘武モードと同様かそれ以上、だがその分リスクも半端では無かった。
術者は何も無いが付与された側は力を得る代わりに凄まじい負荷が身体に掛かる、第七位階のメンバーでも一発、敵を殴れば全身粉砕骨折は免れないだろう。
だが今、闘武モードで無敵状態のアーノルドにはその反動はゼロに等しかった。
「神のエンチャントを使う時が来るとはな……アーノルド、お主は最高の相棒だ」
楽しそうな笑みを浮かべて杖を捨てると両手を合わせて合掌する、するとシャフリンの周りに紫がかったオーラが視認できた。
あれが魔力……目に見えるほど魔力が膨らむのはこの世界で数える程しか居ないだろう、アーノルドはそれを見て笑っていた。
「行くぞアーノルド、『神のエンチャント』発動!!」
シャフリンがそう言うとアーノルドの光っていた身体がより一層、神々しくなる、頭の後ろで結んでいた髪も紐がほどけ白い髪が靡く、魔力量的にも次が最後の一発だった。
「この一発に全身全霊を込める」
爪で手から血が出るほどに強く拳を握りしめる、そしてアーノルドは大きく腰を捻ると全力で結界を殴った。
すると結界は先程とは比にならない程の轟音と、風圧を上げる、そして結界には大きなヒビが入って行った。
そのヒビはドンドン大きくなって行く、アーノルドとシャフリンは破壊したと安堵した……がその時、ギリギリの所でひび割れが止まった。
「な?!」
「あの一撃で壊れないとはなんて防御力だこの結界は!」
シャフリンの顔が絶望に変わる、だがアーノルドはまだ諦めて居なかった。
神のエンチャントは術者が魔法を解くまでは継続する、アーノルドは結界に向けて一発撃てば死ぬ程の力を何発も……打ち込んだ。
「アーノルド!!」
絶望して居たシャフリンがアーノルドの行動を見て咄嗟にエンチャントを解く、するとアーノルドは血だらけの腕をダランとさせてその場に立ち尽くした。
すぐ様シャフリンはアーノルドの元へと駆けつける、すると結界はいつの間にか跡形も無く消え去り、骸骨達は光へと変わって行った。
「アーノルド、やったぞ!生きてるかアーノルド!」
「生きておるよ……身体はボロボロじゃがな」
「あいも変わらず化けもんだな」
互いに顔を見ると笑い出す、だがアーノルドはエスフィルネを見ると険しい表情になった。
「シャフリン、頼めるか?」
「なんだ?」
「エスフィルネは今後、険しい道を行く、黒魔法の継承者としてな、だからお主が守ってやってくれ……」
その言葉だけを残しゆっくりと、立ち上がれるはずも無いのに立ち上がるアーノルド、そしてヨロヨロとした足取りで歩き出すと森の方へと向かって行った。
「何処へ行くアーノルド!」
「儂はもうじき死ぬ運命、のんびりと森の中で余生を過ごすんじゃよ……国を頼んだぞ、戦神かつ英雄のシャフリン」
そう言って手を振って去って行くアーノルドをシャフリンは仕方無さそうな表情で見つめて居た。
ーーーーーー現在ーーーーーー
この出来事から三年、街は見ての通り復興を果たした。
肝心なこの出来事を起こした張本人のカラサスティンは2年前に魔法部隊を引き連れマラドギールに攻め入った際、貴重な魔法部隊と共に全滅、戦死した。
エスフィルネは当然と言うべきか、この国から嫌われた、死をもたらす黒魔法の継承者として、処刑の声すら出るほどに。
そしてエスフィルネの妹リーシャはラインハルトと任務中、何者かに連れ去られ行方不明に……これがエスフィルネの過去と妹の話しだった。
「私の過去と妹の話しはこんな所かな」
壮絶な過去を語った後にそう言って笑うエスフィルネ、その姿に白斗は泣くのをグッと堪えた。
「そうか……辛い事聞いたな」
「白斗にはいつか話そうと思ってたし良いよ」
暗い表情をする白斗にそう言って手をパタパタさせる、その時白斗はある事を思い付いた。
「そうだエスフィルネ、この戦争が終わったら国をでないか?」
「国を……?」
「そう!この国を出て妹を探すんだよ、それにお前も俺も外の世界を知らない……良い冒険になりそうじゃ無いか?」
白斗の突然の提案にエスフィルネは何故か目から涙を零して笑って居た。
「何で白斗はそんなに優しいの……私は私は……」
「言っただろ、魔女でも何でも関係ない……エスフィルネはエスフィルネ、俺が好きになった唯一の人だよ」
そう笑顔で言った白斗の表情を見て子供のように声を上げて無くエスフィルネ、彼女の隣に白斗はそっと座ると頭を撫でた。
彼女の事は何があっても、命に代えても守り抜く……そう誓った。